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2019年05月13日

【コラム】「感じが悪くならない」自己顕示欲の満たし方(名越康文)

名越康文 夜間飛行 自己顕示欲 コラム タウンワークマガジン

自分の実績や成功、リア充度をアピールしたいというのは、誰もが多かれ少なかれ、持っている本音。でも、それを直接アウトプットしてしまうと「自慢しいの付き合いにくいタイプ」と思われてしまうかもしれない。SNSで下手にアピールしようものなら、いっきに皆に引かれてしまうかもという不安はありつつ、自分が成し得たことは人にも知ってほしいし伝えたい気持ちもある。
こういった自己顕示欲の適した満たし方、“伝え方”の上手な方法について、TVなででおなじみの精神科医・名越康文先生(@nakoshiyasufumi)に答えていただきました。

「見てほしい」は自然な欲求

名越康文 夜間飛行 自己顕示欲 コラム タウンワークマガジン
「みんなに見てほしい」という気持ちは、誰もが多かれ少なかれ、持っているものです。
また、そもそもSNSというのは、不特定多数に投稿を見てもらえるように作られたサービスですよね。ですから、そこで自分のことをアピールすることは、本来、他人から咎められるような筋合いはないはずです。
でも、実際には、ご質問にもあるように、自慢話や自己アピールばかりをしていると、周囲から嫌われたり、評判を落としたりしてしまうという現実があります。

もちろん、心のどこかに「みんなに知ってほしい」という気持ちがあるのは確かです。でも、その気持ちのままリツイートしたり、シェアしたりするのは抵抗がある。この感覚はおそらく、かなり文化的な側面も大きいように思います。

例えば、欧米の文化圏であれば、パーティの写真をSNSにあげるのは、たぶん普通のことでしょうね。抵抗を感じる人は少ないし、冷ややかな反応をする人もおそらく少ないのではないでしょうか。でも、日本では必ず少しは揶揄する人がいます。

開き直るのもひとつの手

名越康文 夜間飛行 自己顕示欲 コラム タウンワークマガジン
「自分からアピールするのは品がない」という日本文化独特の規範、あるいはメンタリティを批判する人もおられます。「もっと、自分をアピールする力を身に着けたほうがいい」「後ろに引っ込んでいないで、もっと前に出よう」というわけです。それも一理あるでしょう。ただ、こういう価値観や文化は、一朝一夕で、そう簡単に消え去ることはないし、消える必要もないのだろうと僕は思います。

実際問題、ただストレートに「自分をアピールする」というのは、少なくとも日本においては特に長期的にみると上手くいきません。それよりは、少し自分から、焦点を外したところにスポットライトを当てたほうが、人に聞いてもらいやすくなる。

「私はすごい」よりは「私の先輩はすごい」のほうが、まだ少しは、話を聞いてもらいやすくなるでしょう。あるいは、「私のチームは素晴らしい」「私が住んでいるこの界隈は素敵だ」というふうに、対象を広げていくと、あまり反感を買うことなく、他人に自分たちの成果をアピールできるでしょう。

ただ、これも万能のテクニックとは言えません。いわゆる「インスタ映え」ではないですが、最初から「こんな綺麗な場所にいられる私のこと、うらやましいでしょ?」「こんな素敵な仲間に囲まれている私ってすごいでしょ」というような自己アピールが透けて見えてくると、やっぱり「うざい」と思われてしまうことになってしまうでしょう。

どれほど気をつかったとしても、それを「自慢話」と受け取る人はいる。そう考えると、ちょっと開き直る、というわけではないですが、人から「うざい」と思われたとしても意に介さず、自分がアピールしたいと思ったことはアピールすればいいのだ、という覚悟を決めるのも、一つの方法かもしれません。

ただ、その場合も、自分自身の中でのある種の「境界線」を見極め、どこかで「歯止め」がかけられるようになっておくことは大切だと僕は思います。というのも、「みんなに見てほしい」「注目されたい」という欲求をただ野放しにするのは、ちょっと危険な部分もあるからです。

集注欲求をいかに満たすか

名越康文 夜間飛行 自己顕示欲 コラム タウンワークマガジン
「見てほしい」「注目されたい」という欲求は、「集注欲求」の一種であると僕は考えています。これは心理学ではなく、野口整体から生まれた言葉ですが、簡単に言えば、周囲の人間の注目を自分に集めたいという欲求のことです。

