スマートフォン用サイトを表示

アルバイトや転職に役立つ情報が満載!最新のお仕事ニュースなら【タウンワークマガジン】

2025年08月26日

カレー沢薫の「日々、なりゆき、運任せ」│リアルを見せたい若者と見せ方がわからない大人

カレー沢 コラム タウンワークマガジン townwork先日、ワケあって1アイテムツェーマン以上するデパートコスメを購入した。

この偉業を今すぐXの民草に報告せねばならぬと、早速写真を撮影したのだが、ロケ地である私の部屋が廃墟すぎて「スラムにそびえるデパコス」という資本主義のおぞましさを描いた前衛芸術みたいになってしまった。

このままアップした方が専門家からの評価は高いだろう、だが一般人からは「顔面に1万円汁を塗りたくる暇があるなら部屋を片付けろ」としか思われないはずだ。

よって廃墟部分をギリギリまでトリミングすることにしたのだが、よく見たら「住所が書かれている書類」の上にデパコスを置いて撮影してしまっている。

私生活の乱れだけでなく個人情報まで晒したエクストリーム撮影をした上でその部分を全部切り取るという割烹料理級の手間をかけているのだが、どこを切り取っても「虚栄」しかない話である。

しかしSNS上にはこの「高い買い物は見せたいが汚い部屋は見せたくない」という虚栄がそこかしこに溢れており、むしろ虚栄に「イソスタ」というルビを振っても校正を通ってしまうレベルだ。

だが、このSNS虚栄は老がやることであり、若者は「ありのまま」を見せることこそがクールだという考えらしい。

そんな若者の間で流行っているのが「BeReal」というSNSだ。

老が「今若者の間でこれが流行っている」と言い出すころには若者間でのブームは終わり果てており、今はどれだけ盛れるかを競うロココ調アプリが流行っている可能性がある。

実際「BeReal」が登場したのは結構前なのだが、我々がXをやり続けているように、リアルし続けている若者もいるのだろう。

BeRealのコンセプトはズバリSNS虚栄に対する逆張りだ。

1日1回BeRealから「お前のリアルを見せてやれ」という挑戦状が届き、ユーザーはそこから2分以内に写真を撮影して投稿をしなければならない。

つまり、部屋を片付けたり顔にペイントをする時間はない、今そこにあるリアルを撮影して投稿するしかない、ということだ。

2分経っても投稿はできるのだが、投稿には「late」と表示され、閲覧者に「こいつはリアルじゃねえ、とんだフェイク野郎だ」ということがバレて恥ずかしいという。

よって、BeRealには片付かない部屋、リアルやナチュラルを越えてネイティブかつワイルドな顔面が溢れており、その姿こそがクールだとされているらしい。

らしい、というのは私はそのSNSをやったことも見たこともないからだ、100歩譲って閲覧だけなら良いが、自分はそこでリアルする気にはなれない。

そんなわけで今回のテーマは「リアルを見せたい若者と見せ方がわからない大人」だ。

人前ではちゃんとしなきゃいけない、そうでなければ恥ずかしいという意識が強い人間にとってBeRealのシステムは乗りこなせない荒馬であり、そんな裸馬に自らも寝起きの全裸でライドしている若者の姿は恥知らずにすら映るかもしれない。

しかし若者にとっては、ありのままの姿を「恥ずかしい」としてきた感覚の方が異常であり、それを正すために積極的にありのままを晒していくべきだ、ということなのだろう。

確かに「人前ではちゃんとしなければいけない」の「ちゃんとレベル」は低い方が社会は生きやすくなると思う。

少し前に、パンプス着用義務による女の足破壊に抗議する運動が起こっていたし、今でも「何故このパンストとかいう儚い命を毎回数百円出して履かないといけないのか」というダブルミーニング的議論は続いている。

これは「ちゃんと」の中に、パンプスやパンストが組み込まれてしまっているせいで多くの人間が生きづらくなってしまっているということだ。

だが、ちゃんとを緩和する運動は1人でやっても「非常識な人」で終わってしまう、大勢で「そこまでちゃんとしなくてもいいじゃないか」と言うことで、常識は変わるのだ。

そういう意味で、ちゃんとしてない姿を大勢で晒していく「BeReal」は、映えない奴はすっこんでいろというSNSよりも世の中を良くしているといえなくもない。

しかし「人に良く見られたいという気持ちがそんなに悪いことなのか」という気もする。

着飾った人間を、パンイチの人間が大勢で取り囲み「自然が一番なのにバカじゃねえの」と石を投げてしまったら、単に囲む側と囲まれる側が逆転したにすぎない。

自分の古い考えが正しいと思い込んでいる「老害」がいる一方で「若者がやっていることの方が新しくて正しい」と思い込んでしまうのも老の悪いところだ。

若者がどれだけリアルをさらけ出していようとも「俺は自分のツラなど死んでもネットに出したくない」と思うなら出さなくていいのだ。

問題は出さないことではなく出している人間を「恥ずかしくないのか」と非難することである。

つまり、X民がBeRealについて言及するというこの行為自体が間違いということだ。せっかく住み分けられている別属性についてガタガタいうのは領地侵攻でしかない。

多様化といっても自分が変わる必要はない、ただ自分と違う他人のやることに口を出さないようにするだけでほぼ多様化は完了なのである。

カレー沢薫
1982年生まれ。漫画家・コラムニスト。2009年に『クレムリン』(講談社)で漫画家デビュー。SNSでは“自虐の神”と崇められる人気作家。
X(旧Twitter): @rosia29

【カレー沢薫の「日々、なりゆき、運任せ」】
▶第7回 AIにどこまで頼っていいのか悩む問題
▶第6回 多様化社会の歩き方

そのほかの記事はこちら

【カレー沢薫さんのその他の記事】
▶カレー沢薫の「バイト丸わかり図鑑」

※文中の社名・所属等は、取材時または更新時のものです。

早速バイトを探してみよう