「やりたいことを見つけるなら、群れないで好きなタネを蒔き続けろ」ヒロシさんインタビュー
自虐ネタで一世を風靡した芸人のヒロシさん。今、ソロキャンプYouTuberとして、登録者数50万人以上を持つなど注目を浴びています。20代で会社員を経験し、30代で芸人としてブレイクし、そして40代で新たな道に進み成功を収めたヒロシさんに、自らの経験から20代、30代のうちにやるべきことを聞いてみました。
「これでいいのか」と40代まで“転職”を繰り返してきた
――ヒロシさんの職歴を振り返るといろいろ“転職”されていますよね。
大学を卒業後に保険会社に入社して、その後、芸人を始めて、食えなくてホストをやったりして。そして今はYouTuberですからね。まぁ、いろいろやってきたほうかもしれません。でも、一番の大きな転職は保険会社から芸人かな。
――なぜ、会社を辞めたのですか?
入社して1ヵ月経った頃から頭痛がひどくなってしまったんですよ。会社が嫌でしょうがなかったんでしょうね。ごく普通の家庭で育って、高校を卒業したら大学に進学して就職するのが当たり前だろうと思っていましたし、学生時代から芸人になりたい思いはあったけれど、実際に行動に移すことなく就職して。
――そうしたら体に不調が出てしまったと。
それでやりたかった芸人の道に進むことになるんですが、それはそれで嫌なことがたくさんあって。お客さんの前でライブをする前に事務所の人たちにネタ見せをして散々なことを言われながらも、OKが出ないとライブにも出られないし。芸人の世界でも売れっ子芸人についてヨイショしたり、出たくもない飲み会に参加しないといけない風潮があったり。そもそも僕、酒が飲めないですからね。飲み会にも参加せず、人とも群れないようにしていたら、つまはじき状態ですよ。そんな状態に「これでいいのか」と20~30代はいつも考えていて。40代になってやっと「これでいいんだ」と思えるようになりましたけど。
――そう考えるとヒロシさんは昔から自分の好きなことと嫌いなことがハッキリしていたんでしょうね。
それはありますね。人と一緒にいるのが苦手だったので友達も作らなかったし、結婚もしていないし。でも、お笑いのネタを考えるのは好きだったから何時間でも部屋にこもって考えられる。自分の嫌いなことが世の中ではやれて当たり前だったりすると、それをやらないのは勇気がいると思いますが、でも時にはやらない勇気を持つのも必要だと思います。僕の場合は悩んだ時期もあったけど、無理するのをやめたら気持ちがラクになったので。
タネ蒔きをすればツライ仕事がプラスに変わることも
――ほかにも自分の経験から20代、30代のうちにやっていてよかったことはありますか?
タネをできるだけたくさん蒔くこと。タネというのは自分が好きなことを実際にやることです。例えば、プラモデルが好きならプラモデルを作ってインスタにあげたり、僕みたいにひとりでキャンプに行った様子を動画にアップしたり。何かを始めようとするとバカにする人や否定する人が必ずいるんですけど、でも、他人の意見は関係なくやればいいんです。僕もソロキャンプをYouTubeにあげ始めた当初は、照明の使い方も分からなくて夜の闇の中でひたすら物音がする動画をアップしましたから。誰も観ないですよ、そんな動画。でも、少しずつ撮影方法や編集スキルを学んで、5年間アップし続けていたら視聴者が増えて、お金にもなってきました。
――ヒロシさんのキャンプ動画はヒロシさん自身が楽しんでやっているのがわかるから観ていて面白いんですよね。特に大きな出来事が起こるわけではないんですけど、そのリアルさが心地良いというか。
今、YouTuberは儲かると分かってやっている人が多いですけど、視聴者も建前や嘘を見抜きますから、本人が本気で楽しんでいることは絶対条件。やっていることがくだらないことでも楽しんでやっていれば、それに興味がある人がついてくる。YouTuberでなくても何がブレイクするか分からないから、たくさん蒔くのが大切なんです。とはいえ、今の仕事を辞めて、好きなことだけをやるのは危険。いきなり無一文になると、好きなことができなくなる恐れがあるので。仕事をしながら少しずつタネを蒔いていけば、たとえば、仕事中に嫌なことがあったとしても、絵や小説を書いている人ならそれがネタにもなりますし。
