ボウリングにスポッチャ、カラオケなど、さまざまなアミューズメントを1カ所で楽しめる複合型レジャー施設「ラウンドワン」。幅広い年齢層から人気を集め、現在は国内に105店舗、北米で31店舗と拡大しています。
ラウンドワンは、杉野社長が20歳の頃、傾きかけた家業を継いだことから始まりました。
「実家はもともと別の事業をしていましたが、新しくローラースケート場を始めたんです。家業レベルではあったのですが、なかなか経営がうまくいかず従業員にも辞めてもらわなければならないような状況でした。私もウェイターのバイトをしていましたが、それなら手伝いなさいと言われて。うまくいっていないことは明らかでした。閑散とした現場にいると、店番ながらに考えるようになるんです、どうすればもっとお客様に来ていただけるのかと。工夫や提案をしたりもしました。ところが父はたたむつもりだった。だから申し出たんです。私に経営させてくれと」
当時はまだ学生だった杉野社長。いきなり会社を経営するということについて、迷いなどはなかったのでしょうか。
「もともと大学を卒業したら普通に就職するつもりでした。家業を継がなければならない立場でもなかったので。ただ、どこかで商売をしたいという気持ちはあったのかもしれません。お客様がいない現実を目の当たりにして、この状況をなんとかしないといけないと思ったことが、商売人としての道を決めたのでしょうね。誰かに“これをやりなさい”と言われたままでいられない、というのが経営者の性分なのかもしれない。自分なりにやっていこうという覚悟です」
杉野社長はそこから鮮やかな巻き返しをはかります。「ローラースケートだけをする場所」ではなく「ほかにも数ある遊びのなかからローラースケートを選べる」ような場所にする。現在のラウンドワンの、複合施設としての形態がそこから始まったのです。
「経営については素人でも、どういうシチュエーションでどんな遊びなら楽しいかということは、自分に置き換えることで見えてきます。ローラースケートだけ、というような特別なビジネスにしてはいけないと思ったんです。不特定多数、最大公約数の方々と長く付き合える方法。それが遊びと遊びの組み合わせだったわけですね」
杉野社長が繰り返し語る、「自分なら」という姿勢は、現場で働くうえで最も大切にしてほしいと語ります。接客についても特に意識されているそう。
「最近、世間では“おもてなし”や“サービスの向上”などが声高にうたわれていますよね。けれど私は、一番大切なことは“お客様を不快にさせないこと”だと思っています。たとえ99個の素晴らしいおもてなしがあっても、たったひとつの不快な出来事があったら、お客様にはずっとその不満が残る。だからこそ、ニーズを汲み取らなければいけない。たとえば、デートで遊びに来ているのに、隣のレーンが若い男性同士のグループだったらイヤですよね。そういうときは、ちょっと離れて遊んでもらうように従業員がアレンジすればいい。接客というのはマニュアル通りにすればいいわけではありません。自分が消費者となったときに、いやだな、つまんないなと思うことを排除するように考える、それが基本なのです」
数は多くありませんが、現場スタッフから正社員への登用もあるといいます。スタッフに求めるものとは何なのでしょう。
「やはり自分で考えて動く、ということが一番大切だと思います。お客様の気持ちに気付いて、トータルの空気を見て、自分のフォーメーションを変化させて……。もしお客様からのクレームがあったとしても、そのセクションについては責任をもつという意識も重要。そこでベストを尽くすこと。それしかないんです」