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2018年10月30日

【コラム】人の話を「聴く力」の磨き方(名越康文)

名越康文 夜間飛行 コラム 聴く力 タウンワークマガジン

人と話すことは好き・得意だけど、話を聴くことは苦手という人は案外多いものです。人の話を「聴く力」を身につける方法はあるのか? そんな疑問に、TVなどでおなじみの精神科医・名越康文先生(@nakoshiyasufumi)にご意見を伺いました。

話のおもしろさの半分は「聴くこと」が生み出す

先日、文化放送ニュースマスターズのピンチヒッターMCをやったんですが、改めて、人間の話す能力というのは、相手の聴く能力に依存しているのだということを感じました。コメンテーターのフジテレビの清水さんにしても、ゲストコメンテーターに出てくれた、しいたけ占いのしいたけさんにしても、聴く能力について、本当に頭の下がる思いがします。

聴くというのは、案外難しいものです。一見、能動的には何もしていないように見えても「相手の話を聴こう」という態勢をとること自体が実はとても難しいことですし、そうした能力を高める方法というのは、なかなか見当がつきません。

また、聴く能力というのは実は、話し手側のパフォーマンスやクオリティ、話す最中に思わぬアイディアが浮かぶという、いい意味の「ハプニング」の根底を支えていたりもします。土地や石垣がないと、建物も建たないし、橋もかけられませんが、「聴く」というのは、そういう意味で、コミュニケーションの土台になっている。

聴く能力というのは、少なくとも50%、その話のアイディアを担保し、補っているというのがわかった今日の放送でした。

集注欲求と聴くこと

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聴く能力って、心に引っ掛かりや心配ごとがあると減ってしまいます。

MCをやっていて進行を気にしていると、あと「何十秒で終わりだ」と思った瞬間に、相手を受容する能力がぐーっと目減りするのを、実感として感じます。そうすると、自分の器が縮小してしまって、相手とのリズムを保つことができない。

バンドでいうとベースとかドラムとか、大切な基本の位置を、聴く側が握っているんですね。

しゃべる側は、「新しいことを発見したよ」とか「私の言うことを聴いてね」と思ってしゃべりますよね。この「言うことを聴いて」という欲求は、元をたどっていくと、僕の心理学でいうところの「集注欲求」につながっています。

集注欲求というのは、野口晴哉先生が使われた専門用語で、集注とは、何かに集中したい!ということではなく、人の気を引きたい欲求のことです。きれいな服を着こなして、人の注目を浴びたい、とかね。自分がしゃべるときに「聞いて聞いて!」というという欲求。

端的に言うと、子どもが2~3歳のとき、「聞いて聞いて!」って親にしょっちゅう言うようになりますよね。それは自分を承認してもらいたいという承認欲求。でもこの欲求は不安と一体になっています。

これはもっと元を辿れば、胎児のときにつながっていた母親とのへその緒が切れた時からの不安感、欠落感を補うためとも説明できると思うのですけれど、確かに幼児の時期には強烈に「聞いて聞いて!」がありますよね。その不安を癒すのに、普通、人は何年もかけるものですが、大人になってもそれが残ってしまう場合があります。

10歳も過ぎると、だんだんと、相手はただでは聴いてくれなくなります。すると、こんなことを発見した!とか、相手が興味を持つようなこと、喜んだり面白いがったりしてくれそうなことを言うと、相手は聴いてくれるんだなと、だんだん話し方や内容に磨きをかけていく。

つまり、「人に話を聴いてほしい」という欲求のなかには、幼児的な願望の根っこがある、ということになる。もちろん、話芸に磨きをかけるということはあるわけですが、そもそも「話す」ということは、幼児的な欲求、あるいは出生の時の断絶感にまで遡れる原始的な欲求とも言えるんですね。

成熟がなければ、聴くことの力は育たない

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それに対して、聴く能力というのは、多分に成熟しないと生まれてこない能力でもあります。

人の話を「はい、聞いています」と通りいっぺんに流すのではなく、自分と全く違う経験、感性、知識を持っている人が、なぜこのことを話しているのか、ということに関心を持って聴くのは実は並大抵のことではありません。

相手が今話していることに「関心を持っている」かどうかは、聞き手が予測を裏切られた時に分かります。ただ義務的に聞いている人はそれをただ「分からない」こととして流して聞いたり、自分の既知の枠組みに勝手に入れて間違った理解のまま進めてしまいます。そしてそれは相手にも「集注力のなさ」「微かな不誠実さ」として感知され、残るものです。

ちょっとホラーのように聞こえたら、ごめんなさい。まあ生まれてから今まで、そのようなコミュニケーションの中で無事に生きてきたんですから、そんなにホラーでも無いんですけど。

聴くこと=異世界に入ること

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ともあれ、聴くというのはとても意識的なもので、創造的なものなんです。で、そのような他人の話に上手く寄り添えるようになるためには、自分の住む世界から、いわば異世界に入らないといけないわけなんです。

異世界に入って、その話を聴く能力というのは、ある場面では、行ったこともないハワイを思い浮かべないといけない、ということもあるでしょう。やったことのない趣味の世界を、想像しながら聞かなければならないこともあります。

幼児的な渇望をいったん棚上げにして、相手を向かい入れよう、ようこそ来ていただきました、という心の余裕、つまり愛が必要です。その上で、相手は何を話すのだろう、という興味が要る。ちょっと自分の背中を押さないといけないような、実は、たいへん勇気がいることなんです。

相手の話に、自分の心の扉を開いて「何を言うのだろう?」という関心を持って耳を傾けるのは、優しさと同時に勇気がいる、境界線を越えるジャンプがいることなんですよね。

“聞き役”になれると、仲間が増える

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「聞き役」ができるようになると仲間が増えてきます。人とのネットワークが、そんなにアピールしないのに徐々に増えていく。そういう、目に見えた利益が表れ始めてきます。

誰しも、自分の話を聴いてほしい。そしてだんだん、聴いてもらっているうちに、こいつの前で話をしているとすごく頭がまとまる、アイデアがでるぞ!ということに気付いて来るんです。

その力を一番養えるのが、実はラジオを聴くということじゃないのかな。実はラジオって他人の話を聴くというエクササイズになっている、すごいメディアじゃないのかな、と思ったのでした。

 
※この記事は公式メルマガ「生きるための対話」よりお届けします。

企画:プレタポルテby夜間飛行

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精神科医・名越康文名越康文(なこしやすふみ)
1960年、奈良県生まれ。精神科医。臨床に携わる一方で、テレビ・ラジオでコメンテーター、映画評論、漫画分析など様々な分野で活躍中。著書に『毎日トクしている人の秘密』(PHP、2012)、『自分を支える心の技法 対人関係を変える9つのレッスン』(医学書院、2012)、『驚く力 さえない毎日から抜け出す64のヒント』(夜間飛行、2013)などがある。