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2022年01月24日

【コラム】会話が続かない。初対面の人とのコミュニケーションがスムーズになる鉄板のネタ(作:おばけ3号)

おばけ3号 会話 苦手 続かない タウンワークマガジン townwork

「苦手」のしたで待っていて

「いや、そこまで聞いてないって」
私がまだ大学生であったとき、バイト先の年齢が1つ上の先輩に言われたこの言葉は、さながら鉛の弾丸の如く私の心臓を貫いた。
バイト先の、街中の本当によくあるチェーンの居酒屋の休憩室での一幕だった。数えるほども話したことがないこの先輩と、偶然休憩室で二人きりになってしまったことに端を発する事故だった。
何の保険も入っていないコミュニケーションが苦手な私の身に起きたこの事故は、先輩に対してその場を無理くり取り繕おうとさほど興味のない料理の話を振った私に全責任があったと言っても過言ではない。タバコを片手に紫煙燻らす先輩に向け、私は慌ただしくもハッキリと発した。

「料理、得意なんですか?もともと。」

この居酒屋のキッチンで働き、もう3年になるという情報しか先輩の人間像の輪郭を明らかにできる情報を持ち合わせなかった私はそこからやっとの思いで捻り出したたどたどしい質問をさもさりげなく、かつ当たり前のように繰り出した。

先輩は足を組み、タバコを片手にしたまま目だけを動かし
「しないねぇ。」
と僅かな溜息を返しただけで返答を終えた。
地獄のような静寂がこの空間を包む、何か得体のしれない森に迷い込んだような、空気が不安で淀んでいる事実を感じる。私はなけなしの勇気と話題性で、纏わりつく不穏な森の空気にさらに切り込んだ。

「あっ。そうなんですか。なのにこのバイトって珍しいですね。僕結構料理好きです」
当時あまりに若かったことを差し引いてもこの返しは誰にでも悪手だとわかるような返答だった。しかし私にしてみれば、どうにか唯一であるこの料理の話題にすがりたがった。料理の話題が、この森から抜け出す唯一の手掛かりだった。

先輩は気怠そうに足を組みなおし、私に目を向けず今度は口だけを動かして言い放った。
「へえ。どこらへんが好きなの?」

ここだ。 私は渡りに船という諺(ことわざ)を体現するが如く、森の中で座礁しつつある丘の黒船に飛びついた。
「そうですねー、最近生野菜をオシャレに盛り付けるメニュー増えたじゃないですか。バーニャカウダ的な。アレとか気になって調べたりしたら楽しかったッス。ピーマンって唐辛子の一種だって知ってました?驚きません?」

矢継ぎ早に会話を広げた私に多少驚いたのか、目線をこちらに向けて
「えっ。そうなの?マジで?ピーマン辛くねーのにな。」
先輩はうっすら笑みさえ浮かべ、今日唯一の興味を示してくれた。
私は先輩のリアクションに自らの黒船が丘に座しながら森を抜けたことを確信し、胸をなでおろしながら続けた。
「そうなんスよ!しかもさらに驚いたのがピーマンて収穫しないで放っとくと色変わってパプリカになるらしいんです。で、その色が変わる過程で収穫されたものもまた幾つかに枝分かれして」
「いや、そこまで聞いてないって」

一閃。先輩の一言は刀の如く黒船を見事に一刀両断し、また私を森に独りぼっちにした。
聞こえるか聞こえないか丁度判別不能な範囲の小声で「あっすいません…」と、断末魔にも似た謝罪を繰り出す。先輩は二本目のタバコに火をつけた。

そのとき、休憩室のトビラが開き私よりもバイト歴の浅い女の子の後輩が入ってきた。
女の子は私と先輩に会釈すると丁度間に座って、先輩に流れるように一言発した。
「新しいメニュー、ものすっごい覚えにくくありません?」
怪訝な顔から飛び出た明確な愚痴に、先輩は即座に反応した。
「だよな。思うよね。あんだけ味つけ広げても誰も興味ないと思うわ。絶対標準の味しか出ないよな」
「レシピ覚えるの標準味だけでいいですかね?」
女の子はいたずらっ子のような目で笑いながら問う。
「いいんじゃね?俺も覚えてないし」
先輩も笑顔で返す。いつの間にか、つけたはずのタバコもいつの間にか消していた。その姿勢までもが足を綺麗にそろえて女の子のほうを向いている。
私は未だ助けの来ない森の中で、佇みながらその女の子のコミュニケーション能力に圧倒されていた。
なんとまあ「お互いの苦手なこと」の話題は、仲を深めることができるのだろう。
一般的に、お互いの好きなことの話題のほうが意気投合しやすく仲も深めやすく感じるがそれは極端に稀だ。
私のピーマンの話のように、両者の間に知識や興味の差が大きい話題を選択すると、両者の会話に対する熱量が違いかみ合わない。興味のない話題は共感性を呼ばず、盛り上がらないのだ。
その点、この女の子の話題は違う。
「みんなの苦手」「みんなの嫌い」を巧みに話題として扱うことで、先輩の共感と興味を誘いその場の話題として成立させたのだ。
目の前で見ていた私には、まるでそれはマジシャンの行うイリュージョンにも見えた。私は漫画のキャラクターのように口を半開きにあんぐりと開けっ放しにして一切驚きを隠せなかった。

「苦手」とは、人との仲を深める中で最も相手との境界線や差異が少ない万人に有効な話題なのかもしれない。
愚痴を言うのではなく、「苦手」を話題にして使いこなす。それを学んだ私は、それ以降数百回以上、初対面や関係性の薄い相手への話題として「苦手」を使った。
結果かなり高い確率で打ち解け、共感し、お互いの距離を縮めることに成功している。
私は確信した。「苦手」には、人と打ち解けるチカラが潜んでいる。

もし今、会話のタネに悩む方がいたら是非参考にしてほしい。

「苦手」の下で待ち合わせをしないか?

■Profile:

おばけ3号 タウンワークマガジン townwork
おばけ3号
 @ghost03type

作家、インフルエンサー。
普段はtwitterで日常の愉快な話や、舞い込む相談に対する親身な回答を発信。鋭い分析力とユニークな表現力に富んだ意見で多くのメディアと視聴者の支持を得ている。普段は会社員として都内のコンサルティング会社に所属する、婚活中のアラサー男子。
最新著書『「お話上手さん」が考えていること 会話ストレスがなくなる10のコツ』(KADOKAWA)が発売中。

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