カレー沢薫の「バイト丸わかり図鑑」クリスマスバイト編
もうすぐクリスマスだ。
そう書いたきり何も書くことがなくなってしまうほど、クリスマスは私にとってあまり関係ないイベントになってしまった。
一応コンビニに寄る機会があれば、いつもは買わない高めのチキンを買うぐらいの浮かれ方はする。
だがここで羽目をはずしすぎて一度に1個食べてしまうと、雨が夜更けすぎに雪へと変わろうとしている一方で、こちらは便器とアツい夜を過ごすことになってしまう。
コンビニのチキンは美味いが今年40周年を迎える私の胃には荷が重い、24日に半分食べ、25日に温めなおして完食するのが、正しい中年のクリスマスタイムテーブルと言えるだろう。
またハコの状態によっては26日まで延長も視野に入ってくる、そこは臨機応変に行きたい。
ハコというのはもちろん消化器官のことである
自分がクリスマスにあまり縁がなくなってきたことにより、今世間にとってクリスマスがどういうポジションにあるのかさえ良くわからない。
カップルやファミリーが楽しんでいるのはわかるし、友人が多ければパーティを開いたりもするのだろう、問題はそのどれにも当てはまっていない層の動向である。
私が若いころ、クリスマスに予定がない者のムーブと言えば、そのことを自虐するかクリスマスを徹底的に敵視するかの二極化だった気がする。
特に敵視派の活動は活発で、クリスマス前になると自らの「個人HP」と呼ばれる古代遺跡に「クリスマス撲滅団」的なバナーを貼って意思表明をいていた。
それもエンジョイ勢が自宅をイルミネーションで飾り始めるだいぶ前からやっており、ある意味誰よりもクリスマス支度が早いといえる。
今思えばあれはクリスマスを憎んでいたのではなくクリスマスを「クリスマスとカップルを敵視する奇祭」として楽しんでいたのだ。
つまりあのバナーはクリスマスリースをドアに飾るのと同義だったのである。
そもそも「もうすぐクリスマス」などと書いたが、これを書いている今現在まだ11月上旬だ。
しかし、日本はハロウィンが終わった瞬間からクリスマスソングを流し始めるので、もうすぐクリスマスのような気がしてしまうのである。
しかしクリスマス色を出し始めるのは主に商店であり、個人でこの季節から赤と緑のセーターを着てアップしている奴はあまりいない。
つまり商売をしている側からすると11月上旬からクリスマス商戦がはじまっているということだ。
そういう意味ではクリスマスソングは戦いのゴングでありロッキーのテーマみたいなものだ。
そうなるとクリスマス当日まで戦を戦いぬく人員が必要になってくる。
そんなわけで今回は「クリスマスアルバイト」がテーマだ。
ずいぶんざっくりしているが、実際クリスマス近くになるとクリスマスに関した様々なアルバイトが募集されるのだ。
まずクリスマスケーキの製造だ。
おそらくクリスマスは1年で1番ケーキが消費される日であり、消費に耐えうる生産が必要である。
ケーキ製造と言っても複雑な調理をするわけではなく「そんなに美味くないけど必要」でおなじみのサンタの砂糖菓子をはじめとした簡単なデコレーションやケーキのラッピングなどが主な仕事となるようだ。
またクリスマスといえばプレゼントも重要である。
しかし、せっかくのプレゼントも「アマゾソ」と書かれた段ボールで届いては興ざめである。
よってクリスマス用の商品をピッキング、そしてクリスマスらしくラッピングするアルバイトも募集される。
またケーキやチキンを店頭販売するスタッフも募集される。
販売はサンタの帽子や衣装着用で行われることもあり「クリスマスっぽさが味わえて良い」という意見もある。
このコメントは若干空元気を感じるが、人々が浮かれている中の労働だけあって時給は高めに設定してあるようだ。
またクリスマスにクリスマスイベントが催されることもあり、それらの設営や当日スタッフ、撤収業務のアルバイトも募集されるようだ。
販売と同じく、当日スタッフはサンタコスプレや着ぐるみなどを着ることもあるので、道化を演じてクリスマスを楽しむカップルやファミリーを楽しませたいという、クリスマスなのに仏の心を持つ者は挑戦してみてほしい。
また「正月までがクリスマス」なのがクリスマスのアルバイトである。
年明けまでクリスマスコスで働くサンタの地縛霊みたいなことをしろという意味ではなく、役目を終えたクリスマスディスプレイを撤収し、一夜にして年末年始仕様にするのがクリスマスバイトの締めなのだ。
こう列挙してみると、クリスマスに予定がある者は、クリスマスディナー代、ケーキ代、プレゼント代、イベント参加費交通費など、相当のクリスマスマネーを使わなければいけないことがわかる。
逆に予定がない者は、平常時より割高の時給で賃金を得られるのである。
むしろ予定がない側の方が勝ち組なのではないか。
クリスマスバイトが辛くなったときはそう考えて乗り切ってほしい。
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