猫のもつ癒しのメカニズムと効果とは?猫の気持ちは?専門家に聞いてみた
オンライン授業やリモートワークなどで家にこもりきりで、ちょっとお疲れ気味のみなさん。猫の動画を見て癒された…なんていうことはありませんか? 実は猫が人間に癒しやリラックス効果を与えるのは科学的に証明されているそう。猫が人間にもたらす効果や猫と仲良くなる方法を動物行動学を研究している専門家、内山秀彦先生に聞いてみました。
なぜ、猫と触れ合うと人は癒されるのか?
猫と触れ合うとオキシトシンが分泌される
猫をなでるなど、直接的な接触をすると、人間はオキシトシンと呼ばれる心身に安らぎをもたらすホルモンが分泌され、同時にコルチゾールと呼ばれるストレスホルモンが軽減します。この2つの働きによって、副交感神経優位になり、心拍数が落ち着いて気持ちがリラックスするのです。この気持ちが“癒される”と感じる理由でしょう。
猫の気まぐれな行動は人の脳を活性化させる
癒されるだけでなく、脳の活動が高まるのも猫が人間に与える効果のひとつ。人間の行動や感情をコントロールする重要な部位である、前頭前野が猫と遊ぶことで活性化し、また交感神経活動も高まります。猫の気まぐれで何を考えているのかよくわからない行動を見て「理解したい」という思考が働き、脳が活性化するのです。この実験結果では、猫が言うことを聞かないときの方が脳が活性化することがわかりました。猫のツンデレな性格が、人を考えさせ夢中にさせるのでしょう。猫は人間に癒しと覚醒の両方を与えてくれる存在なのですね。
見ているだけでも癒しの効果がある
猫を見て“かわいい”という感情が生まれることも多いと思いますが、特に猫の顔はベビースキーマと言われる人間が本能的にかわいいと感じる身体的特徴が当てはまります。体に比べて頭が大きく、目が大きく、丸く、手足が短い。人間の赤ちゃんもそうですよね。触れなくても見るだけで“かわいい”と感じ、リラックス効果が得られるのです。
猫は人間のことをどう思っているの?
猫も人間と触れ合うことでオキシトシンが分泌されるということがわかっています。猫が人のことをどう思っているかですが、私たちの研究で3日間、飼い主が猫に普段通りに接するのと、遊びやふれあいといった社会的接触を避けて接するのを比べた結果、オキシトシンやコルチゾールの生理的変化から、後者ではストレスを感じていたことが分かりました。この結果により、猫も人間との関係を大切にしているのだと考えられます。
また、勉強中や仕事中に限って猫が邪魔しにくる、という光景がよく見られると思いますが、邪魔しにくるのはかまってほしいという意味です。ただ、授業や仕事の時だけなら、猫を無視しても問題ないでしょう。猫は都度、人の反応を見て自分の行動を決定していて、人が怖い思いをさせない限り、ちょっと無視したり机の上からどかしてもあまり引きずるタイプじゃないでしょう。こちらも3日間、猫の要求に応じる人と、構わない人を比べる実験をしましたが、その後の両者への猫の態度に特に大きな違いは見られませんでした。もちろん長期間無視し続けると関係性に影響してきますが、ちょっとどかすくらいは、あまり気にしてないようですね。
猫ともっと仲良くなりたい。絆を深める方法は?
猫と仲良くなりたいのなら、下記のような猫が嫌がることをしない。これが鉄則です。
人間本位に動かない
人間が遊びたいからと言って、猫が遊びたい気分とは限りません。人間本位に行ってしまうと嫌われてしまいます。あくまで、猫様本位で。猫から来てくれたときに遊んであげるというスタンスでいることが大切です。
強いにおいを出さない
猫は強いにおいを嫌がります。特に香水やたばこなどの人工的な香りに敏感。また、柑橘系の香りも苦手です。そして、他の猫のにおいも嫌がりますので、別の猫と遊んだ後は要注意です。
じっと見つめない
人間だとアイコンタクトをとるのは愛情表現のひとつですが、動物は威嚇と捉えます。かわいいからといって、猫の目を見つめていると敵意をもっていると思われる可能性があります。
激しく動かない
行動が雑だったり早かったり、ドタバタとうるさい音を立てたりすると猫はストレスを感じます。
住環境をころころ変えない
猫は環境の変化に敏感です。引っ越しはもちろん、家具の配置が変わるだけでも嫌がります。また、飼い主がいつもと違う様子なのも敏感に察知し、ストレスを感じてしまいます。
このように、猫と仲良くなるためには、「猫様本位」に行動することです。猫が近づいてきくれたら遊んで、猫と目があった時はゆっくりまばたきをしましょう。そして、上から見下ろさず、できるだけ猫の目線にあわせて接します。また、猫が近くにいるときは大きな音を立てず、ゆっくり動きます。これらを繰り返すことで、猫と信頼関係を深めていけるでしょう。
猫の鳴き声“ミャオ”には意味がある?
猫の鳴き声として一般的な“ミャオ”ですが、実はよく分析すると周波数が微妙に違います。私たちの研究では、少なくとも以下の4つの要求を使い分けていると判断しています。
2.エサが欲しいとき
3.外に出たいとき
4.名前を呼ばれたときの返事
猫を飼っている人にも実験をしたところ、この4つを聞き分けられており、猫の要求に答えられている飼い主がほとんどでした。また、猫も人の言っていることをなんとなく理解はしており、名前やエサなど特定の言葉は確実に理解しています。猫は何を考えているかわからない部分は多いですが、案外、人間と通じ合っているところもあるんですよ。
猫の“何を考えているのかよくわからないところ”がおもしろい
いろいろとお話ししましたが、実はまだ猫がなぜこれほどまでに気ままなのかということは詳しくはわかっていないというのが現状です。ただ、猫が好きな人にとっては、この“何を考えているのかよくわからないところ”も魅力的に映っているのではないかと思います。猫は、いい意味で期待を裏切るところがあって、読み通りにこないことが面白いんです。
ぜひ皆さんも、猫と触れ合って、癒しと覚醒の効果を体験してみてください。
内山 秀彦先生
東京農業大学 農学部動物科学科 准教授。動物行動学、アニマルセラピーをはじめとしたヒトと動物の関係学に関する研究を行っている。
取材・文 中屋麻依子/写真 こま&とら
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