【激レア 体験レポ】洞窟の中でプラネタリウムの投影をサポートする “宇宙バイト” in 種子島
今回の激レアバイトの舞台は、2017年11月4日深夜、鹿児島・種子島で開催された千座(ちくら)の岩屋スーパープラネタリウム『星の洞窟』。宇宙をテーマに、8月5日から11月12日まで全100日間開催された「種子島宇宙芸術祭」のメインイベントのひとつ。巨大な洞窟の壁に、世界最高峰のプラネタリウム「MEGASTAR-II」を投影するというものだ。
潮位の関係で、岩屋に入れるのは1日2回。それが夜になるのは年に数えられるほどしかない。イベントは午後11時スタート。激レアバイト史上、最も過酷かもしれない?アシスタントに、二人の大学生が挑戦した。
初めてプラネタリウムを見た時の感動を伝えたい!
「千座の岩屋」と言われる洞窟は、種子島の南東、浜田海水浴場の隣にある。挑戦するのは熊本県在住の大学生、Nさん(22)と鹿児島県在住の大学生、Wさん(21)。種子島空港に到着すると、早速、車で約25分の現地へ向かった。
Nさん「映像演出に強い関心があります。今まで、さまざまなイベントに足を運んだり、学園祭の運営も経験しました。来春には、プロジェクトマッピングなどの映像演出を手がけるイベント会社への就職も内定しています。いち早く運営側の立場を経験することで、いろんなものを吸収し、プラネタリウムという、私にとって新しい映像演出を学びたいと思っています」
Wさん「初めてのバイト代で家庭用のプラネタリウムを買った大の星好きです。人類の偉大な発明の一つであるプラネタリウムの最高峰のMEGASTAR-Ⅱを宇宙の島、種子島で見られることを県民として誇らしく思います。初めて満天の星を見た時の感動は今でも覚えています。悩んでいたことが小さく思えて、心が洗われる気持ちになりました。その感動を、ぜひお客さまにも知って欲しい!」
青い空、広がる砂浜に、巨大な海蝕岩。「千座の岩屋」は、種子島を代表する名所だ。
洞窟に入れるのは1日のうちに干潮時刻の前後2時間だけ。運良く時間が重なり、入ることができた。
洞窟は数千年をかけて、波と風が作り出した芸術品。
中に入ると、「千人が座ることができる」との言い伝えのある巨大な空間が。Nさん、Wさんも圧倒された。
洞窟の絶景ポイント。沖合に点在する岩礁が見える。
「こんなところに岩が……」「夜になったら、危ないかも」と事前のチェックも抜かりない。
下見の後は島内全土で展示中の現代アート作品を見学。「宇宙芸術祭インフォメーションセンター999」では一級建築士、小阪淳さんによる「f(p)」を体験。
手前のコントローラーを動かすと、目の前の三面モニターがさまざまな形に変化するので、2人も興味津々。
アート作品を堪能した後は、ホームセンターで洞窟作業の必需品、ヘッドライト、長靴、ゴムつき軍手を購入。これで準備万全。いよいよ、プラネタリウムの設営に挑む!
月明かりとヘッドライトを手がかりに洞窟での作業開始!!
浜田海水浴場に到着。昼間の風景とは一変し真っ暗闇。海の家のライトと月光だけが頼りだ。
ヘッドライトを点灯して岩屋へ向かう。ゴム付き軍手もはめて防寒対策も万全。
岩屋前に設営されたテントで現場責任者にご挨拶。本日の作業の説明を受けたあと、何にもない洞窟に機材やライトを運び込む。作業できるのは干潮時の数時間だけ。まさに時間との闘いだ。
スタッフさんが続々集まる中、気合を入れる2人。「就職を控えているので、こんな貴重なアルバイトを体験できるのはラストチャンス。うれしいです!」(Nさん)、「イベントのスタッフは初めての経験。少し不安もありますが、精一杯頑張ります!」(Wさん)。
プラネタリウムやLED照明用の長い電源コードを取り出すNさん。
Wさんは狭い洞窟を通って、荷物を搬入する。洞窟付近の砂浜には水たまりも多く、長靴が大いに役立った。
「MEGASTAR-II」の台座を運び込むNさん。
スタッフさんの指示を受け、洞窟に青、緑、赤、黄色のLEDライトを砂浜に丁寧に埋め込む。
WさんもLEDの設置に奮闘。真っ暗な洞窟を何度も往復し、「寒いかなと思って防寒着を買いましたが、暑いくらいです」
完成した光の回廊。天然の岩肌に反射して、美しい。次は「MEGASTAR-II」の搬入だ。
洞窟の壁に広がる1000万の星空!! 響く笙の音色!!
