【帰ってきた宇宙大好き芸人】未来の宇宙機用エンジン開発に携わる“激レアバイト”、どうすごいの?
春うららかなある日。編集部Tさんから筆者のもとに、一通のメールが届いた。
パルス? 金曜日に皆が一斉に告げる、滅びの呪文の仲間ですか…と目が点になる筆者。
いやいや、いくら以前はやぶさ2の取材をしたからとはいえ、宇宙機用エンジンの解説って。
そもそも宇宙の知識が平均以下の筆者にそれはいくらなんでもハードルがあがりすぎでしょ。速攻ムリですという返信をしたところ、「いやこのエンジンが実用化されると、ガンダムの世界が夢じゃなくなるんですよ?」との返事が。
何をいってるんだTさん、答えになってない…。酸素欠乏症ですか!? 余計自信がなくなったが……、もうこうなったら彼を呼ぶしかない! ということで、あの方、リターンズです!
じゃじゃーん。中井貴一さん! じゃなくて、きくりんさん。
昨年、はやぶさ2のすごさをわかりやすーく説明してくれたことで有名(筆者のなかで)。
正しく説明するときくりんさん(@kikurinprime)は、プライム所属のお笑い芸人。早稲田大学法学部卒のエリートながら、宇宙大好きで日々最新の宇宙情報をチェックしている。中井貴一さんのものまねは本人公認。
とはいえ、きくりんさんも、「僕、工学部卒ではないんで、エンジンの原理、仕組みを解説するだけですよッ」と前置きしている。大丈夫、そんな学問的なことを説明されても、筆者は1ミクロンも理解できませんから。
というわけで、今回もさっそく聞いてみましょう、「パルスデトネーションエンジン」、何がすごいんでしょうか?
このエンジンが実用化されれば、ガンダムなどアニメやSFが描く未来像が現実的になる?!
えーと、そもそもパルスデトネーションエンジンといわれても、ちーっとも想像がつかないのですが、そのエンジンができると、何が実現するんですか? まさか火星に行けるとか?
「まず、このエンジンが実用化されると宇宙旅行や宇宙にモノを運ぶコストが大幅に安くなります! 今、宇宙へ行こうとすると、とにかくお金がかかるんです…。例えば今、宇宙旅行の費用は最低でも2000万円くらいかかります! 2000万円と言ったら、お笑い賞レースの優勝賞金で言うとM-1GPを2回、R-1GPなら4回も優勝しないといけませんからね…。
これが大幅に安くなればずっと身近な選択肢になります。あと、一回の宇宙への輸送コストが安くなると数多く地球と宇宙を往復できるようになるので、たくさんのモノを運搬できるようになります!
そうなれば、今構想のある宇宙エレベータ(※1)や大規模な宇宙ステーション(※2)、果てはスペースコロニー(※3)の建造費が大幅に下がって、実現にも近づくかもしれません。わりと本気で “アニメじゃない!”の世界です。ますます死ねなくなってきました(笑)」。
と、のっけからテンションマックスなきくりんさん。冗談で聞いてみたら、まさかのアンビリバボーなお答え。ということは…、そのエンジンの完成そのものが、そうとう難易度が高いんですよね。
※2 宇宙ステーション…地球の軌道上などの宇宙空間にあり、人間がそこで生活し続けられるように設計されている人工天体のこと。テレ朝の番組名ではない。
※3 スペースコロニー… 宇宙空間に作られた人工の居住地のこと。ガンダムシリーズにたびたび登場する。
(Wikipediaをベースに編集部が作成)
パルスデトネーションエンジンを使って、地球用のジェットエンジンと宇宙用のロケットエンジンをひとつに
では、イメージしやすい飛行機のエンジンと比較して、その特徴を教えてもらいましょう。
ジェットエンジンは空気がないと動かない
「飛行機のジェットエンジンは、空気に含まれている酸素を使って、燃料を燃やして推進力を得ています。このジェットエンジンで宇宙に行こうとしても限界がありまして…。高さが得られないんですね。
ジェットエンジンですと、高度はおよそ上空15km程度が限界です。ご存知のとおり、空気は上空にいくほど薄くなっていまして、上空15kmで地上の約1/3、40kmで1/330ほどです。なので、ジェットエンジンだと高度15km以上では燃料を燃やすことができず、使い物にならなくなって、それ以上高いところ、ましてや宇宙に行くことなんてできないんですよ。」
ぬぬ。つーか、そもそも、どこから宇宙なんですか。
「地表からおよそ100km上空からのことをいいます。ただ、物理的な境ではなく、人類が決めた高さです。地球の空気は、高度800kmぐらいまで微か~にあるそうです。とはいえ、高度40km以上では、1/330ですので、ほとんど無いも同然です。空気が無いので光の乱反射がなくなり、空は昼でも暗くなります。
そこではみなさんが目に浮かべる、地球の青く、丸い姿が薄っすらと見えます。地球を取り巻く薄い大気の層が見える実に神秘的な世界です! もちろん、僕も実際に見たことはないですけど…」
なるほど、確かに宇宙にいくと空気はないので、空気が必須となるジェットエンジンでは無理ですなあ。一方で、スペースシャトルなどのロケットエンジンでは、ダメなんでしょうか。
空気の代わりに、大量の酸化剤を自分で持っていくロケットエンジン
「こちらにも、メリット・デメリットがありまして…。基本的にスペースシャトルなどのロケットエンジンは、膨大な量のガスを噴き出す必要がありす。なんせ3000トンもある機体をガスの噴射だけで、浮かして、飛ばさなくてはいけないんですから!!
