時間を上手に使うための「気分転換の極意」
時間を「空間的」に捉え直してみる
世の中には、時間の使い方が上手な人と、下手な人がいます。両者の差には、さまざまな原因がありますが、そのひとつのポイントとして、時間を「空間的に捉えているかどうか」ということがあります。
時間の使い方が下手な人は、時間を「線」で捉えがちです。一方で、時間の捉え方が上手な人は、三次元的に広がった「チューブ」のようなイメージで、時間を捉えているのです。
左側の過去から、右側の未来に向かって、太さを伸び縮みさせながら流れていくチューブをイメージしてみてください。そうすると、「横軸」の時間の流れに対して、「縦軸」や「奥行」に向かって伸び縮みするチューブの太さが、時間の「濃さ」「密度」を表すことになります。
自分にとって濃密な時間というのは、「太く」、集中して過ごすことができなかった時間は「細い」というわけです。そんなふうに、時間の濃さ、濃度をチューブの太さで捉えてみる。
時間は決して均一ではなく、いわばウインナーソーセージのように伸び縮みしている。そういうイメージです。
もちろん、これはイメージに過ぎない、ということもできます。でも、少なくともビジネスや実務のレベルで時間の使い方が上手な人というのは多かれ少なかれ、こういう「伸び縮みする時間」のイメージを持っているものなんです。
なぜかというと、「時間のチューブ」が太くなっている時間帯を上手に使うと、「細い時間帯」に頑張るのに比べて何倍、場合によっては何十倍もの仕事をこなしたり、思索を深めたりすることができるからです。
読書でいえば、「細い時間帯」には、1時間かかっても5~10ページ読むのがやっとだという人が、「太い時間帯」には、100ページ以上、薄めの新書なら読み切ってしまうことすらあるぐらい、すらすらと読み進めることができる。
「できる人」というのは実は、そういう「伸び縮みする、三次元的な時間」を捉えることによって、普通の人よりも少し、時間の呪縛から自由になっている。僕はそう考えています。
「太い時間」を上手に使う。それが気分転換の極意!
さて、「時間のチューブ」は、自分の意志とは無関係に、周期的に伸び縮みします。いわゆる典型的な「抑うつ」状態でない限り、「太い時間」の後には必ず「細い時間」がやってくるし、「細い時間」の後には「太い時間」が待っているのです。
そういう意味では、たとえ「細い時間」に陥ってしまったとしても、そう心配することはないわけですが、問題は「細い時間」にしても「太い時間」にしても、それが10分続くのか、1時間続くのかは誰にもわからないということです。ただ、「太い時間」というのは必ず終わってしまうのに対して、「細い時間」というのは、下手をすると延々と続いてしまうことがあります。
僕の実感では、本当にクリエイティブな作業に集中できる「太い時間」はどれほど上手に維持しても、せいぜい40-50分程度しか続きません。どこかで必ず、集中力が途切れてしまう瞬間がやってきます。
ですから実践的に重要なことは、「太い時間」をいかに有効に使うか、ということと、「細い時間」からいかに早く抜け出すか、ということなんです。それがいわば、「時間の技法」の勘所なのです。
そのときに必要なのが、いわゆる「気分転換」です。気分転換というのは、「太い時間」と「細い時間」の間に、ある種「デジタルな区切り」をつけるテクニックということができるでしょう。「太い時間」からだんだんと「細い時間」に移り変わってきたら、そのまま効率の落ちた状態でだらだらと仕事をするのではなく「終わり」をキチッとつける。そのほうが、次の「太い時間」に万全の態勢で臨めるというわけです。
ただ、僕の考えでは、それだけでは十分ではありません。太い時間と細い時間にうまく乗っていくためには、「身体」を使った心理的アプローチが重要となります。
例えば気分転換ひとつとっても、身体を使って歩き、空間的に移動していくということの意味は非常に大きい。仕事場からちょっと外に出る、5分でもいいから散歩する。そうすることによって、時間の「太さ」は大きく変化していきます。
少なくとも、デスクワークに従事している人が、気分転換のときにパソコンの画面を眺めたり、スマートフォンでtwitterを見たりするよりは、絶対、歩いて、移動したほうが「時間の切り替え」という点では有効なのです。
よく、「時間がもったいないから」と食事や移動中にパソコンを開いて仕事をす
る人がいますが、単に「仕事をしている(ように見える)時間」を増やしても意味がありません。もちろん、「私は電車の中でパソコンを開いているときが一番集中できるんです」という人はそれでもいいのですが、「時間の太さ」を作っていく、という点でいうと、そうやって切れ目なく仕事や作業を続けることは、あまり効果的とは言えません。
食事をしているときは食事に集中する、移動するときは移動することに集中する。そのほうが上手に「太い時間」を活用することができるでしょう。
仕事や、作業に行き詰まったら、散歩に行く。散歩しながら、細くなっていた時間がだんだんと、太くなってきた感覚を探る。それを待ってからデスクに戻る。そんなふうに、自分なりの「太い時間」の作り方を工夫してみる。それが僕の考える、「気分転換の極意」なのです。
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名越康文(なこしやすふみ)
1960年、奈良県生まれ。精神科医。臨床に携わる一方で、テレビ・ラジオでコメンテーター、映画評論、漫画分析など様々な分野で活躍中。著書に『毎日トクしている人の秘密』(PHP、2012)、『自分を支える心の技法 対人関係を変える9つのレッスン』(医学書院、2012)、『Solo Time 「ひとりぼっち」こそが最強の生存戦略である』(夜間飛行、2017)などがある。 2019年より会員制ネットTV「シークレットトーク」を配信中。