松明のかがり火が照らされる岩屋。入り口には、早くも長い行列ができていた。
「MEGASTAR-II」を箱から取り出す。プラネタリウム・クリエーターの大平貴之さんが独自に開発したもので、約1000万個の星を投影できる。高価な機械だけに、Wさんの表情は真剣そのものだ。
洞窟近くの砂浜は水たまりも多い。ヘッドライトで進路を照らしながら、転倒しないよう慎重に運ぶ。
「MEGASTAR-II」の周囲に、防護用のロープを設置する2人。
「MEGASTAR-II」の最終操作に指名されたのは、Nさん。スタッフからの説明を受け、慎重にスイッチをひとつずつオンにするNさん。さて、うまく作動するか?
すべてのスイッチを入れると……。Nさんも驚きの表情!!
真っ暗な洞窟の広間に、銀河が広がる。まるで宇宙空間にいるよう。
洞窟の壁に浮かび上がった満天の星に感動する2人。作業の手を止め、しばし見入っていた。
午後11時すぎ、イベントを待ちわびた人々が入場する。
入り口はLEDのライトと壁に投写する赤と緑のイルミネーション。光が交錯する。
岩肌に映ったプロジェクションマッピングも幻想的だ。
1000万の星を岩肌、砂浜に360度投影する「MEGASTAR-II 」。暗闇の中、開発者の大平さんが来場者に自ら解説。「見えているのはすべて観測によって確認された実在の星です。映し出しているのは1000万個の星ですが、銀河系には約1000億個の星があると言われています。」
予想を上回る来場者数で、会場は入れ替え制になる大盛況。大平さんは入れ替えの度に解説していた。
Nさんは来場者がつまずかないように、足元に埋まっていた岩に陣取った。
大平さんの話を間近で聞くNさんとWさん。プラネタリウムや宇宙以外の質問にも丁寧に答える姿に感銘を受けていた。
プラネタリウムが投影されるなか、坂本龍一さんのアルバムにも参加した笙(しょう)の第一人者・東野珠実さんによる一夜限りの雅楽も演奏され、一層幻想的な雰囲気に。
深夜1時すぎ、イベントは大盛況のうちに終了。「潮風は精密機械のプラネタリウムには大敵。終わった後のメンテンスは大変です。それでも、この場所で見てほしかった」と語る大平さん。NさんとWさんも大成功に大喜びだった。
Nさん「プラネタリウムに対する大平さんの熱い思いを間近に感じることができて、力をいただきました。来春から、イベント、映像の仕事に就きますが、正直、好きというだけで務まるのか、不安でした。しかし、『好き』という気持ちを持ち続け、探究心を忘れないことが重要ではないか、と思うようになりました。プラネタリウムのスイッチを押させていただき、会場に星空を映し出せた時の感動は、一生忘れません」
Wさん「自分が設営に関わった分、お客さまの『すごい!』という声が何よりもうれしく、誇らしかったです。プラネタリウムには、お客さま以上に感動してしまったかもしれません。県内外から多くのお客さんにご来場いただき、喜んでいただけたことに達成感がありました。地域や日本の魅力を伝えていけるような職業に就きたい、という気持ちが一層高まりました」
深夜に及ぶ重労働をやり遂げ、洞窟に無数の銀河を映し出した2人。その笑顔は夜空の一等星のように眩しく輝いていた。