でんぱ組.incの激レアバイトを完全遂行するためにグループの原点「ディアステージ」に潜入。アイドルパフォーマンスの極意に迫る

撮影:榎並紀行(やじろべえ)
激レアバイト募集!「でんぱ組.incのLIVEを近くからサポートするお仕事」
先日、当サイトにこんなバイトの告知が躍った。なんでも、アイドルグループ「でんぱ組.inc」が出演するライブイベントをサポートするバイトらしい。
募集職種はふたつあり、ひとつは彼女たちの1日アシスタントマネージャーとして、当日の荷物運びやステージへのアテンドをこなすこと。
そしてもうひとつは、でんぱ組.incと同じステージに立ち、ライブを盛り上げるというものだ。演者のひとりとしてエキストラ出演し、ステージに華を添える需要なミッションである。ようは、スクールメイツ(※)みたいな仕事だな。
あの笑福亭笑瓶を排出したことで知られるスクールメイツ。これは、憧れの芸能界への扉を開くチャンスかもしれない。ライターなんてやってる場合じゃないぞ。
さっそく応募しようと思ったのだが、いや待てよ。ズブの素人がいきなりステージに立って、でんぱ組.incさんにご迷惑をおかけしたらコトだ。
まずは、しっかりパフォーマンスのイロハを学んでからエントリーするのが筋というものだろう。
でんぱ組の原点「ディアステージ」へ
というわけで、ステージングの極意を学ぶべく、やってきたのは「秋葉原ディアステージ」。
秋葉原の路地裏にあるライブハウス兼カフェバーである。
店内は1階がステージ、2階・3階がカフェバーになっていて、従業員の女の子「ディアガール」が接客をしてくれる。ディアガールたちはそれぞれがアイドル・アーティスト活動を行っていて、ステージでは彼女たちによる熱いライブが毎夜繰り広げられているという。
今回はここに入門して、パフォーマンスの何たるかを学ぶ所存だ。

オールスタンディングのライブステージ
なお、でんぱ組.incのメンバーたちも、かつてはここで働きながらステージに立っていたそうだ。彼女たちの原点となった場所には現在、明日のでんぱ組を目指す女の子たちが50人ほど在籍している。
そして今日からは私もその一員となる。
問題は私が男で、しかもおじさんであるということだが、そこはパッション(情熱)でカバーしよう。

申し遅れましたが、この記事を書いているのはこういうおじさんです。好きなアイドルは光GENJIです
お店の開店は18時。その1時間前に訪ねてみると、ディアガールたちによる始業前ミーティングが行われていた。

「~ちゃんは、2階のカフェをお願いします。ライブ後は私が3階を担当します」
この日ライブを行う女の子が中心となり、配置や段取りを一つひとつ確認していく。なお、この日のステージは1回目が19:00~20:00、2回目が21:00~21:45で、3人組ユニット「Flash Fractal」のオンステージになるらしい。
ふんふん。聞き耳を立てつつ、するっと輪に入ろうと試みたところ、間に男性スタッフが立ちふさがってきた。
筆者「ディアガールになりにきました」
男性スタッフ「…無理ですね(なにいってんだこいつ)」
聞けば、ディアガールには求められる条件がいくつかあり、残念ながら私はそれを満たしていないらしい。おそらく紙一枚の差で、ギリギリ何かが足りなかったのだろう。その壁は想像以上に厚かった。
ディアガールにステージングのコツを学ぶ
アイドルへの道は絶たれたが、せめてステージングについて学んで帰ろう。というわけで、ディアガールの方にお話を伺ってみることにした。

お話を聞いたのは美谷玲実さん。この日ステージに立つ「Flash Fractal」のメンバーで、ディアガール歴4年。お忙しいところすみません
―― ディアガールになったきっかけを教えてください
美谷「歌が好きだったので。北海道から出てきて、最初は別のお店のステージで歌っていたんですけど、2010年にディアステージにきました」
―― ステージで歌うってどんな気分ですか?
美谷「もう、ただただ楽しいです。人前で自分を思いっきり表現できるところが魅力ですね。いま、ディアステの出勤は週4日なんですけど、出勤したら毎回ステージに立たせていただいています」

