スマートフォン用サイトを表示

アルバイトや転職に役立つ情報が満載!最新のお仕事ニュースなら【タウンワークマガジン】

2015年03月25日

とんねるずのリハーサルを見て確信したこと│岩崎夏海

見てきた

『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』作者の岩崎夏海さんが、混沌とした現代をどうとらえればいいのか? を書き綴っていく社会評論コラム。この記事は岩崎夏海メールマガジン『ハックルベリーに会いに行く』よりお届けします。

クリエイターになるためにしてきたこと

人は成長したいのだろうか?
よく分からない。
ぼく自身を振り返っても、「成長したい」と思った記憶はない。ただ、絵が上手くなりたいとか、野球が上手くなりたいとか、ものをもっとよく知りたいとか、そういうことは思ったかもしれない。

ぼくは高校生のときにクリエイターになりたいと思った。小説家か映画監督になりたいと思った。しかしそのとき、すぐに小説を書いたり映画を撮ったりしなかった。それよりも勉強をしたいと思った。なぜかは分からないが、ぼくはやってみるよりまず先に勉強したいと思ったのだ。特に、大学でそれを学びたいと思った。

ところが、日本の大学には小説や映画を学べるところがなかった。そこで、アメリカの大学へ行こうかと考えた。しかし、アメリカの大学まで行ってもそこで満足のいく教育を受けられない可能性を、僅かながら考えた。それが怖かったので、わざわざアメリカまで行くことはないかとも思ってしまった。

それよりも、独学で勉強できるのではないかと思った。そう思ったのは、本があったからだ。高校のとき、映画についての本を読んだ。フィルムアート社から出ている「映画の教科書」という本だ。
この本を読んで、いろいろ目から鱗が落ちる思いだった。それで、この頃から本に夢中になっていった。本への信頼が増し、何か勉強したいことがあれば、本を読めばいいだろうと思うようになったのだ。

しかしぼくは、なぜだか本だけでは満足できなかった。もっと刺激的な人に会いたいと思った。それで、そういう人がいるところへ行こうとした。
大学は、それなりに努力して東京芸術大学に入った。だけれど、受かる前からある程度予想がついたのだが、芸大の同級生は普通の人が多かった。なぜかといえば、熾烈な受験戦争はある程度の常識人でないと通過できないからだ。ぼくもその意味では常識人なので、自分のことを棚に上げて恐縮だが、要は似たような人たちが集まっていて刺激がなかった。ぼくはもっと、ぼくにはない魅力を持った人、刺激を持った人に会いたかったのだ。

日本一面白い人たちのステージを見て「見る」ことの重要性を知った

その後、運良く秋元康さんの弟子になることができた。大学卒業後はその下で働いた。するとそこで、運良く刺激的な人たちと出会えた。放送作家の先輩たちだ。

ぼくは一度、とんねるずが苗場プリンスホテルで毎年行っていたコントのリハーサルに立ち会ったことがある。そのときのことは一生忘れられないだろう。ぼくはそこで、とんねるずが即興でコントをする現場に立ち合ったのだ。

とんねるずは全くのインプルビゼーションでコントをくり広げた。設定はゴルフの接待ということだった。接待される側の社長を木梨憲武さんが演じ、接待する側の営業マンを石橋貴明さんが演じた。そこで、接待する方(石橋さん)は下手に出ながらも慇懃無礼な態度を展開し、とろい社長の木梨さんをいろいろといじめていた。そこにゴルフのいろいろなプレーが加わって、変幻自在でめまぐるしいばかりのギャグの応酬がなされた。

その瞬間、ぼくは確信した。
これを見るために、ぼくはここへ来たのだと。
この人たちは、間違いなく今この日本で一番面白い人たちだ。その一番面白い人たちの一番面白いリハーサルを、世界で僅か10人ほどしか見ることができない。この10人に入るために、ぼくは今まで頑張ってきたんだと。

そこで一つ気づいたのは、どうやらぼくには「見る」ということが必要ということだった。もっと見るものがあるはずだった。そのときのぼくには(今でもそうかもしれないが)見るということが欠けていた。ぼくはもっと見たいと思った。もっといろいろ見たいと思ったのである。

ただ「見る」ということが、自分の勉強法だった

理由を考える
その後、ひょんなきっかけから創設されたばかりのJリーグの試合を取材することになった。その頃は万年最下位だったレッズの試合を、浦和までよく見に行った。そこでぼくは、選手やサポーターというよりはそれを取材する人をよく観察していた。サッカーの取材記者は何かの宗教に帰依する修行者のようだった。無表情で寡黙だった。絶対に感情を露わにしなかった。テレビのスタッフによくあるような、待ち時間に下品な冗談を交わし合うということもなかった。皆、己の世界に沈潜しているような印象だった。

その後、プロ野球の取材もすることになる。プロ野球の取材はもっと下品だった。今はもう違うかもしれないが、球場の記者席はたばこの煙がもうもうと立ちこめる阿片窟(見たことはないが)のような様相を呈していた。そこでは取材中にもかかわらず、記者たちは下品な冗談を交わし合っていた。頻繁に野次や罵声が飛んだ。試合を見ていない記者も大勢いた。

ぼくはそういうことを注意深く見ていた。見て何をするわけでもない。しかし、何かを感じていた。面白いなあと思うこともあった。人間はいろいろいて面白いなあと思った。そして、こうなっているのは何か理由があってのことだろうと考えた。

その理由を考えるのが、ぼくの勉強法だったのかもしれない。

企画:プレタポルテby夜間飛行

◆岩崎夏海メールマガジン「ハックルベリーに会いに行く」
毎朝6時、スマホに2000字の「未来予測」が届きます。このメルマガは、『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』(通称『もしドラ』)作者の岩崎夏海が、長年コンテンツ業界で仕事をする中で培った「価値の読み解き方」を駆使し、混沌とした現代をどうとらえればいいのか?――また未来はどうなるのか?――を書き綴っていく社会評論コラムです。ご購読・詳細はこちら

岩崎夏海岩崎夏海(いわさきなつみ)
1968年生。東京都日野市出身。 東京芸術大学建築科卒業後、作詞家の秋元康氏に師事。放送作家として『とんねるずのみなさんのおかげです』『ダウンタウンのごっつええ感じ』など、主にバラエティ番組の制作に参加。その後AKB48のプロデュースなどにも携わる。 2009年12月、初めての出版作品となる『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』(累計273万部)を著す。近著に自身が代表を務める「部屋を考える会」著「部屋を活かせば人生が変わる」(累計3万部)などがある。