この欲求は、人間にとっては非常に根源的なものです。例えば、生まれたばかりの赤ちゃんは、よく泣きます。赤ん坊は「おぎゃあ」と泣くことで母親や周囲の人間の注目を自分に集め、食事や排泄、身の回りの世話をしてもらうことができます。自分一人では生きていけない赤ん坊にとっては、親や大人からの注目を集めることは、生死のかかった大切なミッションです。そういう意味で、集注欲求というのは、実は大変根源的な欲求だということがわかります。

幼児から少年少女へと、だんだんと成長していったとしても、まだまだ自立できていない年齢の子供達にとっては、やはり親の注目を集めることは重要なテーマです。そのことは、自分が描いた絵を「見て見て!」と親に見せに来る小学生の姿をみれば、よくわかるはずです。SNSで自分をアピールしたい、自分の実績や成功を知ってほしいというのも、こうした集注欲求の一つの現れとして捉えることができます。

一般的には、思春期を経て、大人になるなかで、集注欲求は、だんだんと表面に見えなくなっていきます。しかし、それは欲求自体がなくなるということではありません。悟りを開いた聖人でもない限り、人はみんな、自分の中にある集注欲求をどうコントロールするかというプロセスのなかにいます。

ですから、SNSでどう振る舞うかということを考える時には、自分の中に強い集注欲求があるということを認めることから始めたほうが良いでしょう。そうじゃないと、うまく集注欲求を満たせなかった時に、心のバランスを大きく崩してしまい、立て直せなくなってしまうこともあるからです。

最後に残るのは「自分の軸」

名越康文 夜間飛行 自己顕示欲 コラム タウンワークマガジン
僕は4年前から、音楽活動をしています。最近では1年に1-2回のペースで、ライブができるようになりました。それこそ全身全霊を込めて曲や歌詞を書き、ボイトレに通ってきたわけですから、ライブは、少しでもたくさんの方に聞いてもらいたいというのが、僕の偽らざる本心です。

でも、それくらい思いを込めているライブの告知ですら、僕の中の「日本人的価値観」がどこか、ブレーキをかけます。「僕のツイッターをフォローしてくれている人は、別に私のライブの告知を見たいとは思っていないのではないか」「もっと心理学的なつぶやきを期待されているのではないか」と逡巡するわけです。

それでも、最終的に告知のツイートをしているときは、他人からの評価ではなく、自分の軸で「つぶやこう」という決心がついた時です。「他人からどう思われるか」ではなく、自分の中にある「一人でも多くの人に、ライブに来てほしい」という気持ちに、素直になることができているかどうか。自分の軸が確かな時は、「自分をアピールすることの気恥ずかしさ」から、少し自由になれるはずです。

逆に、「やっぱり、自分のことばっかり書いたら迷惑かな」という不安や、「これを書いても、結局、ライブに来てくれないんだったら同じじゃないか」という暗い不安がよぎった時には、投稿しないようにしています。というのも、そういう時は、自分の軸が揺らいでいて、他人の軸で物事を判断している時だからです。

自分の軸で判断できているか、それとも他人の軸によって、流されてしまっているか。それを区別する一つの基準となるのは呼吸です。深く、落ち着いた呼吸ができている時には、自分の軸で判断できる時です。逆に、呼吸が浅くなっている時には、集注欲求に支配され、他人からの評価という軸で、物事を判断してしまいがちです。

ただ集注欲求に囚われて、ただ誰かに認められたいという気持ちに駆られてしまっているのか。それとも純粋に、他人と何かを共有したい、という気持ちなのか。その境界線は、突き詰めれば主観でしかないわけですが、実は自分自身に目を向ければ、案外はっきりとした境界線が引けるものだと、僕は感じています。

 
※この記事は公式メルマガ「生きるための対話」よりお届けします。

企画:プレタポルテby夜間飛行

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精神科医・名越康文名越康文(なこしやすふみ)
1960年、奈良県生まれ。精神科医。臨床に携わる一方で、テレビ・ラジオでコメンテーター、映画評論、漫画分析など様々な分野で活躍中。著書に『毎日トクしている人の秘密』(PHP、2012)、『自分を支える心の技法 対人関係を変える9つのレッスン』(医学書院、2012)、『Solo Time 「ひとりぼっち」こそが最強の生存戦略である』(夜間飛行、2017)などがある。 2019年より会員制ネットTV「シークレットトーク」を配信中。
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