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2017年06月06日

「やり抜く力」と「努力を継続する」ことはイコールなのか(名越康文)

名越康文 GRIT やり抜く力 タウンワークマガジン

昨年後半から話題の書籍『GRIT やり抜く力』。「やり抜く力」は才能にも勝る能力と言われていますが、この「やり抜く力」と「ひたすら努力を継続する」ことはイコールなのでしょうか。それとも違いがあるのでしょうか。テレビでもおなじみの精神科医・名越康文先生(@nakoshiyasufumi)に答えていただきました。

継続的な努力は必ず実を結ぶのか?

名越康文 GRIT やり抜く力 タウンワークマガジン
『GRIT やり抜く力』という本が面白いということは、何度か、人づてに聞いています。残念ながら、僕は未読ですが、「才能」と「成功」とは必ずしも直結しているわけではなく、むしろ「継続的な努力」こそが成果を生み出す必須条件であるということについては、僕も心理臨床の経験から実感があります。

空手や剣道といった習い事には、級や段がありますよね。才能のある人というのは、だいたい2級とか初段ぐらいまでは、すうっと駆け抜けるかのように上達していく。そこだけ見ていると、「この人はどれほど上達するんだろう?」と誰もが思う。でも、10年、20年経ってみると、意外にそういう「才能のある人」は、どこかでその習い事を辞めている。むしろ、それほど目立たなかった人が、継続的な努力を重ねることで大きな成長を遂げている。

実際、どの分野でも、そういうケースは、少なくありません。

「才能があったとしても、継続した努力がなければ実を結ばない」ということは、誰もが納得することだと思います。ただ一方で、僕らは「才能に溢れた人ほど、
継続的な努力を嫌い、才能を花開かせることに失敗してしまう」傾向があるということを、経験的に知っています。

だからこそ、「やり抜く力」というキーワードに、多くの人がピンときたんじゃないか。僕はそう思います。

才能と努力はなぜトレードオフなのか?

名越康文 GRIT やり抜く力 タウンワークマガジン
才能がある人ほど、どういうわけか、努力を怠る傾向にある。あるいは、継続的な努力ができない。

これは、そもそも理屈からして、変な話です。別に、才能と努力は、トレードオフの関係にはないはずです。むしろ、才能がない人が努力するよりも、才能がある人が努力をしたほうが、より短期間で、より大きな成果を上げられる可能性は高いでしょう。また、成果が上がれば、周囲からも賞賛されるし、モチベーションだって上がるかもしれません。

そう考えれば「才能がある人ほど、より<やり抜く力>を備えている」というほうが、自然なようにも思えます。

しかし、現実には意外とそうなってはいない。その理由はなんなのか。

よく、努力を続けるためには、高い目的意識が必要だということが言われます。しかし実は、あまりにも「目的地」が明確に見えすぎると、僕らのやる気は根底から失われてしまうことがあります。

才能に溢れた人の中で、継続的な努力ができない人がいるのは、その才能ゆえに「目的地」があまりにも見えてしまう(正確には「見えた」と感じてしまう)からなのかもしれません。

新大阪から新幹線に乗って東京を目指しているとします。岐阜羽島あたりを走っているうちは「まだまだ乗り続けないと東京にはつかない」と思えますよね。そして、浜松あたりを走っている先輩をみて「ああ、あの人はあんなに先に行っている。すごいなあ!」という敬意が生まれてきたりもするわけです。

ところが、才能に溢れた人というのは、まだ名古屋に着く前から、「2時間後には東京についている」ということが見えてしまう。だから、新幹線にのんびり乗っていられなくなってしまうんですね。変なたとえで恐縮ですが。

名越康文 GRIT やり抜く力 タウンワークマガジン
実際には、学びというのは新幹線のように直線的なものではなく、「そろそろ新横浜かな?」と思って窓の外を見たら、驚くべきことにまだ米原だったりするわけです(笑)。でも、そういうのが、何かを学ぶことの面白さであり、その面白さが、「やり抜く力」につながっているのだと僕は思います。

