「ホリプロマネージャー」兼「鉄道BIG4」の南田裕介さんに聞く、大井川鐵道で働く魅力
特別鉄道好きでなくとも、蒸気機関車に心惹かれる人は多いだろう。
幼少期の『きかんしゃトーマス』から再放送の『銀河鉄道999』まで、我々はSLに特別な憧憬を抱いてきた。とくに男子ならば、一度くらい「SLを運転してみたい」という願望に駆られたことがあるのではないか。
このほどそんな夢を叶える、嘘みたいなバイトが募集されるという。
※車掌バイトの募集期間は2015年12月21日AM7:00まで
静岡県の大井川鐵道で運行されているSL機関車に、車掌アシスタントとして乗車するこのバイト。大井川鐵道の制服に身を包み、出発前の準備作業から客車内での販売業務、さらには車内アナウンスやSLの運行方向を切り替える重要なミッションを任されるという。
鉄オタならずとも、そそられる案件である。そこで、このバイトを100%完遂するべく、「車掌としての心得」を、とある著名な鉄道マニアにうかがうことにした。
教えてくれるのは、あの鉄道BIG4
ちなみに、大井川鐵道ってどんな鉄道なのか? wikipediaよりひもとくと…
なるほど、観光ナイズされた“なんちゃって”ではなく、ガチのSLというところがポイントのようだ。
では、さっそくご登場いただこう、今回お話を伺うのはこの方です。

どうも南田です
SL越しに自己紹介してくれたのは、南田裕介さん。大手芸能事務所ホリプロのマネージャーでありながら、生粋の鉄道好きとしてメディアにも度々登場。『タモリ倶楽部』や、最近では『笑神様は突然に…』の“鉄道BIG4”としての活躍でも脚光を浴びている。
SLは見どころいっぱい! 歴史の痕跡に着目を
そんな南田さんに、まずは大井川鐵道の魅力についてうかがってみよう。南田さん、SLってかっこいいですよね。
「もちろんSLもかっこいいんですが、僕としては『車両』にも注目してほしいんですよ」(南田さん、以下同)
さすが鉄道好き。のっけから通な視点を繰り出してきた。車両に注目せよとはこれいかに?
「大井川鐵道の魅力は、古い車両が古いまんま残されている点です。SLに連結されている客車も、昭和中期に製造されたものをずっと使っている。何十年も経過した木の感じとか、網棚も金網じゃなくて、文字通りの『網』だし、鉄道好きとしてはたまらないポイントが満載です。もう20両足らずしか現存していない車両なので、骨董的な価値も存分に楽しむべきですね」
なんでも、大井川鐵道は全国各地から中古名車両を集めまくっていて、さながら電車博物館のような状態なのだとか。それがマニアにとってはたまらないらしい。近鉄や南海のレトロな車両に加え、過去には小田急ロマンスカーが走っていたこともあるのだという。プロ野球でいうマスターズリーグみたいな感じだろうか。江夏、村田兆治、ギャオス内藤…、そんな車両界のレジェンドが今も現役で走っているとなれば、南田さんが興奮するのも無理はない。
「ぜひ、車内にも注目してみてください。よくよく見ると窓の銀の枠のところに落書きとかしてあったりする。相合傘とか、テストの点数が悪かったとか、おそらく30年以上前の高校生たちが書いたものでしょうね」
ほかにも、昔ながらの社内販売が残っているのも魅力のひとつ。今回のバイトでは、社内販売もミッションのひとつなので、お客さんとコミュニケーションをとってみるのもいいだろう。
SLの「熱」を感じよう
―― では、SLの見どころは?
「SLはやっぱり黒々しくてですね、非常に勇ましいんですよね。それを最も感じられるのが、運転台の横。この近くを通ると、ものすごい熱を持っていることが分かる。新金谷の駅ではホームから運転台の近くまで行くことができます。釜でガアーっと火を焚いている様子が分かりますので、ぜひチェックしてみてください」

