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2015年01月21日

「道具としての友人」にこそ、友情は生まれる

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テレビでおなじみの精神科医・名越康文(@nakoshiyasufumi)が心の悩みにズバッと答える! この記事は公式メルマガ「生きるための対話」よりお届けします。

「友人とは道具である」から始めてみる

「友人」「友情」というのは大切な物です。特に、いまのせちがらい社会状況の中では、そうした「横の人間関係」を大切にしたい気持ちは痛いほどわかるし、その方向性は間違ってないと思う。

ただ、「友人」や「友情」という言葉を安易に使うのは危険な側面もあります。特に10代、20代の若い人たちの間には、「友達を作らなければいけない」という強迫症的なプレッシャーがどんどん強まっていると僕は感じます。
友達がいないということへの強迫的な恐怖心が強まる中、最近ではそれが「独りでいるところを見られたくない」という不安にまで進化してきているんです。

そういう状況のなかで、「友達だから」「友情を大事に」という言葉に過剰に引っ張られてしまうと、辛い人間関係にずるずるとひきずりこまれてしまったり、「友達がいない私は人間として不完全なんじゃないか?」というような、不必要な自責感にさいなまれてしまうことにもなります。

こうした「友情を大切にしたいんですが、うまくいかない」というちょっと強迫的な悩みを持つ人には、僕はあえて「<道具としての友人>から始めてみては?」と提案することがあります。

これって、一見ダークに見える定義ですよね。「え? 友達が道具なんてひどい!」と反射的に否定される人もいると思うんです。

でも、なぜ「友達=道具」という考え方がひどいと思うんでしょうか。

「道具」というのは僕ら人類にとっては、ものすごく長い付き合いの、大切な仲間です。「使い捨て」ということがこれだけ定着してきた昨今にあっても、車やバイク、眼鏡、靴、包丁などの料理道具……その他さまざまな道具を大切に使う人は少なくありません。
そうした愛用の道具は、その人の存在にとって欠かせないものだし、毎日大切にケアをしていますよね。

「自分は友人を、道具を大切にするという意味において、大切にしてきただろうか?」と問いかけてみる。友人との関係性に悩んだときは、自分自身がその友人を道具としてどのように利用してきたのかということを自問してみると、初めて見えてくることがあるんです。

「使い続ける」ことによって生じる「情」には嘘がない

僕らはなぜ道具を大切にするのか。道具はそもそも人間にとって「役に立つ」ものです。役に立つから、人間は道具を大切にしてきた。大工さんが道具に銘を入れるのも、武士が刀の手入れを欠かさなかったのも、道具が役に立つものであり、あるいは「役に立ってほしい」という願いを込めるためでした。

道具を大切にする人というのは、使って使って、磨滅するまでその道具を使いきります。最後にはその道具を捨ててしまうこともあるかもしれないけれど、決してその道具のことは忘れない。車好きの人は、何度買い替えても、以前乗っていた車のことは忘れない。

つまり、道具と人間との間に生じる「情」には、嘘がないんです。使わなくなった眼鏡でも捨てられず、年に1回、磨かずにはいられないというような愛着には、打算がないですよね。人間と人間の関係よりも、人間と道具との関係のほうが、嘘が少ない。

翻って、人間の友情には少なからず打算が混じります。「この人との関係はつないでおいたほうがいいかも」「この人と付き合っていてもメリットがないかも」という打算が、人間同士の友情には生じやすいんです。

もちろん、それはそれで、ただちに悪いというわけではないんです。また、人が生きている以上、そこに打算がまったくないというわけにはいかないでしょう。ただ、そういう打算と友情とを混同しないことが、友情を考えるうえでは大切なんです。

互いに変え、変えられていく関係性

そもそもなぜ、道具との関係に「情」が生じるのでしょうか。最初に述べたように、僕らが道具を大切にするのは「役に立つ」からです。でも、「役に立つ」だけなら、愛着なんて本当は必要ないですよね。本当に「役に立つ」ということだけを考えるなら、役に立たなくなれば新しいものに替えればいい。

でも、実際には「ほかのものではダメ」というふうに、ひとつの道具に愛着を持つのが、人間と道具の一般的な関係なんです。

なぜ道具に愛着がわくかといえば、ひとつには、道具を人間に合わせて変える、すなわち加工、カスタマイズすることがあります。例えば包丁などに、握りやすいように滑り止めを巻いたりすると、手になじんで手放せなくなる。車やバイクも、乗っているうちに、その人の運転に車体やエンジンがなじんでくるわけです。

