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2022年02月28日

【コラム】初対面の人と距離を縮めたい。自然に会話ができるようになるテクニック(作:おばけ3号)

おばけ3号 信頼関係証明書

信頼関係証明書

「ねえ、男子はどんな話題なら返しやすいの。あの人の好みとか、趣味とか全然知らないから私、話題作れないよぉ~」
高い声が低いうなり声に変わる。夕方の表参道のカフェで、私は知り合いの女子大生から相談を受けていた。
テーブルに突っ伏した彼女を横目に、間を置いて私はまだ熱いコーヒーをゆっくりと啜る。僅かに香り立つコーヒーの心地よい匂いが湯気と一緒に目の前をかすめる。湯気を目で追いながら、私は話を整理する。
私に相談を持ち掛けたこの女子大生は、この表参道にほど近い大学の3年生。後期から始まった新しい授業の初回に出席した際、人気俳優の菅田将暉に似た自分の好みの生徒を見つけた。
何とか話しかけたいが、武器はない。きっかけも、勇気も。
ほぼお手上げの状態で、私に連絡をよこしてきた。不在着信のあと間を置かずに送られてきたLINEの一文目は
「教えて。昨日会った男の子が気になってヤバい。」

何がヤバいのかわからなかった私は、タイミングを見計らって彼女にLINE通話を掛けなおした。

「もしもし。どうしたの」
「聞いて。ヤバいの。超イケメン見つけた」
「…何がどうヤバいの。まずは説明してよ」
「ヤバいの。すごい、どれくらいヤバいかっていうとね、超ヤバい。」

自分からかけたLINE通話を、3秒で自分から切りたくなったのは初めてだった。
説明されているのに深まる謎に、私は眉間のしわを寄せた。
埒が明かない会話を避け、直接会ったところ、いくつかのヒントを手に入れた。
・彼女と彼は、同じ大学で同じ講義を受けている
・彼は菅田将暉に似ている
・彼女は菅田将暉が好きだ
・菅田将暉は世界一を争うイケメンである(あくまで彼女曰く)

この少なすぎるヒントたちを少しでも活かしつつ、彼女の「ヤバい」という鉄壁の城を突破しようと私は試みる。
「で、どうしたいの?」
「え、話したい」
「それはわかってる。なら話しかければいいじゃん」
「それができないの」
「なんでよ」
「だって、突然話しかけたらヤバいでしょ」
「いやだから何がヤバいのよ」
「変な人だって思われない?」

やっと城の本丸に近づいた気がする。彼女は話しかけるきっかけに困っているのか?彼女は突っ伏した顔を上げて、前髪を慣れた手つきで撫でた。

「天気とかは?もしくは先生の話題とか、お互いに共通な話題を切り出せば話せるかもよ」
「え、何それ」
「ダメなの?無理?」
「いやそうじゃなくて…話しかけたらイケるよ。仲良くなるの得意だもん。でもさ、変な人って最初に思われたら終わりじゃない?」

ここで城門が開いた気がする。この城の突破口はきっとここだ。

「つまり、一度話しかけることができれば、仲良くはなれる?初回話しかけられないのが問題?」
私はかさず聞いた。

「…多分。でも初めてってなんか気持ち悪いよねえ。突然話しかけられたら、怖いよね」
彼女はおずおずと答えた。
私は湯気の収まったコーヒーをカチャリとソーサーに置き、腕を組む。
彼女が自分の注文した紅茶をゆっくり、一口啜った。目を丸くして美味しい!の合図を私に送る。
私は小さく頷き、考え出した城の攻略法を彼女に話し始めた。
「まあ人によってはそうかもしれない。でも、そもそもなんで話しかけづらいのかな」
私の問いかけに彼女は憤慨気味に答えた
「いや、突然知らない人に話しかけられたら怖いじゃん!」
「そうね。ところで街中でナンパされるのと、学校で声かけられるのとどっちが怖い?」
「え。…ナンパ…かな?」
「それはなんで」
残り一口になったコーヒーカップを私は手に取った。

「だって、相手の身元もわからないのに。どこの誰とか知らないし、どこの社会で生きているのかすら全くわからない人は怖いよ。大学はそうじゃない。」
「もしかしたら、あっちもソレを思ってるかもな。」

彼女は勢いよく首を傾げる。私は飲み切ったコーヒーカップを落ち着いてソーサーに戻した。
「相手に、自分の身元をわからせればいいんじゃないかな。」
彼女の傾げた首が更に角度を増す。私は続ける。

「今ってさ、その菅田将暉似の彼もこっちの素性がわからないし予想もできないからそりゃ話しかけられたら困ると思うよ。なんでかっていうと、彼はこっちの情報が少ないから。でもさ、ここで仮にこっちの身元を証明してくれたり、情報を与えてくれる信頼関係証明書みたいなものがあればどうよ」

この程度の説明では、傾いた彼女の首は戻らない。

「例えば、その彼を知っている友達を探して、そこから紹介受けるほうがいい。ってことだよ」
「え、なんで。それなら直接のほうが印象良くない?」
彼女は紅茶のカップを握ったまま、首の角度を少し戻した。どうやら首の角度は疑問の大きさと比例するらしい。

「まず今ってね、彼はこっちの情報何もないの。だから話しかけても【突然他人が話しかけてきた】って解釈されるかもしれない。これは事故だ。やめとこう。…でも仮に、共通の友達を連れて話しかけたらどうだろう。友達が身元の証明書代わりにならない?彼から見ればとりあえず【他人】ではなく【自分の友達の友達】程度にはこっちの立場がランクアップするし、自分の友達の友達なら身元も想像がつくよね。」

彼女の首の傾きがほとんど直っている。私は少し安堵して、続けた。
「要は、今は何も自分の信頼性を証明できるものがない【他人】という立ち位置だから分が悪い。それをまず、【自分の友達の友達】までランクアップして心理的に近づこう。相手に好いてもらうのではなく、相手に情報を与えて、信頼してもらうことを第一目標にしたほうがいい。そのための証明書として助けてくれる友達をはさむべきだよ。」

「おおっ…。」
首の座った彼女が、やっと感嘆してくれた。心なしか生気が戻った気がする。
カフェを出るときには彼女は心当たりのある友人を手当たり次第に探す作戦を既に立案し始めていた。たくましい。その意気だ。あと、「ヤバい」は二度と言うな。
でもよかった。人は、悩んでいる時より行動しているときのほうが生き生きするものだ。

しかし、このお悩みはなかなか根深い。人は愛情や恋慕の感情を人に伝える際、伝える相手との関係性や信頼度を無視しがちだ。今回は相手に対し、信頼関係や身元を証明する証明書を準備する程度で済んだが、きっと社会ではもっと多くの証明書が必要なのだろう。

このコラムを読んでいる方々にも是非想像してみてほしい、明日話しかける相手はどの程度コチラを理解し、コチラはどんな証明書を相手に与えられているだろうか?

■Profile:

おばけ3号 タウンワークマガジン townwork
おばけ3号
 @ghost03type

作家、インフルエンサー。
普段はtwitterで日常の愉快な話や、舞い込む相談に対する親身な回答を発信。鋭い分析力とユニークな表現力に富んだ意見で多くのメディアと視聴者の支持を得ている。普段は会社員として都内のコンサルティング会社に所属する、婚活中のアラサー男子。
最新著書『「お話上手さん」が考えていること 会話ストレスがなくなる10のコツ』(KADOKAWA)が発売中。

※文中の社名・所属等は、取材時または更新時のものです。

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