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2015年08月03日

僕が「読めない本」をカバンに入れてる理由

読めない本

テレビでおなじみの精神科医・名越康文(@nakoshiyasufumi)が心の悩みにズバッと答える! この記事は公式メルマガ「生きるための対話」よりお届けします。

限界を超えるから人は伸びる

人生の中で「限界を超える」経験を時々しておくこと。これは、けっこう大切なことなんです。それは別に、周囲から評価されるようなことじゃなくてもいい。自分なりに何か、「限界を超える」テーマを持っておくのがいいんですね。

僕は以前、10分も正座できなかったのに今は30分を超えるぐらい正座ができるようになりました。これって、他の人からしたらどうでもいいことです。でも、僕にとっては、この経験によって、たくさんの勇気をもらうことができた。自分の限界を超える体験っていうのは、勇気がふつふつと、湧き上がってくるものなんです。

限界を超える、といっても別に、めちゃくちゃきついことなんてやる必要はありません。例えば「とにかくゆっくり動く」なんていう、ちょっと変わったテーマにチャレンジしてみてもいい。目の前にあるコーヒーコップをとって口に運ぶというのは、普通だったら数秒でやってしまう動作ですよね。それをあえて、2分ぐらいかけてゆっくりとやってみる。たった数十センチ手を動かすということを、ゆっくり丁寧にやる。これもある意味では「限界を突破する」ということです。

歯ごたえのある読書

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「限界を超える」という観点からみると、「読書」というのは非常におもしろいツールだと思います。というのも、本って、簡単なものから難しいものまで、一般的なものからマニアックなものまで、バリエーションが豊かですよね。だから、ある人にとっては簡単に読める本でも、自分にとってはけっこう歯ごたえがあるということがいくらでもある。そうすると、どんな人でも、いくつになっても、「これを読めば私は自分の限界を超えられそうだ」と思える本というのはあるんですよ。

普段は自分が読みたい本、読める本を読んでいればいいんだけど、ときどき、「限界を超える読書」というのにチャレンジする。

古典とか、名作のリストを探れば、必ず自分の読解力とか教養では「ちょっと大変だな」と感じるような本を見つけられるでしょう。そういう本をいつも一冊、カバンに忍ばせておく。そして、気が向いたときにそれにチャレンジする。一回にほんの数ページ、あるいは数行でもいいんです。そうやってチャレンジして、少しでも限界を超えた感覚を得られれば、それが心の中で勇気の種になっていく。それを積み重ねておくと、人生の中で時折やってくる「きつい場面」を乗り切るとき、すごく力になってくれるんです。

そういう意味でも、本っていうのはすごいポテンシャルを持っていると思います。単に「情報が詰まった箱」ではない。本を、単に「情報を得る手段」だと本気で思っている人がいたら、その人はきっと、いくら本を読んでも成長することができない人だと思います。「人を成長させる読書体験」というのは、自分の理解を超えた内容を前に立ちすくみ、ページをめくっていくことすらできないような混乱状態にたたき落とされた、まさにその瞬間にあるわけですからね。

最近、僕のカバンにはだいたい1-2冊は空海の本が入っています。空海の本は、僕にとっては途方もなく難解です。自分の意識レベルを通常よりも何段階も上げていかないと、文字を追うことすら苦痛です。そういう意味では、僕の読解力や理解力の限界をはるかに超えた本なんです。まったく身の丈にあっていない。でも、そんな難しい本でも、1時間ぐらい集中して読んでいると一瞬、「あ、いま読めた!」と思える瞬間がやってくる。

別の言い方をすれば、「限界を超える本」というのは、読み手に、心と身体をいつも以上に整えておくことを要求する、ということかもしれないですね。ある種、「読み手のコンディション」を要求するような本を読むことが、その人を成長させる読書になるんじゃないかと思います。

