カレー沢薫の「バイト丸わかり図鑑」焼肉屋バイト編
この記事を書いているのが8月下旬なのだが、先日、地上波で、日本を代表するアニメスタジオの代表作の一つ、今夜から此の森で娘の私がもののけの女王、みたいなアニメが放送された。
私ももののけ平民、略して、ただのもののけとしてこのアニメは見た。
その中に「人間は嫌いだが、お前のことは好きだ」というようなセリフがある。
「何かが燃えれば周辺まとめて焼野原にする」という風潮が強い今、集団と個人を別のものとして考えられるというのは素晴らしいことである。
話は変わるが、毎年お盆には夫の実家の集まりがあり、その時決まってBBQが催される。
これをもののけ式に表現するとしたら「お前の実家は嫌いじゃないが、BBQは嫌いだ」であり、もっともののけ度を上げるなら「焼いた動物は好きだが、BBQは嫌いだ」である。
前の記事で「1人BBQ」をしたことがあると書いたが、あれは肉も野菜もカット済、火も起こしてあり、食器も洗わなくていいという仕様だった、ただ屋外で周りに家族連れ、パリピ、そしてカップルしかいないという過酷なロケーションだっただけである。
そうでなければあんな面倒なことをしてまで、比喩ではなくたまに砂の味がする肉を食ったりはしない。
だが世の中には、そのような面倒を一手に引き受けた上に、砂も混じってない肉を提供してくれる店がある。
それが今回紹介するアルバイト「焼肉屋」だ。
焼肉は良い、加齢により昔ほどは食べられなくなったが、今でもタラの芽とかよりは焼肉の方が美味いと思う。
むしろ若いころは、焼肉を食べたくても金がなかったが、今は金も相変わらずないが食べる量が減ったため、昔より安く焼肉が食えるようになった。
客として行くなら焼肉屋が最高であることに異論はない、ではそこで働くというのはどうなのだろう。
おそらく焼肉が好きという人は多いと思うが、自分が忙しく働いている中、他人が焼肉をほおばっている姿を見るのが三度の飯より好き、という人はあまりいないと思う。
一応言っておくが、焼肉屋のバイトというのは焼肉を食う事ではない。焼肉を食べるのが好きだから焼肉屋で働くというのは、新幹線が好きだから将来の夢に「新幹線」と書いてしまうキッズぐらい無邪気が過ぎる。
ただし「まかないが肉」というところも多いそうだ。
だが、全ての店でそうとも限らないので確認した方がいいが、面接で「肉は食えますか」とは言わない方がいい。まかないが肉だったらラッキーぐらいの気持ちで応募しよう。
焼肉屋のバイト内容は、ホールなら注文伺い、肉や飲み物をテーブルまで運ぶ、食器片づけテーブルの清掃、肉を焼く金網の交換などが主な仕事だ。
キッチンはドリンクの用意、肉の盛り付け、サイドメニューの簡単な調理、食器洗いなどをする。
焼肉屋というからには肉に触れる機会も多いかと思いきや、肉は焼肉屋にとってセンターであり、重要ポジなので、切ったりする業務は社員がすることが多く、いきなり「肉担」になるということはあまりないらしい。
逆に言えば、肉に触らせてもらえるようになったら「認められた」ということなのかもしれない。
よってアルバイトの仕事内容は他の飲食店と大差なく、チェーン店であれば仕事がマニュアル化されているので、さほど難しい仕事ではないそうだ。
ただ、焼肉屋といえば、いつも客が多く忙しい印象があると思う。
しかし、何故焼肉屋に客が多いかというと、客が多い日と時間帯に行っているからである。
私が焼肉を食べに行くとしたら、週末の夜が多い。
平日の昼間に焼肉を食うというのは、そうでもしなければ正気で午後に挑める時がしない時、もしくはスロットが火を噴いた時である。
私が行くとき店内は常に混んでいるが、逆に平日昼間は駐車場に車もなくガラガラのようだ。
だが逆に、都会には我が村には存在しない「オフィス街」というものがあり、そこにある焼肉店はランチタイムから混んでいるらしい。
つまり、焼肉店は立地、曜日、時間帯などで忙しさがかなり異なるということだ。
暇な方が良いかと言うと、「時計の針が微動だにしない」という怪現象に襲われることも多いので、どちらが良いとは一概に言えない。
また、焼肉屋の店員は威勢が良くないといけないというイメージがあるかもしれない。
確かに、焼肉屋の店員が粥でも腹を壊しそうなシケヅラをしていてはいけないが、それは他の飲食店も同じである。
しかし、焼肉店の店員は威勢が良くないといけないというより、肉を焼く音や換気扇の轟音で店内がうるさいため、働くうちに自然と声がでかくなるらしい。
声が小さすぎて、コンビニの店員に「レジ袋いりません」を聞き取ってもらえないという人は思い切って焼肉屋でアルバイトしてみても良いかも知れない。
ちなみに、客に声をかけられなくてもタイミングを見て「金網交換」を提案してくるのがデキる焼肉屋のバイトだそうだ。
肉を焼き続けることで金網に焦げが付着し、それが肉にもつくので焼肉はキレイな金網で焼くのが好ましい。
そう言いたいところだが、個人的に部屋が汚い人間は金網が汚れていてもあまり気にせず、それより網が交換される間や温まるのを待つ時間の方が面倒くさいとすら思っていたりする。
ただ、そこまで見極めるのは難しいだろう。
「こいつ、部屋汚そうな顔しているし金網が真っ黒でも気にしなさそう」と高度な読みはせず、網が汚れていると思ったら素直に声かけした方が無難である。
都会の皆さまにとっては、昼飯の一つにすぎないかもしれないが、平素、レトルトパスタや、栄養の入った白い粉(合法)それがなければ雑草を食っている私にとって、焼肉は未だに誕生日などに行く特別な店である。
焼肉店のバイトはそういった「晴れの日」の人間を迎えているかもしれない仕事である。
オーダーを忘れて「ただ金網が焼けるのを無言で見つめるタイム」を作りだすことがないよう、気をつけていただければ幸いだ。
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