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2025年03月25日

カレー沢薫の「日々、なりゆき、運任せ」│推し活仲間との温度差問題

カレー沢 コラム タウンワークマガジン townwork

1日中SNSのトレンド入りし、おすすめ欄では9割の人間がこの話題で殴り合っているようなホットトピックでさえ、1歩ネットの外に出ると誰も知らないという現象がある。

ネットでこれだけ有名なのだからリアルの人間にも通じるだろうと話題に出しても相手は知らず、ただ「こいつはインターネットばっかりやっている」という事実だけが知られてしまうのだ。

ネットの人間は陰謀論などを信じている人間をバカにしたりするが、現世を生きる人間から見れば我々もネットが世界の全てだと信じ込んでいる人たちであり、医者の診断にすら「でもネットにはこう書いてあった」と言って斬りかかるバーサーカーでしかなかったりする。

よって、ネットで盛り上がっているからと言って、現世での世間話でおいそれそれを出すことはできない、ちいさくてかわいた大地に粛正をもたらす奴、の話ですら未だに外で話していいことなのか迷う。

だがさすがに「推し活」は、オンオフ共通語になったのではないだろうか。

アイドルや二次元キャラなどの対象を追いかけたり応援することを「推す」と言うようになり、推される側は「推し」と呼ばれるようになった、そして推しを推す行動の全てが「推し活」である。

簡単に言えば「ファン活動」なのだが「趣味はフィギュア制作でポリレジン推し」など、推される対象は多岐に渡り、活動内容にも定義がない。

推しがアイドルならライブを見に行ったり、グッズを買ったりすることが推し活になるが、カレー推しの人間にとっては「食う」ことが主な推し活内容だったりする。

しかし、カレー屋の外観をひたすら眺めたり、カレーが印刷されたアクリル片を玄関に飾るという推し方もないわけではない。

逆にアイドルの推しを口に入れようとする活動はいけないが、本人や他人の迷惑、そして法に触れない活動であれば全て推し活として成立するということである。

非常に使い勝手の良い言葉として広まっていき、さらに商業的にも「推し活は経済がループザループする」とバレたため、メディアがこぞって「推し活推し」をするようになり、「推し活」はネットやオタクの高すぎる垣根を超え、一般化したのではないかと思われる。

しかし、この所感もネットが全ての私が言っていることなので正直当てにならない。
現世で推し活の話題が通用するのか現地調査してみたいところだが、何せネット以外に話し相手がいないため確かめようがないのだ。

どちらにしても推し活はジョイであり「格差貧困油地獄活動」みたいな言葉が一般化するよりマシであろう。

しかし、人間はやっと見つけたガンダーラに自らドブを作って自分でハマりがちなところがある。

このストレス社会をサバイブする手段の一つとして広まった推し活だったはずなのに、広まったことにより推し活自体にストレスを感じる者が出始めたようだ。

そんなわけで今回のテーマは「推し活仲間との温度差問題」である。

まず言えるのは、推し活において、自分の注意が推し、最低でも自分に向かず「推し活仲間」なる他人に向かっている時点で、そのジャンル、もしくは推し活自体に向いてないと思った方がいい。

推し活はストレス解消の手段の一つだが「自分に向いてないことをする」以上のストレス源もなかなか存在しない。

推し活がビッグビジネスになったことにより「今の世の中推しの一人もいないようでは」という圧すら感じるようになってきているが、これは「酒が飲めないなんて人生損している」と同レベルの妄言である。

酒が飲めない人間が酒を飲んだら大損しか発生しないように、推し活も向いてない人間が無理にやっても楽しくないばかりか、金と時間を無駄にしストレスだけを得る結果になりかねない。

まずはこの一億総推し社会に流されないことが肝心だ。

しかし、無理して推し活をしているわけではないが、周囲の熱についていけない、もしくは自分が飛ばし過ぎており、振り返ったらいつも無人の荒野で孤独を感じるという人もいるだろう。

だが、温度差がある場合、自分が無理して合わせたり、相手を「もっと本気出せよ命かけろよ」と煽ってさらに冷めさせるより、最初から同温度の人間と付き合うことの方が重要だ。

私も昔某男性シンガーの大ファンである先輩に付き合ってコンサートに行ったのだが開始が一時間ぐらい押してしまい、途中退席しなければ帰宅できない状況になったのだが、強火のファンである先輩に途中で帰るなどという選択肢などあるはずがなかった。

それにつきあった結果、ワンナイトネットカフェ難民となり、我に返った先輩もこちらが一言でも苦言を言えばすぐにでも腹を切りかねない申し訳なさ感を出していた。

これが同温度の人間であれば、化粧は落とせずともその表情に悔いなしだろう、しかし同じ価値観の仲間というのもそうそう見つかるものではない。

よって一番手っ取り早いのは、ソロ推し活だ、これさえできればガンダーラに掘られた最も巨大なドブ「人間関係」を撤去できるのでほぼ無敵と言っていい。

それは寂しいと思うかもしれないが「虚無推し」とかでなければ、仲間はいなくてもそこに推しはいるはずだ、推しがいても寂しいならもう何をやっても寂しいだろう。

推し活は推される推しと推す自分さえいれば成立するものであり、他はオプションである。

車体ではなく、車内に敷くファーのことばかりが気になるというのは健全ではない。

推し活仲間なるファーが気になった時は「これは推し活にとって不可欠なものではない」ということを思い出し、今一度推し自身の方に目を向けてほしい。

カレー沢薫
1982年生まれ。漫画家・コラムニスト。2009年に『クレムリン』(講談社)で漫画家デビュー。SNSでは“自虐の神”と崇められる人気作家。
X(旧Twitter): @rosia29

【カレー沢薫の「日々、なりゆき、運任せ」】
▶第2回 うっかり忘れについて考える
▶第1回 スマホとの付き合い方を考える

【カレー沢薫さんのその他の記事】
▶カレー沢薫の「バイト丸わかり図鑑」

※文中の社名・所属等は、取材時または更新時のものです。

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