このガスを生み出すのが、ロケットエンジンで、燃料と酸化剤を燃やします。なので、ロケットの重量のほとんど…約9割が、燃料と酸化剤です! いいですか9割ですよ! もうほとんど燃料と酸化剤の塊といってもイイわけです。
で、燃料と酸化剤の割合は、酸化剤の方が圧倒的に多いんですね。スペースシャトルの場合、燃料が水素で、酸化剤が酸素なんですが、酸素って重たいんです…。ロケットを地上から飛ばす場合、この重い酸素を大量に積まないといけないんです。でも、自分で酸素を持っているから、空気の無い宇宙でも燃焼させられる(飛んでいける)という訳なんですね~。
一方、ジェットエンジンは、宇宙では使えない代わりに、この重たい酸素を周りの空気から取り込むので、自分で持たなくて済む…、つまり楽しているエンジンというわけです!」
ふー、わかりやすいが、毎回アツいぜ、きくりんさん。えー、読者のみなさん、ついてきてますでしょうか……。
日本企業の“工夫”が詰まった日本らしいエンジン
と、ここまで、飛行機のジェットエンジン、スペースシャトルのロケットエンジンの違いがわかったところで、今回のパルスデトネーションエンジンの凄さを教えてください。
「まさに夢の技術と言ってもいいと思います! 今、海外では民間企業で宇宙旅行にいくために、ジェットエンジンとロケットエンジンを別々に搭載したマシン(宇宙船)を開発しましたが、これだと、空中を飛ぶ飛行機と、宇宙へ行くロケットの2つの機体が必要となります。
当然、飛行機にもロケットにもパイロットが必要で、さらには地上の整備でも機材や部品、整備員が飛行機用とロケット用に必要となって、維持コストがすべて2倍になるわけです。それを、機体を一つにすれば、全てが半分になってものすご~く効率が良くなりますよね? それが、コストを下げることにつながり、安く宇宙に行けるようになるんです!
ただ、ジェットエンジンとロケットエンジンは構造が全く違うので、これまでは一緒にすることは出来ませんでした。でも、このパルスデトネーションエンジンは一味違います! 単純な筒だけでエンジンが出来ている…ホント、ただの筒なんです!
この単純さがゆえに、ジェットエンジンの要素と、ロケットエンジンの要素を一つに出来るんです(編集部補足:そこに目を付けた人が、今回の激レアバイト先の社長さんです)。
このエンジンの特性を活かして、空気があるところは空気を吸ってジェットエンジンのように振る舞い、空気が無くなってくると、そこからは搭載している酸化剤をあたかも空気を吸っているようにエンジンに供給して、ロケットエンジンのように振る舞う、「燃焼モード切り替え」をさせてしまおうというんです!
お笑いで言うなら、一人でボケもツッコミもやれちゃう感じでしょうか? いや、たぶんもっとスゴいです!
これが実用化すれば、空港から離陸してジェットモードで飛行して、途中からロケットモードになって、宇宙へ到達できる! 宇宙から帰還するときには、またジェットモードにして、空港に着陸する。一つの機体で宇宙へ行って、還って来られる! しかも、既存の空港を宇宙港として使えるんです! これは画期的ですよね? 資源が乏しい国が工夫して、省エネ化して、宇宙に挑む。うん、実に日本らしいですよねぇ~」
と解説。なるほど、日本の“らしさ”を活かして宇宙開発の未来を開拓するなんて素晴らしいじゃありませんか。その一端に関われるのが今回の激レアバイトなんですね。
ちなみに、きくりんさん、この激レアバイト、応募したいですか?
「前も言いましたが、ボクも何度もこの宇宙関連の激レアバイトに応募しているんですよ。取材に協力したんだから、ぜひ採用してください!」と力を込めて話します。それは担当のTさんにいってください。
きくりんさんと話していると、遠いと思っていた宇宙の話が身近に感じるから不思議です。小さいころから、宇宙モノのアニメや映画にふれてきた筆者にとっては、なんだか子どものころのワクワク・ドキドキを思い出します。
「夢は思い描かないと、実現しないんですよ!」というきくりん名言も、なんだか新鮮な気持ちさせられます。
確かに、かつてアニメや特撮で見た秘密基地と通信できる腕時計型端末や、人間が運転しなくても動く自動車、人間より囲碁が強い人工知能など、思いもしなかったことが次々と実現していることを考えると、うん、宇宙機用エンジン・パルスデトネーション開発の夢も叶うような気がしてきた!
ということで、日本の民間企業による、宇宙開発の最先端に触れたい人は、ぜひ激レアバイトに応募してみてください!
取材・文:嘉屋恭子 撮影(きくりん):八木虎造 監修:PDエアロスペース株式会社