カレー沢薫の「バイト丸わかり図鑑」ホテルバイト編
最近「俺、もう少し世の中が落ち着いたら旅行に行くんだ」というような展望をよく耳にするようになった。
それに対し私は、君たちそんなに外好きだったかと怪訝に思いつつも「俺はどこにも行きたくない」と力強く心の中で答えている。
私は「旅行が好きか嫌いか、明確に答えないと罰金刑に処す」と言われたら「嫌い」と答えてしまう方だが、他に旅行が嫌いと言っている人はあまり見たことがない。
もしかして旅行は「子ども」に並んで嫌いと言いづらいものになっているのかもしれないが、旅行が好きな人が多いのも事実である。
しかし私は旅行が嫌いというより「外出全般」が嫌いなのであり、旅行も「外出していない部分」は好きと言って良い。
つまりホテルなどの宿泊施設に滞在するのは嫌いではない、むしろいつもと違う環境にひきこもれるとあってワクワク感すらある。
よって「旅行（野外宿泊）」だったら迷いなく嫌いと言えるし、それらの条件を全て満たしたのが「キャンプ」なのだが、これはこれで改めて自宅が神であることを再認識するために最も有効な行為と言える。
何事も慣れれば当たり前になってしまうので、たまにはありがたみを感じなおすための苦行も必要なのだ。
私だけではなく、旅行のメインをホテルに据えている人と言うのは結構いる。
よってホテル側も客室を清潔にするのはもちろん、一日複数回の入浴にも耐えられる種類の入浴剤を揃えたりと、顧客の快適な環境づくりに余念がない。
また施設的にも、レストランはもちろん、ジムやエステを併設、土産物も買えるため、もはや外に出る必要性が感じられないホテルも多い。
旅行に来てまでジムに行くとは一体どういうメンタリティなのかと思うが、筋トレというのは意外と依存性が高いらしく、日課になると例え旅先だろうが、1日でも筋トレをしないと落ち着かなくなるという。
もしかしたら宿泊施設のジムというのはそういう人のためにあるのかもしれない、健康的なように見えて意外と闇深なのが筋トレ界である。
おそらくすでに、観光メインではなくホテルでゆっくりすることをメインにした旅行も増えてきていると思う、確実に風は私側に吹いているわけだが、逆にいうとホテルがダメだと、その旅は全て台無しになりかねないということだ。
今回紹介するのはそんな旅の吉凶を占うホテルのアルバイトである。
ホテルの仕事も多岐に渡るが特に求人が多いのは「フロント」「客室」「ホテル内レストランのホール」「宴会・ブライダルスタッフ」だそうだ。
「フロント」というのは文字通り、フロントに立ち、チェックイン・チェックアウトの手続き、宿泊施設説明、荷物の預かりなどをする仕事である。
まさにホテルの顔とも言える重要な仕事だ、フロントの対応が塩だと、旅行のテンションが15度ぐらい下がってしまう。
よって、清潔感や言葉遣いなど、マナーに関しては比較的厳しい、また最近は外国からの利用者も多く、中には私のように日本語を話しているはずなのだが、声が小さい上に早口でおまけにタンが絡んでいるお客様もいるだろう。
つまり、老若男女国籍問わない相手と日々接するため、それなりにコミュニケーション能力も必要ということだ。
だが、外国人客が増えたことにより、外国語のスキルがある人は特に歓迎されるらしいので、言語能力を生かしたいという人にはお勧めのアルバイトである。
逆にホテルのフロントを経験することにより外国語を磨くこともできるかもしれない。
むしろ「これはペンです」のような、わざわざ言わなくても見ればわかるだろうという学校英語よりもホテルのフロントの方がよほど実用的な外国語が実践できるだろう。
クレーム対応や、何を言っているかはわからないがクレームであることだけはわかる外国のお客様の対応など、気苦労の多さは否めないが、その分高度なマナーや外国語など、得るものも多いバイトと言われている。
また、当然ホテルは24時間営業なので、深夜帯のシフトだと時給が割増しになり、さすがに深夜になると、やることも少なく落ち着いているという。
「客室」の仕事は、利用者のチェックアウト後、清掃やベッドメイク、アメニティの補充などを行う。
やはりホテルの部屋というのは清潔感が重要である、風呂の排水溝に毛が絡みまくっているなど、前の利用者の爪痕を発見した時点でその旅は終わったと言っても良い。
よって完全に部屋を元の状態にリセットしなければいけないのだが、もちろん時間制限はある。
ドアを開けた瞬間、清掃員が一生懸命便所を磨いていたら逆に「おもしれえ旅になってきたぞ」と思うかもしれないが、思わない人も多いと思うので、時間内に手早く完璧に清掃を行えるようにならないといけない。
この制限時間内に清掃を終わらせる、清掃RTAが意外と難しく、思いのほか重労働だったと感じる人もいるようだ。
だが客室担当はフロント担当と違い客とはほぼ接しない仕事である。
むしろ掃除用具一式を持ったホテル従業員を見ると客は「もう出なければいけないのか」と焦りチェックアウトRTAになってしまうので、できるだけ客の目に触れず暗躍するのが客室の仕事である。
このように、フロントと客室では全く仕事の性質が違うので、自分に合っている方の求人を選んだ方が良い。
「ホテル内レストランのホール」「宴会・ブライダルスタッフ」だが、ビジネスホテルでもレストランつき、朝食つきのホテルは多い。
だが一流ホテルだろうが、ビジネスホテルだろうがホテルの朝食であり美しいテーブルセッティングでお客様をお出迎え、食事時間中も目を配り、何かあればすぐ丁寧に対応しなければならない。
朝飯ぐらいならこれからも食べる機会は多いと思うが、結婚式ともなると大体の人が人生で１回、少なくとも１回だけにしておきたいと願っているだろうから、さらに責任が重大である。
よってホール担当もフロント担当同様のマナーや接客能力が求められると言って良いだろう。
レストランスタッフは朝食のみ朝数時間だけという募集もあるようなので、学校へ行く前、もしくは最近やたら早く目が覚めるが特にやることがない、という人がスキマ時間を生かすのにも有効である。
ホテルというのは、旅行や結婚式など、他人のエモい瞬間に連日関わる仕事である。
後に思い返した時「フロントの声が全然聞き取れなかった」「おそらくホテルの備品ではない、コンビニの割りばしなど先客の置き土産があった」など、余計な思い出まで出てこないよう慎重に業務に当たらなければならない。
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