でも、それよりもむしろ大きなことは、道具を使うなかで、自分の身体、あるいは精神のありようそのものが、道具に同調するように変わっていくということだと思うんです。

僕らは道具を使う主体であると同時に、道具によって変えられてしまう存在でもある。道具への愛着というのは、そういう「変え」「変えられる」プロセスのなかで生じてくるんだと思うんです。道具と人間が互いに歩み寄る、そのプロセスの中で「互いに離れられない」という愛着が生じてくるということですね。

そして、このプロセスをつぶさに見ていけば、人間同士の間で「友情」が芽生えるときと、僕はほとんど変わらないんじゃないかと思うんです。どちらかがどちらかを支配するのではなく、互いに影響を与え合う関係は、本当の意味で切っても切れない関係性に育っていきますから。

もし本当の意味での「友情」というものがあるとすれば、職人が愛用する道具に対して抱くような愛着のような領域にこそ、本質があるのだと僕は思うんです。

「道具として友人を使う」ための条件

友人を道具に例えると、必ず批判する人がいると書きました。道具というのは役に立つから使うもので、役に立たなくなったら捨てるものだ。お前は友人をそういうふうに扱うのか、と。

おっしゃるとおり、「道具として使う」ということには、そういう自己中心性が伴います。でも、だからこそ、その自己中心性を認めるところからスタートしたほうがいいと僕は考えます。自分の中にあるエゴを隠していることによって、友人との関係性がおかしくなってしまうことはしばしばあるから。

まずは、道具として友人を捉えてみる。そうやって友人を「道具」として使って、使って、大切に使い続けるうちに、その友人との間には、切っても切れないような関係性が生まれてくる。

逆に言えば「道具だから」といって、友人を自分勝手に酷使するような人は、継続的な人間関係を作れないわけです。職人が道具を大切にするように、友人を道具として丁寧に使う人のところにだけ、本当の意味での「友情」が生まれてくる。

友人を存分に「使う」には、友人の持つ力を引き出す必要があります。そのためにはその人自身が人間として明るさを持っている必要があるし、過不足ない配慮が必要です。それがあってはじめて、高度なレベルで互いを利用し合う、ということができるようになる。

そういう意味では、先に述べた、友達であることを確認し合う“友情強迫症”の増加は、大量生産・大量消費の時代とすごく連動している、と見ることも可能かもしれません。
つまり、世の中に物資が乏しく、ひとつの道具を長く使っていた時代においては、道具と人間が互いに陥入し合うような関係性を作っていた。そういう時代には、「友情」はいわば当たり前のことで、問題にもならなかった。

道具(すら)消費するような大量消費時代になったからこそ、僕らは「友達」も使い捨てる危惧が出てきた。そういう順序ではないかと思うんです。

道具を大切にする人は友情を育めるはず

道具を大切に使う、ということと、友情を大切に育む、ということは、だから密接にリンクしたテーマなんです。道具を大切にする人は、友情を大切にできるし、道具を大切にできない人は、継続的な友情を育むことができない。

「友情」というのは最初からそこにあるものではなくて、互いが陥入し合った結果として、事後的に確認できるようなものなんですね。だから、大事なことは、友人同士で「何か」に取り組むこと、そしてその取り組みの中で「遊ぶ」ということではないでしょうか。

何かに取り組んでいると、そこには発見があり、おもしろさがある。そういうことを通して互いが陥入しあうなかで、結果的に友情が生まれる。

そういう、長い時間をかけたプロセスを経ず、ただの「言語ゲーム」として友情を確認し合ったとしても、そこには不毛な強迫感が残るだけだと思うんです。

企画:プレタポルテby夜間飛行

<関連書籍情報>
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驚く力書影 - コピー毎日が退屈で、何をやってもワクワクしない。テレビを見ても、友達と話していても、どこかさびしさがぬぐえない。自分の人生はどうせこんなものなのだろう――。そんなさえない毎日を送るあなたに足りないのは「驚く力」。
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精神科医・名越康文名越康文(なこしやすふみ)
1960年、奈良県生まれ。精神科医。臨床に携わる一方で、テレビ・ラジオでコメンテーター、映画評論、漫画分析など様々な分野で活躍中。著書に『毎日トクしている人の秘密』(PHP、2012)、『自分を支える心の技法 対人関係を変える9つのレッスン』(医学書院、2012)、『驚く力 さえない毎日から抜け出す64のヒント』(夜間飛行、2013)などがある。