――タネ蒔きを普段の生活の楽しみにすればいいんですね! タネ蒔きをするうえでコツがあれば教えてください。
僕が思うに、ひとりで始められてひとりで辞められるタネがいいと思いますね。何人かでやるものだと、あーだこーだ言う人が出てきて自分が好きなようにできなくなる。僕は内向的な人間なので「みんな」という言葉が嫌いなんですよ。みんなでいると不自由になるじゃないですか。やってみたもののイマイチおもしろくなくて辞めようとすると「もう辞めるの、根性ねーなー」とか言うヤツがいたりして。そんなヤツは無視すりゃいいんですけど、できない人もいるだろうから、だったら最初からひとりでやるものがいいです。
もし、やりたいことがあっても時間が取れないとか気持ちに余裕がないなら、自分がやりたい構想をノートに書くだけでもいいです。僕は20代や30代でやりたいことがなかなかできずに悶々としていた頃、女性専用の出張足つぼマッサージをやってみたいと思ったんです。バイクの後ろに足湯を積んで、女性の家で足つぼマッサージをするというコンセプト。女性の脚にタダで触れられるなんて最高じゃないかと考えて、必要経費やマッサージの流れなんかを綿密にノートに書きこんでいました。やりたい妄想を書いていると悶々とした気持ちが晴れてきて、楽しくなってくるんですよ。まぁ、マッサージ店は実際にはやれなかったんですが。
やりたい思いがあるなら、人の意見は聞くな
――脚は触れなかったんですね(笑)。確かに、やりたい気持ちを外に出すのは大切なのかもしれません。反対に20代、30代でやらなければよかったことってあります?
あくまで僕の例ですけど、大学に行ったことと就職したことかな。大学時代なんて何も学びませんでしたから。勉強だけじゃなくて、友達関係を築いたり人生を考える時間を持ったりとか何一つやらかなかった。裕福ではないウチの家計から大金を出させてしまっただけで。学生時代から芸人がやりたいと思っていたんだから、さっさとやればよかったと思います。やってダメだったら見切りをつけて他の道に早めに切り替えられますし。今の時代はやりたいことがすぐに始められる環境が整っていますからね。もし、今の時代に芸人になりたいと思えば、YouTubeでネタを発信すればいいし。今の20代と代わりたいぐらいです。
――今、20代に戻れたら何をやります?
速攻でYouTuberになります。自分が好きなことをひたすら発信する。
――回答も速攻でしたね(笑)。ヒロシさんは芸人から始まり、一貫して人が観て喜んでくれるものが好きなんですね。
それはありますね。これまでやってきたことは、すべてそこに通じているかもしれません。
――40代で好きなことをやって生きているヒロシさんが仕事をするうえでのポリシーってありますか?
人の意見を聞かないことですかね。自分がやりたいと思ったら貫く。実際、非難されながら東京に出てきましたし、成功するわけないと言われて個人事務所を立ち上げましたし、観る人なんていないと言われながらYouTubeを始めましたし。一度きりの人生なんですから、なんで自分のやりたいことやっちゃいけないんだ、と。振り返れば「芸人になりたい」と言った僕をバカにした学校の先生の言うことを聞いて、別の仕事をしていたら僕にとっては地獄だったかもしれない。最近「好きなことだけで生きていく」なんて言葉がありますけど、昔はそれがワガママだとか、できるわけがないと言われていましたが、今の時代は通用しますよ。僕自身もいろいろ言われるでしょうけど、これからもやりたいことのタネは蒔いていこうと思います。

ピン芸人でブレイク後、2015年からYouTuberとして「ヒロシちゃんねる」を配信。ソロキャンプ動画が話題となり、現在、チャンネル登録者数は50万人を超える。著書に『ひとりで生きていく』『働き方1.9 君も好きなことだけして生きていける』などがある。

廣済堂出版
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取材・文 中屋麻依子/撮影 八木虎造
※文中の社名・所属等は、取材時または更新時のものです。