大学生におすすめの本。アキナ・山名文和さんが選ぶ、力をくれる言葉が詰まった4冊
大阪を拠点に活動しているお笑いコンビ“アキナ”の山名文和さん。高校生の時に手にした太宰治がきっかけで本の魅力にはまり愛読家になったとか。そんな山名さんに、今回大学生におすすめの本を4冊選んで紹介してもらいました。
一つの言葉が自分の気持ちと重なって、前に進む力になることは多い
――まず、山名さんが読書にハマったきっかけを聞かせてください。
高校1年頃、違うクラスのあんまり仲がいいというわけでもなかった友だちが、太宰治の『斜陽』を「面白い」って言っていたのを耳にして、何となく手に取って読んだんです。そしたら、面白くて、それがきっかけで読書好きになりました。そのときの自分の気持ちと重なるというか、そんな大げさなものでもないんですけど、漠然と思っている感覚とピタッとハマったんでしょうね。
――今回“大学生におすすめの本”を4冊選んでいただきました。
10代の後半ぐらいって、将来がわからなくて、どうしたらいいか見えなくなる時があると思うんです。僕の経験から、何気なく手に取った本とか、目にした一つの言葉が自分の気持ちと重なって、それが前に進む力になることは多いです。そういうことからこの4冊を選びました。
自分にとって響く“言葉”がきっと見つかる1冊
タイトルは『小学生で』なんですけど、中学、高校、大学の頃読んでおきたかったな、という本ですね。いろいろな著名人、作家さんなどの言葉が収められていて、一つ一つが素晴らしい言葉ばかりです。個人的に刺さったのは、谷川俊太郎さんの詩です。谷川俊太郎さんは、もともと好きで詩集を買ったりしてましたが、知らない作品もこの中にあって、その中でも「かけっこ」という詩が響きました。負けから見える世界もあるんだよ、みたいなことを簡潔に描かれた一篇なんですけど、いいんですよ。ぜひ、読んでいただきたいです。
正直、一人の方の言葉集だった場合、この人あんまりやな、って思うこともありがちですが、こういういろんな方の言葉が収められてるものだと、見つかるものが必ずあると思うのでお勧めです。響く部分は人それぞれだと思いますけど、10代、20代前半の方が読んでも、力になる言葉が詰まった1冊です。
全篇すべていい。日本語の素晴らしさも堪能できる
これは短編集なので、長い小説1冊は読み切れない、という方も短編集だと、一つ読めたなという達成感を感じられると思います。本に接するきっかけとしてお勧めします。僕は、短編集を読むときに10個の話が収められてるとしたら、飛び抜けて3つぐらい面白かったら、「この本買ってよかったな」って思えるんですけど、この『つめたいよるに』はすべていい! 特にお気に入りなのは「晴れた空の下で」。おじいちゃんとおばあちゃんが食事して、「桜が綺麗だね」と言って散歩に行く、という静かな話です。でも、最後に大どんでん返しがあって、すごく温かくなる作品です。夫婦って素晴らしいなって思えましたね。
江國さんの作品は日本語がすごく綺麗なんですよね。感情表現でも「くつくつと笑う」、「ころころと笑う」、「びょおびょおと泣く」とか。こういうのがふんだんに文章の中に自然に使われていて、その一言で状況が平面から一気に立体になってくる。日本語の素晴らしさを感じられる1冊でもあると思います。
簡潔な文章で書かれているのに凄みのある作品
この方の小説、文章が「小説読んでます」みたいな感覚もなく、本当にわかりやすい言葉で書いてくれていて、スッと頭の中に入ります。物語は、知り合いの方があひるを飼えなくなって、ある一家が飼うことになる、というところから始まるんです。お父さん、お母さん、娘さんの3人の家にあひるはやってきて生活が始まって、今まで定年退職で少し元気を失っていたお父さんとお母さんがあひるの存在で元気になっていくんです。近くの小学校に通う子供たちがあひるを見たくてやって来たりして、子供たちとの交流も始まって、すごく賑やかな家になってきた……というところから、これはもうハッキリとではなく、絶妙にお父さんとお母さんの人間が変わっていきます。ホントに絶妙に……。それを淡々と難しい言葉もなく、すごく簡潔な文章で書かれていることに恐怖を感じます。わかりやすいのに凄みのある作品です。
パっと開いたページに“生きること”の教えがある
この方、比叡山延暦寺で大変な修行を重ねた方で、元々は38歳までフラフラしてた方だったそうです。仕事をやってもすぐに辞めちゃうような日々で、居候させてもらってた親戚のおばさんから、「あんた何してんの」っていつも小言を言われて、逃げるようにして比叡山に行くんです。「せっかく来たんやから、ゆっくりしていけや」、で1週間2週間3週間と延びたのがきっかけで、もう寺入れ、となって、そこまで適当に生きてきた人が、お寺の学校を首席で卒業することになります。そこから「千日回峰行」という“行”を2度成し遂げるまでなるという……。その「千日回峰行」を回想するお話もありますし、今、いろんなことを経て、生きるってのはこういうことだよ、みたいなことを一切自慢げもなく、優しい言葉で書かれています。
これ、小藪(一豊)さんに教えてもらったんですけど、そこからハマって本も全部買ってDVDも買いました。タイトルにもなってますけど、一日って一生やな、と。1日1日を大切に目一杯生きよう、というのを感じることができます。これは読む、というよりは、ずっとカバンに入れて、持ち歩いてますね。パッと開いたところに教えがある、という感じです。
まずは本屋さんにいくところから始めてみてください
――山名さんが、本を読むことによって得たものはどんなことでしょうか?
人にポンと言われた言葉に対して、あれ腹立つ、ムカつく、って感情が湧くじゃないですか。それだけで終わっちゃいそうなところを、「ここでこういう言葉を言うのはこの人はこういう気持ちで言ってるんだな」とその奥行きを考えるようになれたのは本のおかげかなと思います。だから、嫌なことを言われたとしても、そこだけを汲み取るんじゃなくて、「いや、この流れがあったし、今までこういうこともあったから」と許せるようなったような気がします。
――これから読書をしようとする学生にアドバイスをお願いします。
まずは、本屋さんに行くといいと思います。最初に売れ筋みたいな新刊のコーナーに行って、タレントさんの本のコーナー見て、そこから趣味の本、経済の本、普段目にしない本のコーナーに行って、トコトコ歩いているだけで、ちょっと大人になった感じがします(笑)。そこで気になった本を手に取ってみるとか、何かのきっかけにはなると思うんです。できれば本屋さんは友だちと行くんじゃなくて、一人で行くのがいいかな、って思います。

山名文和(やまな・ふみかず)
お笑いコンビ“アキナ”のボケ担当。1980年07月3日生まれ。滋賀県出身。NSC大阪を卒業後、2012年にツッコミ担当の秋山賢太とアキナを結成。2016年、2020年M-1グランプリ2016・2020ファイナリスト、2014年、2015年、2017年キングオブコンファイナリスト。特技はバスケットボール。趣味は書道、少林寺拳法。また芸人きっての読書家として知られている。
◆アキナ 公式プロフィール:https://profile.yoshimoto.co.jp/talent/detail?id=3475
◆アキナ Official YouTube:@user-cw2to1zw6p
◆アキナ山名 Twitter:@sausageyamana
◆アキナ山名 Instagram:fumikazu_yamana
企画・編集:ぽっくんワールド企画 撮影:小坂和義 取材・文:田部井徹