カレー沢薫の「バイト丸わかり図鑑」クリーニング屋バイト編
今年に入って皆さんは何枚服を買っただろうか？
聞かれてないのに勝手に答えるが、私は「ゼロ枚」である。
私は今年の6月ぐらいで、無職になって丸3、4年だ。
このように数字が曖昧になってきてからが本当の無職としてのはじまりである。
無職になって3、4年ということは家から出なくなって3、4年ということでもある。
家から出なくなると、全く日光に当たってないのに体中に謎のシミができるなど、様々な変化が訪れるが「服を買う気がなくなる」というのもある。
一般人だって、休日に家の中で、化粧をして髪を巻き、タイトなラバースーツに戦うボディをねじ込んで過ごしているという人は少数派だろう。
ちなみにその格好は、フジコさんでない限り、外でもあまりお勧めはできない。
部屋から出ない場合、格好はラフになりがちだし、何せ人に見せないので、10年物のビンテージ部屋着をコレクションしている人も少なくない。
よって家から出ないと「どうせ誰も見ないし」の一言で服を買う気は雲散霧消してしまうし「むしろ服自体いらないのでは」というメガ後退をしてしまうこともある。
逆に言えば、外で社会生活を送る気があるなら、服装には気をつけなければならないし、新しい服を買うだけだはなく、手入れも怠らないようにしなければならない。
洗いざらいのまっさらな白シャツにカレー染みをつけたまま登場するぐらいなら、ドクロ柄に「ROCK」と書かれた黒Ｔシャツで現れた方がまだマシという説もある。
つまり、服には洗濯が必要ということだ。
大体の服は家で洗濯すると思うが、別れ話のもつれで、コップの水の代わりにカレーをかけられるということもある。
自宅では取れない汚れもあるし、洗濯方法が難解だったり、洗濯の失敗が許されないような高価な服もある。
今回紹介するのは服を清潔かつ長持ちさせるための店「クリーニング屋」のアルバイトだ。
クリーニング屋と言ってもクリーニング自体は工場で行う場合が多いため、クリーニング屋アルバイトの主な業務は、窓口での受付と、品物の仕分け、そしてクリーニングされた服の受け渡しになる。
仕事はシンプルかつ、私の村では天気が「晴れのちカレー」でない限りクリーニング屋に行列ができるということはない。
都会になると衣替えシーズンになると込み合うこともあるらしいが、それも限定的であり、いつも忙しいということはない。
実際、クリーニング屋のバイトは「慌ただしい」ということはあまりなく、服を受け取った瞬間ハンガーにかけ終わっていなければいけない、というような仕事の速さが求められることはそんなにないようだ。
しかし速さの代わりに求められるのが「慎重さ」である。
クリーニング屋に持ち込まれる服というのは基本的に「大事な服」が多い。
イオソのワゴンセールで買ったROCK黒Tをクリーニングに出すような、セレブなのか庶民なのかよくわからない人はあまりいない。
自分で洗濯して失敗したくないから、安くはない料金を払ってクリーニングに出しているのである、そのクリーニング屋がミスったら大ごとだ。
クリーニング屋のアルバイトが慎重にならなければいけないのはまず「服の現状確認」である。
元から傷があったにも関わらず、それを受け取り時に確認していなければ「クリーニングで傷がついた」というクレームに繋がってしまう。
よって、お客さんと一緒に「このシャツには元から胸部に穴が二つ空いてますね？」と受け取った時の状態をしっかり確認しておかなければならない。
つまり、スピード重視でさっさとやってしまうタイプより、本当に鍵がかかっているかどうかドアノブを１０回ぐらいガチャガチャさせ、さらに道中で引き返してもう１回ガチャガチャさせるぐらい、慎重なタイプの方がクリーニングバイトには向いている。
またポケットに物が入ってないかなどの確認も大事である。
貴重品が入っていて紛失、となったら大変だし、何故か食紅がボトルで入っていたというのも困る。
また、ジャケットのファーや、ズボンの両足を繋ぐ謎のベルトなど、付属品の有無の確認も大事である。
つまり、品物を受けとるだけではなく、お客さんと逐一確認ができる程度のコミュニケーション能力は必要ということだ。
もちろん、ROCK黒Tを預けた人に、高級毛皮を渡してしまったら「俺の大事なTシャツを毛だらけにしやがって」と大ごとになりかねないので、引き渡しも慎重に行わなければならない。
難しく感じるかもしれないが、そのような確認事項含め、完全にマニュアル化されているチェーン店も多いため、慣れれば客が大挙してくるということもあまりないため、楽という意見もある。
また、クリーニング自体に関わることはないが、簡単なアイロンがけをするところもあるようなので、下手にやると逆に深いシワが刻まれてしまうアイロンがけスキルが向上するというメリットがある。
私個人はあまりクリーニング屋を利用しない。
クリーニングするほどの服を持っていない、というのもあるが、ずぼらで貧乏性なため「家で洗えばいい」と思ってしまうのだ。
こういうタイプが、２サイズほど縮んだ、懐かしのピタTスタイルや、逆に全部カレーで染めた方が早いようなシャツで公の場に出てしまうのだ。
クリーニング屋とは、人の社会的生命を支える尊い仕事である。
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