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2025年04月24日

カレー沢薫の「日々、なりゆき、運任せ」│お金をとるか、時間をとるか

カレー沢 コラム タウンワークマガジン townwork私はこのような文章を書いたり漫画を描くことで糊口をしのいでいるのだが、白紙の原稿の前に座った瞬間、恐ろしくクオリティの高いハシビロコウのモノマネが始まり、通りすがりの知らない人に「俺じゃなきゃこれが静止画じゃないと見逃しちゃうね」と言われることもしばしばだ。

これが時給850円のパントマイムバイトなら帰りに菓子パンを2個奮発してやっていいぐらいの成果だし「まんじりともしない」を説明する時の教材にも使えるのだが、私の仕事はコラム1本や原稿1枚でいくらという歩合制である。

つまり、一つの仕事に時間をかければかけるほど時給が低くなり、我が村の最低賃金を下回るまでそう時間はかからない。

漫画の1枚当たり原稿料を聞くと意外と高いと感じるかもしれないが、そこにかかる時間、時には人件費を説明すると無言でスマホにすきまバイトアプリを入れられ「ここからやりなおそう」という顔をされる。

このように、労働者自らが労働基準法をおかしにいき、与えられた権利を放棄していく様が我々歩合制フリーランスのアウトローかつクールなところなのだが、オシャレが真冬に両肩を放り出すような「我慢」な時があるように、クールとは「非効率」な場合も多い。

最近世の中は「効率」を求めがちであり「コスパ」に続いて「タイパ」などという言葉も聞かれるようになった。

「タイパ」は「時間効率」という意味であり、これを良くすることでQOLを上げていこうという話なのだが「自分タイパ重視でいきたいんで」と言った瞬間、周囲を軽くイラっとさせコミュニケーション効率が悪くなる諸刃の言葉でもある。

だが「タイパ」という言葉にイラつくのは私のように自ら時給180円を課しているような意識低い系が多いので、そのタイプが「タイパ」の一言で退散していくなら、やはり人間関係効率が良い言葉とも言える。

「タイパ」が台頭してきたのは「もしかして『時間』って大事なんじゃないか」と気づく人が増えたからだろう。

学校卒業後、数十年間「労働」に従事するのが未だに標準的人生モデルの一つにされている時点で全然時間の大切さに気づいてない気もするが、ヘレンケラーだって「ウオーター」という気づきの第一歩があったからその後様々な学びを得たのだ、我々もようやく水という概念を得たということかもしれない。

俺たちのタイムパフォーマンスはまだ始まったばかりであり、我々世代が存命中に「仕事ほどタイパが悪く、人心を害すことはないから法で禁じる」という結論に至ることはないかもしれないが、逆に避けられないからこそ、タイパとコスパを考えて仕事をしていくことが大事とも言える。

バイトであれば単純に「高時給」ほど、タイパとコスパが良いように見える、同じ1時間働くなら時給800円より1500円もらえた方がどう考えても効率が良い。

しかし「数字だけを見て却って効率が悪くなる」というのも効率厨が陥りがち罠である。

最近は寝に関しても単純な睡眠時間だけでなく「質」を重視する傾向がある。

夜行バスで一晩寝たはずなのに、何故か起きた時、地球に帰還した宇宙飛行士の如く両脇を支えられなければ歩けないほど消耗してしまっているように、質の悪い睡眠は回復どころか逆に毒になりかねないのだ。

睡眠ですら内容次第で毒と化すのだから「比較的心身に負担が大きいことで知られる仕事」であれば、ますます数字だけでなく内容にも注目していかなければならない。

高給の仕事というのは、資格や特殊なスキルが必要な場合も多いが、単純に過酷な仕事という場合もある。

例え時給2000円のバイトでも、あまりにも仕事内容の毒素が強く30分でバッくれてしまったらその時間は完全に無駄であり心身に30分の負荷かけただけの不健康マシンピラティスでしかなくそれなら800円の仕事を3時間勤め上げる方がまだ効率がいい。

30分はいたのだから1000円は振り込めといえるガッツがあれば別だが、その精神力があればそもそもバッくれないだろう。

よって、金や時間などの数字よりも、仕事の有毒性に着目し、それによって害される健康という、ある意味金よりも価値がある財産を守ることを重視し、賃金は安くとも心身への負担が軽く、長く続けられる仕事を選ぶ人もいる。

最近では「毒の摂取量自体減らしていくべきである」として、労働時間をできるだけ減らす「セミリタイア」や「サイドFIRE」などの働き方も注目されている。

どちらにしても、現在の「効率の良い働き方」とは働けるうちに過酷でも高給な仕事を詰め込むことではなく、趣味時間や健康を維持しつつ無理のない範囲で働くことを指しているような気がする。

ただ、仕事は体にとって毒になりがちだが、毒にも種類と効き目に個人差があり、ごく稀に完全な抗体を持ち「仕事が好き」と言い出す突然変異種も存在する。

このような完全体になることは難しいが「毒によっては効き目が薄い」という性質は誰もが持っているものだ。

私がやっている、白紙の前で動物の真似をしながら時給減少に1日平均12時間耐える仕事も人によっては毒かもしれないが、私はこの仕事を15年間病欠なしで続けているし、逆に私がマナティーやタツノオトシゴのコスプレをしている間に、担当編集が5人ぐらい病(ビョウ)による休職で交代した。

どれだけ気を付けても病(ビョウ)になる時はなるが、仕事のストレスが病(ビョウ)の原因の一つであることは否めないし、病(ビョウ)に臥せっている時間はタイパが良いとは言えない。

つまり金や時間、内容ですらなく「自分にあった仕事」ほどタイパがいい仕事はないということだ。

現在4月11日、すでに新卒で入った会社を退職し、大きく出遅れてしまったと落ち込んでいる人もいるかもしれないが、自分に合った仕事を見つけるべく、合わない仕事を早急に切ったという意味ではかなり効率の良い動きをしている。

時間も金も一瞬の損に囚われすぎないことが重要だ、しかし「何もしないまま過ぎた15年」も一瞬の積み重ねだったりもする。

短期と長期、極端にならず両方の視点で見ることが時間を効率よく使う要と言える。

カレー沢薫
1982年生まれ。漫画家・コラムニスト。2009年に『クレムリン』(講談社)で漫画家デビュー。SNSでは“自虐の神”と崇められる人気作家。
X(旧Twitter): @rosia29

【カレー沢薫の「日々、なりゆき、運任せ」】

▶第3回 推し活仲間との温度差問題
▶第2回 うっかり忘れについて考える

【カレー沢薫さんのその他の記事】
▶カレー沢薫の「バイト丸わかり図鑑」

※文中の社名・所属等は、取材時または更新時のものです。

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