幾度の芸風変更でたどり着いた、ぺこぱ・松陰寺太勇が語る“キャラ変”でしくじらないための3つの法則
新年度直前。この春から大学生活をスタートする人のなかには、ガラッとキャラ変して大学デビューをしたいと考えている人もいるでしょう。ただ、大学デビューで成功するのはなかなか難しいもの。なにか秘訣はないのか、ということで今回は昨年のM-1グランプリ以降大ブレイク、「ツッコミ方革命」のキャッチフレーズで大人気の・ぺこぱ・松陰寺太勇さんに“キャラ変”の極意を語っていただきました。
理想像を追うな、もともと自分の中にあるものにしか変われない
――まずは松陰寺さんが、今のスタイルにたどり着くまでの変遷を教えてください。
僕らの記憶も曖昧なんですけど、一番最初は「正統派けーい漫才」ですね。普通ツッコミが「お前かい!」って言うところを、「お前けーい!」と言うそれだけなんですけど。その次にやったのが「HIP-HOP漫才」です。でも、ここで初めてキャラ変に無理を感じました。ネタ中はいいんですが、フリートークの時でもHIP-HOPキャラでいなきゃいけない。元々そんな人間ではないのでボロが出てきてしまうんです。自分の中にあるものしか表現できないんだと気づいた瞬間でもあります。キャラ変をする際は、全く自分の中にないスタイルに突っ走ると後々大変なので要注意です!
――その後も、変化を続けるわけですが。
はい。着物を着てローラーシューズ履いて、そのあたりでプロフィールから本名の松井勇太を消して松陰寺太勇にしました。その後、『おもしろ荘』で岡村(隆史)さんに「着物じゃないほうが……」と言われてスーツになったという流れですね。
――いわゆる「ノリツッコまない漫才」のスタイルが生まれたのは?
最初は普通にツッコんでいましたが、着物を着てアイラインを頭皮のところまで入れて、「なんでだよ!」と言っても、「いや、お前が“なんでだよ”だろ」みたいな感じになるじゃないですか。だから、「“なんでだよ”……って言い切っていいものだろうか」みたいな。それでノリツッコマナイやり方をしたら、今まで感じたことのないざわつきがあったので正式に今のスタイルになりました。結果的に、みんながイメージする漫才とは違うものになりましたが、自分の中に生まれた疑問を追求した結果、生まれたスタイルといえるかもしれません。
他人の指摘に影響され過ぎるな。軌道修正は、自分で違和感を覚えたときにやる
――一般の人でも環境が変わる時に“キャラ変”を考える場合がありますが、それが上手くいかないと痛手は大きいですよね? キャラを変える怖さはなかったのでしょうか?
怖いですよ。やっぱり変わるには勇気がいりますよね。新しい自分を作っていくことも不安ですが、そこまで積み重ねてきたものを手放すことでもあるので。それでも、同じことの繰り返しで何も状況が変わらないのであれば、思い切りは大事だと思います。
――この季節、新入生など、新しい環境でキャラ変を考えている人にアドバイスするとしたら?
少しでも変わりたい気持ちがあるのであれば、どんどんキャラ変するべきだと思います。その時にもし他人から「どうしたの?」って指摘されたら、「どうもしてねぇ」って言えばいいですから。「変わったね」と言われたら、「全然変わってねーなお前」って言い返すくらいの勢いで。なんなら「俺が変わっていくことで何か迷惑かけたかい?」って言ってやればいいんです(笑)。僕もよく言われましたし、自分が思い切って変えた部分を指摘されると、どうしても“おかしかったかな?”とドキドキしてしまう部分もありますが、そこで他人の影響を受ける必要はありません。
ただ、変わると行き過ぎることもあるから、自分で“違ったな”と思った時に戻ってくればいい。キャラ変したからといって、そのままで貫かないといけないわけではないですからね。俯瞰の自分をもう一つ持っていれば、何度でも作り直せます!
――「もう一つの俯瞰の自分」という意味では、松陰寺さんの場合、芸名のTwitterと本名Twitterがありますよね?