ここから蒸気がね、がーっと出て
車掌は身だしなみが大切
では本題に入ろう。車掌業務の心得、まずは身だしなみからである。
「制帽、制服は支給されるということですが、これは鉄道に携わる人間にとって大切な正装。変に着崩さず、しっかり着用しましょう。制帽、ジャケット、ネクタイ、腕章、手袋が正式なスタイルですね。ワイシャツも、きちんとノリのきいたものを用意して、ボタンは上までしっかりと。あと、中は暖房がきいていてけっこう温かいので、汗をかいたときのためにハンカチも用意しておくといいですよ」

身だしなみは大事
めったにできない「車内アナウンス」は本番前にしっかり練習
思いのほか真面目なアドバイスに身が引き締まる。では、車内アナウンスのポイントを教えてください。
「恥ずかしさを捨てて、車掌になりきるってことですね。こんな経験めったにできませんから、お風呂場で練習するなり、カラオケボックスで練習するなりして、万全のコンディションで臨みましょう。バイトとはいえ、実際に列車を運行するメンバーの一員として、気合を入れてください」
―― ちなみに僕がよく乗る電車にはホスピタリティーに溢れた車掌さんがいて、たまに「本日は快晴です、そろそろスカイツリーがみえてきます」とか言うんですけど、そうしたアドリブもありですか?
「それはなかなか優秀な車掌さんですね。本来は、言わなくてもいいことをサービス精神でやっているんですから。車内アナウンスは車掌の個性が活かせるところですから、多少のアドリブもありだと思いますよ」
最終列車、アニメ声…社内アナウンスもいろいろ
―― 南田さん自身、これまでに感激した車掌さんはいますか?
「僕は廃止になる前の最終列車に乗ることがよくあるのですが、惜別の車内アナウンスにはぐっときますね。『長年お世話になりました、有難うございます、当列車は本日をもちまして運行を取りやめさせていただきます、長い間、ご乗車有難うございました』とか、それは毎回感動しますね。あとは、女性でアニメ声の車掌さんに出くわしたことがあります。かわいい声で『おタバコはご遠慮ください』って。古い車両だったので、ギャップがおもしろかったです。やはり、アナウンスする人の思いや個性が出ますよね」
内容や言い方、お客様にどうすれば伝わるか、アナウンスひとつとっても奥が深いようだ。なんでも、車内アナウンス界にも師匠と弟子の関係があり、脈々とその技が受け継がれているという。とりわけ、大井川鐵道の車内アナウンスには、高度なスキルが求められるのだとか。
「大井川鐵道はスピーカーが古いですからね、きれいに響かせるには訓練がいるんです。今回、バイトを指導してくれる『師匠』に、コツや所作を学んでください」
―― では、最後に。今回のバイトでは「転車台手回し作業」を手伝うというミッションがあるのですが、これってどんな作業なんですか?
「駐車場にあるターンテーブルと一緒で、基本は棒を押すだけです。そんなに難しくはないと思いますよ。安全装置もありますし、車掌さんがサポートしてくれるはずですから安心だと思います。いずれにせよ、線路内に入ったり、鉄道装置に触れたりって普通はできませんから、これはものすごく貴重な体験です。正直うらやましいですよ」

僕がやりたいくらいです
ということで、生粋の鉄道マニアすらうらやましがる今回の激レアバイト。もちろん、鉄道に詳しくなくても大歓迎で、「なんとなくSLに乗ってみたい」くらいの動機でもOKとのこと。ぜひお気軽に応募してみてはいかがだろうか。
おまけ

「駅弁もうまいですよ」と南田さん。ちなみに、おすすめは菜飯や黒はんぺん、桜エビの佃煮だそうです。それにしても詳しすぎる
文:榎並紀行(やじろべえ) 撮影:末吉陽子(やじろべえ)
ホリプロマネージャー。静岡大学卒業後、ホリプロ入社。ホリプロのマネージャーとしてタレントのプロデュースをする傍ら、「鉄道ネタ」の企画をテレビ局に売り込んできた。現在は、ホリプロアナウンス室のマネジメントを担当している。
最新書籍「ホリプロ南田の鉄道たずねて三千里」(主婦と生活社 刊/1,400円)好評発売中。
※文中の社名・所属等は、取材時または更新時のものです。