「親切な本」には気をつけよう

最近の本は、書き手もわかりやすく書くし、編集やレイアウトもレベルが上がっているので、とにかく読みやすいですよね。そういういわば「親切」な本は便利なものですが、一方で、そういう親切な本を読んでいるだけでは、読書によって得られる効用というのは、大袈裟じゃなく、半減してしまうんじゃないですかね。

一度読んでも、ほとんどまともに内容が入って来ない本。その本を読むために、1時間ぐらいウォーミングアップして心身の状態を整えておかなければならないような「不親切な本」。そういう本を、ぜひ見つけてみてください。

そういう「不親切な本」に1日1回、それこそ「1行」でもいいからチャレンジしてみてください。「本が要求する心身の状態」というのがわかってくると、そうやって「読もうとすること」「チャレンジすること」によって、勝手に心がすっと落ち着いてきます。

読書というのは、そうやってある意味「背伸び」することによって初めて人を成長せしめるんですね。情報を取り入れるだけの読書(それはそれで、もちろん意味がないわけではありません)ばかりを積み上げて「年に●●冊読んでいます!」といっても、それによって人が成長する、ということはありえないのです。

ジャンルはなんでもいい

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本のジャンルや時代、作家にこだわる必要はありません。ただ、強いて言えば発行からある程度時間の経った本がいいでしょうね。歴史を重ねて生き残っている本や言葉には、力が宿っています。歴史の淘汰を生き残る「力」というのは、決して「わかりやすい」ものには宿らないのです。誰にでもわかるものほど一瞬にして消え去り、多くの人がその真意を誤解してしまうような難解な本ほど、長く読み継がれる。

数学の世界では何百年も解けないような難問があるそうですが、人を成長させてくれる「名著」というのはそれに似ています。そこには別に、誰もがわかるような「答え」が書いてあるわけじゃない。だからこそ、読み継がれている。

こういう「限界を超える読書」を習慣化しておくと、いろんな副産物が得られます。心が落ち着いて来て、だんだんと「人の話」を聴くのが上手になってくる。僕らは普通、他人の話の7割を聞き逃し、残りの3割を誤解してしまいますが、こういう読書に取り組むようになると、3割ぐらいは相手の話に素直に耳を傾ける、ということができるようになる。

自分の理解の枠組みを超えた「わかりにくいもの」にしっかりと長い時間向き合うように読む、という訓練によって、僕らは初めて、自分とまったく感性の異なる「他人の話」に耳を傾けることができるのです。

いくら本を読んでも、どんなに素晴らしい教授の講義に耳を傾けても、何一つ学ばず、まるで成長しない人もいます。そういう人は常に自分の枠組みの中でしか、人の話を聞くことができません。

もちろん、「自分の枠組み」を持たない人などこの世にはいません。誰だって枠はあるし、枠に囚われています。しかし、自分が枠に囚われているということを知っているか、知っていないか、どのような枠に囚われているかが見えているか、見えていないか、ということは大きな違いです。

自分がどんな枠に囚われているかということを知るのは、辛いことです。自分の偏狭さ、自分のちっぽけさに嫌気が指してしまいそうになることもある。しかし、その「苦しさ」をどれだけ感じているか、ということこそが、後々の大いなる解放に向かって学ぶことの価値なのです。

ぜひ、自分がわからない本を読みましょう。僕のカバンにはいつも、空海の本が入っています。たまにしか開きませんが、必ず、開くことは忘れないようにしたいと思っています。そうやって空海に挑むことこそが、僕を成長させてくれるという確かな実感があるからです。

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精神科医・名越康文名越康文(なこしやすふみ)
1960年、奈良県生まれ。精神科医。臨床に携わる一方で、テレビ・ラジオでコメンテーター、映画評論、漫画分析など様々な分野で活躍中。著書に『毎日トクしている人の秘密』(PHP、2012)、『自分を支える心の技法 対人関係を変える9つのレッスン』(医学書院、2012)、『驚く力 さえない毎日から抜け出す64のヒント』(夜間飛行、2013)などがある。