「現場のスタッフには“意志”をもって働いてほしい」と語るのは「旬鮮酒場 天狗」といった居酒屋・外食チェーンを経営するテンアライドの飯田永太社長。「こんなお店にしたい!」というスタッフの意志が強い店は、人も育ち、売り上げも伸びるそうです。
「私が社長となり、どうしたらよい店ができるか、を考えた結果の答えが『各店舗に強い意志をもってもらう』ことでした。また、弊社は『商品を売ることで店を成功させたい』という考えが強い企業です。そこでまず、創業以来44年間、最も力を入れている看板メニューの肉豆腐を、みんなで一生懸命売ることに取り組みました。味には自信があり、食べていただければ必ず感動してもらえるはずと信じていましたので」
一度にたくさんのことはなかなかできない。まずはできることから。肉豆腐の感動が他の商品への売り上げ、ひいてはリピーターの獲得にもつながるはず。「教育に即効薬はない」という飯田社長自身も、まず肉豆腐の重要性だけをコツコツとスタッフに伝えていきました。すると実際に肉豆腐が売れる店は、全体の売り上げも伸びていったそうです。
「肉豆腐をきちんと売ることができたお店は、たとえば注文を受ける時も『当店の肉豆腐いかがですか?』とお客様にうかがい、下げる時にも『お味はいかがでしたか?』と一言を添えたりしている。『どうしたら売れるか』と一生懸命考える店長の熱い思い、つまりは強い意志のもと、毎日継続してスタッフにもコツコツ、語り続け、工夫を重ねているんですね」
その成功体験は、スタッフを大きく成長させました。
「肉豆腐で得た『どう売るか?』という意志は、スタッフの考える力も育てます。たとえばお客様への要望に対する柔軟な対応も、自然とできるようになる。外食業界にはマニュアル教育が多いですが、いきすぎると危険。スタッフの考える力が育たず、想定外のことが起こった場合に対応しきれずフリーズしてしまうのです。状況を自分で判断し、お店の意志をもって接客するのがベスト。だから私の仕事は『肉豆腐が売れればお店は軌道に乗る!』という未来への筋道を示し続けること。いわば考えるきっかけを与えることなんです」
成功の秘訣は継続すること。それは簡単なことであっても意外に難しい。肉豆腐の話は、まさにその好例のようです。そんな、ある意味「無理しすぎず、できることをコツコツ続ける」という姿勢は、テンアライドの事業内容の節々に見えます。たとえば店舗の急速な拡大をしない、深夜営業をしない。
「以前、株主総会で『株主、お客様、従業員の3つに序列をつけるとどうなるか?』と質問されたんです。私の答えは第一に大切にするのは従業員。そして2番目がお客様で、3番目が株主でした。驚かれるかもしれませんが、従業員を大切にし、よい会社だと感じてもらえれば、彼らはよいサービスを発揮してくれる。するとお客様にも満足していただける。そうやって業績が上がれば、結果的に株主も喜ぶ、という流れができる。これは私の信念でもあります」
だから、従業員に無理を強いるような経営はしない。実は飯田社長、過去に一度、急速な事業拡大を試みたところ、様々なところで無理が生じ、業績を悪化させてしまった経験がありました。その反省が今の姿勢につながっているそうです。
「たとえば有給休暇に関しても、全員がきちんととれるよう『夏休み冬休み大作戦』という試みをずっと行なっています。モラルが下がると企業はおしまい。よい企業を作らないとよい人材も集まりませんからね。『身の丈の商売』と先代の会長がよく話していましたが、今後の出店計画も、それを守ることを心がけています」