でも、才能があふれた人は、そういう学びのプロセスに伴う喜びや驚きを体験が少ない。他の人が行ったり戻ったりしているときに、階段を二段飛ばしで上っていくようなイメージで、どんどん上達してしまう。しかし結果的には、上達の階段を登りきる前に、学びの道から離脱してしまう。

「このまま努力しても、たかがしれている」という思いが、彼らのモチベーションを奪います。

師匠や先輩を見たときに、彼らに何ができて、何ができないか、その実力を自分は正確に推し量れる。そう感じた瞬間、学びのモチベーションは、限りなく失われてしまうことになるのです。

「目指す目的地がどんな場所か明確にわかってしまうこと」は、時に学びの道を断絶させてしまう、ということがあるんですね。

「同じ」の中にある「新しさ」を見つけ、驚けるか

名越康文 GRIT やり抜く力 タウンワークマガジン
才能に恵まれない人間であっても、継続的な努力をしていれば成功をつかめる。それは耳障りのよいメッセージではあります。ただ、現実をシビアに見つめるなら、「地味な努力を継続できる人」が必ずしも成功するか、というとこれも必ずしも「イエス」とは言えないんじゃないか、と思います。

これは別に「やり抜く力」の存在を否定するものではありません。僕が言いたいのは、そもそも「その人が継続的に努力しているかどうか」を、外から観察し、判断することは難しい、ということです。

例えば、「腕立て伏せを一日100回毎日続ける」とか「習い事に10年間通い続ける」ということは、外から観察できるタイプの努力です。でも、こういう外から観察できる努力というのは、しばしば形骸化します。形骸化した努力を重ねる中で、人はだんだんと「自分が成長すること」よりも、他人から「努力していることを評価される」ことを求めるようになります。

形骸化した努力であっても、継続していればある程度の成果をあげることはできるでしょう。しかしそれは残念ながら、長い目で見た時には、どこかで頭打ちになってしまうことが多いのです。

本当の意味で「やり抜く力」がある人というのは、外から見ると「同じこと」を繰り返しているように見えながら、実は瞬間ごとに、何か「新しいこと」を発見したり、楽しんでいる人なのだと僕は思います。

「え! 自分にこんな動きができるのか!」とか「こんな歌い方があったのか!」とか「こんな数式、見たことがない!」というような新鮮な驚きがあって初めて、人のやっていることが、本当の意味で「継続的な努力」と呼ぶに値するものになると僕は思います。つまり、本当の意味での「継続的な努力」というのは、常に、一瞬ごとに訪れる圧倒的なクリエイティブ性によって支えられているということです。

物事に没頭する感覚=やり抜く力

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「努力」というと、日本ではとかく、「無理やりやらされてるものを、我慢して続ける」という印象がありますよね。そういう「努力」は、クリエイティブ性からもっとも遠いものだし、そういう「我慢してやる努力」では、得られるものも、たかが知れています。

その一方で、いざ手をつけ始めると、時間を忘れて打ち込んでしまう「努力」があります。砂場で一心不乱に遊び続ける子供のように、いかに楽しむか、いかにイキイキとした感覚を保ち続けられるか、ということを大切にする。

そうした「物事に没頭する感覚」こそが、本当の意味で、その人の「やり抜く力」を高めてくれる。僕はそう思います。

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※この記事は公式メルマガ「生きるための対話」よりお届けします。

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精神科医・名越康文名越康文(なこしやすふみ)
1960年、奈良県生まれ。精神科医。臨床に携わる一方で、テレビ・ラジオでコメンテーター、映画評論、漫画分析など様々な分野で活躍中。著書に『毎日トクしている人の秘密』(PHP、2012)、『自分を支える心の技法 対人関係を変える9つのレッスン』(医学書院、2012)、『Solo Time 「ひとりぼっち」こそが最強の生存戦略である』(夜間飛行、2017)などがある。 2019年より会員制ネットTV「シークレットトーク」を配信中。
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