山小屋のバイトとは? 仕事内容、やりがい、大変なことについて聞いてみました

写真提供:富士見平小屋
自然が好きな人にとっては気になるバイト、「山小屋バイト」。自然に囲まれた山の中でのアルバイトは、街で働くのとどのような違いがあるのでしょうか?そこで『富士見平小屋』八代目・小屋番の相川さんに、アルバイトの仕事内容ややりがいのほか、向いている人なども聞いてみました。
山小屋アルバイトの仕事内容とは
山小屋アルバイトの仕事内容は、宿泊やテント場の受付や清掃、売店対応、食事の提供など接客がメインになるところが多いです。その他にも、荷上げ、登山者の安全を守るための登山道の整備や人命救助なども行います。また、自然保護や登山者自身がケガなどしないように、山の歩き方や過ごし方を教えることも大事な仕事です。
宿泊者の受付・接客、食事の調理など

食事を作るキッチン。夜はランプが灯り、バーのような雰囲気に
富士見平小屋では、宿泊は24名まで、テントは250張まで受け付けています。現在は男性3名、女性2名のスタッフがいて、ハイシーズンは泊まり込みで宿泊やテント場の受付と案内、飲食のみ利用のお客さんのオーダーと調理、売店対応といった接客を行います。小屋によって最も混み合う時期はばらつきがありますが、ここはゴールデンウイークと秋が最も忙しく、夕方までお客さんが途切れないということも。夕方からは、宿泊者の夕食の準備と配膳をして20時ごろ業務終了、翌朝は5時から朝食の準備を始めます。
部屋の掃除、荷上げ、テント場の整地

キャタピラー付きのカートで飲料や食事などの荷上げを行う
宿泊のお客さんが退出した後は、部屋の掃除や片付けを行い、天気の良い日には布団を干します。また、日中、人がいない時を見計らって、テント場の整地なども行います。そして、山小屋スタッフの仕事で大切な「荷上げ」。小屋によっては「歩荷」と言って、背中に数十キロの荷物を背負って山道を数時間登るところもありますが、ここではキャタピラーつきのカートを使って林道の終点から15分ほどの山道を登ります。食料や飲料、灯油、小屋のメンテナンス用の木材なども運ぶので、多い時は400㎏になることもあり、操作に慣れるにはある程度、力のある人が向いています。
安全確保のための登山道の整備やレスキュー

小屋の前にある登山道を示した地図はスタッフの手作り
平日など、登山者が少ない日には、登山道の整備を行います。倒木や落石を除去したり、道標の確認など、登山者が安全に道を歩けるよう整備します。そのほか、自然保護や登山者の怪我や事故防止のためにも、軽装で来ていたり、植物を保護する柵内に足を踏み入れている人を見かけたら声をかけます。富士見平小屋では、山に来る人を「お客様」ではなく「お客さん」と呼び、友人のように対等な関係と考えているので、間違っていると思ったら愛を持って注意するようにしています。そして、山小屋の最も重要な使命ともいえる、人命救助があります。遭難や滑落などの事故が起こった時には、山岳救助隊と一緒に人命救助にあたるので、アルバイトスタッフであっても、体力に自信があって人を担ぐことができる場合は、同行して手伝ってもらうこともあります。
山小屋アルバイトのやりがいや楽しいところ
お客さんからの「ありがとう」が何より嬉しい

富士見平小屋の人気メニューの「甲州ワインビーフカレー鹿肉添え」。鹿肉ソーセージも山小屋ならでは
山小屋アルバイトの醍醐味は、自然の中で、自然が好きな人たちと関われること。山に来ると、大抵の人はリラックスして感情表現が豊かになり、楽しさや喜びを素直に表現してくれます。食事を提供したときに「美味しかった」と言われたり、宿泊者に「とても居心地がよかった」と言われるのは、やっていて良かったと思う瞬間です。特に、登山道の整備をしていると、「本当にありがとうございます」とこちらが思っている以上に感謝の言葉をもらうことがよくあり、それが一生懸命やろうという励みになります。
自然の中にいるとストレスなく仕事そのものを楽しめる

小屋の周りに棲んでいる鹿たちが、よく草を食べにくる(写真提供:富士見平小屋)
自然が好きな人は、山にいるとストレスを感じないものなんです。鳥が好きだったり植物が好きだったり景色だったり、好きな理由はさまざまですが、山を良くしよう、お客さんに楽しんでもらおう、もっと好きになって帰ってもらおうと思っていると、仕事も楽しくなるんですよね。掃除や力仕事は、仕事だと思うと疲れるけど、自分の好きなもののためなら疲れないものです。ここにいると、どんな仕事でも楽しめてしまうというのはこの仕事ならではかなと思います。
山小屋アルバイトの大変なところ

客室の大部屋。反対側には2段ベッドのある個室が並ぶ
山小屋のスタッフは、時には人の命を左右することもある立場です。稀に、ヘッドライトも持たずに薄暗い中下山する人や、街を歩くような装備で来る登山者がいますが、命取りになることも。常に気を配って、危険を感じる人には遠慮せず声をかけたり、時には注意したりする強さも必要です。でも、お客さんによっては、話が通じず対応に困ることもあります。あとは、標高の高い山は平地よりもお酒が回りやすく、気づくと泥酔している…というお客さんもいます。居酒屋などでもスタッフは酔ったお客さんの対応をすると思いますが、山での酔い方はダイナミックなので、暴れる人を力ずくで押さえることもあります。そのほかにも、霧が出ると自分のテントが分からなくなる「テント遭難」のお客さんがいたり、何が起こるかわからない中で、みんなが無事に過ごせるよう見過ごさずに対応しないといけないところは大変ですね。
山小屋のアルバイトに向いている人とは
自然が好きであることはもちろん、自分のためやお金のためでなく、人のためを思って行動できる人は向いていると思います。「人のため」と言うとハードルが高く感じるかもしれませんが、自然が好きな人は、人のことも好きな人が多く、「山を楽しんでもらいたい」という気持ちを持っているものです。そういう人であれば、小屋仕事を楽しいと思えるはずです。
そのほかにも、山小屋はスタッフ同士のコミュニケーションが大事なので、目を見てハキハキ話せて、自分の意見をきちんと言える人は向いています。
3000メートル級の高山の山小屋では、荷上げ(歩荷)ができて、登山経験や体力のある男性を求める場合が多いですが、規模の大きな山小屋なら、宿泊や接客中心の仕事で、経験がない人や女性でも可能な小屋もあります。自然が好きで、登山に興味がある、これからやりたいという意欲があるならぜひチャレンジしてみてください。

小屋番の相川さん(右)とスタッフの田尻さん(左)
取材・文・撮影:編集部
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