「焼鳥で世の中を明るくする」という理念のもと、「焼鳥屋・鳥貴族」を全国に展開している株式会社鳥貴族。若者の酒離れなどで従来型の居酒屋チェーンが苦戦を強いられている昨今も、同社の業績は右肩上がりです。その人気の秘密は、顧客の心をつかむ“お通しなし”のシステムや、創業時から続くリーズナブルで明快な均一価格設定、安心で新鮮な国産の素材をふんだんに使用したこだわりのメニューなどにあります。20代の頃に起業して以来、変わらぬ想いと信念で着実に支持を獲得してきた大倉忠司社長に話を伺いました。
「お客さんに喜んでもらいたい。それだけを考えて商品開発してきました。心がけているのは、メニューも店の雰囲気も、世の中のトレンドに乗ろうとしないことですね。一時は人気が出るかもしれませんが、あとでどうなるか分かりません。なので、私はあくまでスタンダードなスタイル。昔から食べ継がれてきた焼鳥をメーンにし、品質や価格を追求することに尽きます。均一価格を守っているところも含め、“ブレないところが良い”とも言われますが、細かな部分ではいつも進化し続けてきたと思いますよ」
かねてから料理の世界で生きていこうと考えていた大倉社長。当初興味を持っていたのは洋食でしたが、焼鳥店を営んでいた知人から「大チェーンを作りたい」という熱心な誘いを受けます。その展望に大きな夢を感じ、焼鳥の道に進むことを決意しました。
「実際にお客さん同士が焼鳥を食べながら団らんしているのをみて、『こういう場を作れるのってすごいことだな』と感動したんです。おいしいお酒とおいしい食事は、人を幸せにできるのだと確信しました。単に“食事”ではなく、“コミュニケーションの場”を提供している訳です。それに、帰り際に『おいしかったよ』と言われるのも本当に嬉しくて、働いていて気持ちがよかったんです」
修行で店頭に立って接客していた時のことを、大倉社長はこう振り返ります。その経験や感じたことが基となり、冒頭で紹介した「焼鳥で世の中を明るくする」という内容の同社理念が完成しました。その想いを丁寧に明文化したものは“鳥貴族のうぬぼれ”と名付けられ、全店舗・全従業員のモチベーションとして浸透しています。
「会社経営とは、お客様はもちろんのこと、株主や取引業者や従業員など、関連するすべての人を幸せにすること」というのが大倉社長の考えです。これを実現するのには、現場スタッフの気持ちが大変重要であるといいます。つまり、モチベーションをもって楽しく働くことこそが、お客様の満足を生み出し、それがその他の関わる人に伝わっていくということなのです。大倉社長は定期的に行う店舗視察の際も、スタッフがイキイキとした表情をしているか、ということを特に気にかけて見ています。いつでも気軽に声をかけ、積極的に話をしているそうです。
「店長にはいつも、『アルバイトさん、パートさんには、お給料以外のことも与えてあげてください』と話しています。鳥貴族でこんなことを学んだ、そしてその後の人生で役立った、と言ってもらえるような経験を提供することはひとつの社会貢献だと思います。その他の細かいところは、それぞれに任せていますよ。私は良いところを見ていくことにしています」
同社の社員のうちアルバイト出身者は約1/3で、取締役4名も元々はアルバイトスタッフでした。アルバイトから継続している社員が多いということは、鳥貴族を知り、好きだからこそ入社しているということです。これは、大倉社長の言う“幸せな仕事環境”が構築されている証明とも言えるでしょう。スタッフとの理念の共有を重視し、会社としての足並みが揃っている。それでありながら決して堅苦しさや難しさがないことが、こうした結果に繋がっています。
「『自分の店が好きだ』と思っているスタッフが多いことが、一番の強みです。今後は“世界一の焼鳥屋”を目標に、2000店舗に向けて成長していきます。新しい店舗もたくさんオープンしていて、アルバイトからの社員登用もますます積極的です。是非一緒に幸せになりましょう」