1977年の創業以来、順調に成長を遂げてきた「無添くら寿司」。現在は国内に308もの店舗を抱えています。田中邦彦社長は、現場調査以上にマネージャーの教育に力を注いできました。それは、店舗を預かるマネージャーを教育することが、スタッフの成長、ひいては店舗の業績向上につながるとの考えから。では、スタッフの成長には何が一番重要なのでしょうか。
「企業理念、コンセプトを理解するということです。反対に、コンセプトに共感しない、感銘しないという人は会社に合わないと考えたほうがいいでしょう。私どもはサービス業ですので、人のお役に立ちたい、人のために動きたい、と考えられる人材かどうかが重要なのです。マニュアルやシステムよりも、良い人材が要所要所にいるほうが企業は成長しますから」
優秀な人材とは、「誠実である人」だという田中社長。
「勉強ができるとか、学歴だとかは全く関係ありません。弊社では、『公共性、正義、愛情』を理念としています。見えないところを大事にして、一生懸命やる、それが全てです。家族に食べさせたくない、自分は食べたくない、というものは出さないのが飲食サービス。ルールよりも、良心に添って動けるかどうかが大事なのです。誠実でさえあれば、ダメなときでも必ずチャンスはやってくるものですよ」
その意味でも、学生時代のアルバイトは、社会に出る前に身につけるべき姿勢を学ぶ大事なステップの場だと言います。
「アルバイトでも将来の人生に大きな影響を受ける可能性はあるのです。プラスにならないと思うところで働くのは時間の無駄。私も、学生時代に選んだアルバイトを、社会貢献にならないと感じて1週間で辞めたこともあります。弊社は許される限り、教育にお金も時間もかけている。目先の給与だけでなくて、何をそこで学びとるかもアルバイトには大事ですよね。自分の糧になるようなアルバイトを選ぶべきだと思っています」
くらコーポレーションの役員には、アルバイトから正社員となり、昇格していった人も多くいます。
「今いる幹部には、アルバイトから正社員になった者がかなりいますよ。弊社は化学調味料や防腐剤がどれだけ身体に悪いかを考え、全食材に化学調味料、人口甘味料、合成着色料、人工保存料という四大添加物を使用しない食事の提供を徹底して守ってきました。こういった弊社のコンセプトを理解して、働いた人が残っていくのだと思います」
業界に先駆けて、カウンター席だけでなくテーブル席も設置したり、雑菌などがつかないよう寿司にかぶせるキャップ『鮮度くん』を発明したり、一定の時間を過ぎたら寿司を廃棄する時間制限管理システムを確立したり……。田中社長は革新的な取り組みを数多く行ってきました。
「常にお客さんに喜んでいただくことを考えているんです。『鮮度くん』も20年考え続けた結果でした」
取り組みのなかには、アルバイト発案のアイディアもありました。
「最近、メニューにラーメンを追加して好評をいただいています。実はこれ、そもそもはアルバイトが思いつき、何年もかけて実現にこぎつけたアイデアなんです。外食産業は意外と保守的で、違うジャンルのものを出すことをなかなかしない。だからこそこのような発見の喜びは大きいですし、尊重したいと思っています。スタッフの成長という意味でも、自立した証に見えて、うれしかったですね」