はい。自分を使い分けていくことは大事だと思っています。単純にキャラクターだけではなく、人の生活の中には、学生の自分、バイト先の自分、家にいる自分、友だちといる自分と、いろんな自分がいるわけですよね。1つを変えて全部を失うことはないので、変化させたい所で挑戦してみることをお勧めします。
急激に変わろうとするな。ぼんやりイメージして徐々に近づけていく方が上手くいく

▲愛犬の“のすけ”と共に。
髪の色を変えたり、見た目から入っていくと違った自分になりやすいと思います。
――形から入ってもいいと。
全然いいと思います。僕もいろんなキャラをやる時、ガチガチで決めて入ってはいないんです。形から、ぼんやりイメージしていく。そこで“ちゃんとイメージ出来てから変わろう”と決めつけてしまうと、次はそこに縛られて変われなくなってしまったり、二の足を踏む原因になる。行動を起こす前に、足踏みをして進めなくなるくらいなら、まずはキッカケとしてぼんやり写っているものを少しずつ具現化していけばいいんです。
――ちなみに、ネタを拝見すると言葉に対してとても敏感だなと思うのですが、昔から言葉の細かいところは気になるほうでしたか?
矛盾は気になるほうだったかもしれないです。「もうええわ」はホントに「もうええ」から言ってるわけではなく、形としての「もうええわ」になっている。だから、ホントは「“もうええわ”という言葉を言わさしてもらうわ」が正解じゃないか? とか(笑)。
――そう考えると、キャラだけでなく漫才のスタイルも徐々に変化しているといえますね。
そうかもしれないです。いつでも、ちょっと人とは違った部分や、逆に共感してもらえる部分というのは手探りながらも考えていきたいと思っています。
安定より茨の道をーー変わり続けることで成長していける
――そういう新しいスタイルが『M-1』で披露されて、お笑い関係の方だけではなく、文化人の方が「ぺこぱ素晴らしい」みたいなことをSNSにあげられていましたよね。
すごく嬉しいことですけど、全然そんなつもりではなかったので“どうしよう”という思いはあります。ちょっと人格者みたいに捉えられて、ネタで『僕がちょっとためて、良いことを言う感じの間(ま)でしょうもないことを言う』というのがあるんですけど、その間を作ると“これから本当に良いこというんでしょ”みたいな空気になってて(笑)。“いや待ってくれ、そういうつもりじゃないんだ”って。でも、それもキャラクターの一部ですからね。求められるのであれば、応えていけたらと思っています。
――思わぬ副作用が(笑)。いまやネタだけでなくバラエティで活躍されていますが、今後の目標は?
常に新しいことには挑戦していきたいです。バラエティは目の前のお仕事をしっかりやっていくしかないんですけど、ネタに関してはもし今年も『M-1』に出るとしたら、去年とはまた違うスタイルのネタは作りたいと思っています。
――それは簡単ではないですよね。
そうですね。でも……茨の道は嫌いじゃないですから。
――今、“良いこと言うだろうな”という間で聞いてしまいました(笑)。
間違ってますよ。人格者じゃないですから(笑)。
――でも茨の道を行くというのは実際に……。
嫌いじゃないです。やっぱり、人は変わり続けることでしか成長できないと思っているので。もちろん変わらないスタイルという美学もあると思うんですけど、僕に合ってるのはどんどん変化して新しいことを見つけていくほうなのかなと思っています。
松陰寺太勇(しょういんじ たいゆう)
1983年11月9日生まれ、山口県出身。
相方シュウペイと「ぺこぱ」を結成。今年で11年目となる。昨年のM-1グランプリで、出場7回目にして初の決勝進出を果たした。「ツッコミ方革命」のキャッチフレーズで人気急上昇中! 3月27日には、ぺこぱの格言が詰まった日めくりカレンダー『毎日ぺこぱ あなたを包み込む、否定しない31のメッセージ』を発売。
◆ぺこぱ OFFCIAL SITE: https://www.sunmusic.org/profile/pekopa.html
◆松陰寺太勇 Twitter:@shoinjitaiyu

『毎日ぺこぱ あなたを包み込む、否定しない31のメッセージ』3.27発売
著者:ぺこぱ
出版社:大和書房
価格:1200円+税
https://www.amazon.co.jp/dp/4479393412
松陰寺さんからのメッセージ
「あなたの心の中に僕を住まわせてください、その形がこのカレンダーです。どうもありがとう!」
企画・編集:ぽっくんワールド企画 撮影:河井彩美 取材・文:田部井徹