好きな音楽ジャンルはアニソンとJ-POP。それにしてもかわいい
―― お客さんを盛り上げるコツってありますか?
美谷「ディアステの場合は常連のお客さんも多いので、盛り上がり方の法則というか、パターンみたいなものがあるにはあるんですけど…、でも一番は自分自身が楽しむことですね。自分が笑顔で歌っていると、お客さんも楽しい気持ちになってくれると思うから」
なるほどなるほどと話を聞きつつも、「ちょっと優等生すぎるんじゃないの?」と心の中のいじわるばあさんがささやいた。しかしこのあとそのステージを見て、彼女の言葉がただのアイドル的な模範解答ではないと気づかされることになる。

ステージ行ってきます!
圧巻のステージが開演
かくして、ステージの幕は上がった。

宴がはじまった!
「Flash Fractal」は3人組のボーカルユニット。
あいにく筆者は音楽に疎いため仔細なレポートができず申し訳ないのだが、わかりやすくその印象を述べると「歌が超うまい女の子たち」だ。パワフルかつ、のびやかな歌声でオーディエンスをぐいぐい惹きこんでいく。
筆者自身も、のっけから彼女たちの虜になってしまった。

一曲目はアニソンのカバー。アッパーなナンバーで、オーディエンスのボルテージも一気にレッドゾーンへ ※あやふやな音楽知識で書いているため、表現がぼんやりしていますがご容赦ください

中盤は3人それぞれのソロパートへ。パワフルなボーカルで圧倒する市倉有菜さん

しっとり儚げな歌声が心地良い、愛野えりさん
ソロパートが終わり、再び3人のユニット曲「FRACTAL VOICE」が流れると、会場の温度はさらに上昇する。
一瞬、熱気で脳みそがとろけかかるが、ステージ上から放たれるメロディアスで勇敢な歌声で、またシャキっと奮い立つ。「FRACTAL VOICE」は、とてもいい曲だった。
何のアニソンだろうと思っていたら、直後のMCで彼女たちのオリジナルソングだと判明。
しかも…
「作曲は(美谷)玲実ちゃんです」(MC)

えっ、作曲できちゃうの??
ちなみに、作詞は同じくメンバーの愛野さんらしい。いろいろ多才で舌を巻くばかりだ。
圧倒的だった
さて、そんなこんなで1時間にわたるステージはあっという間に終了。
つい取材を忘れて興奮してしまったが、いくつか気づいたこともある。
まず、彼女たちの表現力の凄さである。最近はネット発の有名人が増え、アイドルと一般人の垣根がなくなったなどともいわれるが、やはり毎日ステージで磨き上げたパフォーマンス力はひと味違う。そもそも表現者としての地力が、一般人とは別次元だ。
たとえば、動きや表情の一つひとつにしっかり緩急がついていて、それが多彩な表現を生み出している。笑顔ひとつにも強弱があるし、身のこなしも曲調に合わせて脱力したり、グッと肩に力を入れてみたりとメリハリがきいている。
お客さんを煽るときは大きな身振りでオーディエンス全体を鼓舞しつつ、ファンの動きにもきちんと呼応して手を振ったりしてくれる。
ライブならではの醍醐味、楽しませ方を彼女たちはきっちり心得ているのだ。
また、美谷さんが言っていた「自分が楽しむ」という点も、十分すぎるほどに伝わってきた。
ステージを縦横無尽に動き回る3人はとにかく楽しそうで、見ているこちらも本当に幸せな気持ちになる。「演者が楽しむ」というシンプルな思考こそ、エンターテイメントの神髄なのかもしれない。

ステージを走り回る3人。楽しそう!

ステージ上の3人が旗振り役となり、みんなの気持ちがひとつに
アイドルになりたいなどという軽薄な気持ちで来てしまったが、ディアガールのステージからは一朝一夕にはたどり着けない凄味を感じた。
これからも、やはりライター一本で頑張っていこう。
※ちなみに、激レアバイトの募集は簡単なタオルパフォーマンスで、リハーサルでしっかり練習をしてから本番に臨めるとのこと。なので、どなたも気軽にご応募ください。男女問わずステージに興味のある人にとっては、きっといい経験になると思いますよ。

彼女たちのステージがあまりにもかっこよかったので、物販で思わずCDを買ってしまった。ていうか、あなたもかわいいですね

取材・文:榎並紀行(やじろべえ)