営業に向いているのは「悲観的で口下手な人」。営業歴25年、フミコフミオの仕事観
世の中に営業の仕事をしている人はたくさんいます。しかし、営業って具体的には何をしているのでしょう。一般の人には、何をしているのかが、意外とわかりにくいのではないでしょうか。
今回お話をうかがったのは人気ブロガーのフミコフミオさん。新卒で就職してから現在に至るまでの25年間、ずっと営業をしてきたベテランの営業マンでもあります。お仕事内容について、率直に聞いてみました。
デキる営業は商品を売らない?
―営業ってそもそもどういうお仕事なんでしょうか。
「営業って“商品”か“サービス”を売るお仕事というイメージが強いですよね。確かにそれもありますが、いま私が実際にやっているのは『自分を売る』ということです」
―自分を売る。なぜそんなことをするんでしょうか。
「そもそも営業というのは、“お客さんの利益を最大化するために何ができるか”を考える仕事なんです。この仕事をするには、まず自分を信用してもらわないといけません。
僕は今、自社の商品を売らないようにしているんですよ。むしろ、競合他社の商品の説明をすることが多いです。僕が “他社の商品にはこういうメリットがあります”という話をすると、お客様は幅広い情報がとれますよね。すると、お客様は『この営業マンは商品を売ろうとしてるんじゃなくて、自分のことを考えてくれてるんだ』と感じてくれるんです。それが信用につながる」
―それは……一般の人が持ってる“営業職”のイメージとはだいぶ違う感じがしますね。自社商品をガンガンと推して売るのが仕事だと思ってました。
「僕の仕事は食品系の営業なんですけど、正直、競合がめちゃくちゃ多いんです。その中で商品の独自性を出すのって難しいじゃないですか。そこで『フミコって営業マンはいろいろ相談に乗ってくれたから、あの食品だけは彼が持ってきたのを買おうか』とか『もしかしたら他社より高いかもしれないけど、フミコのだから信用できそうだ』と思ってもらうんです」
―価格競争になると、競合同士の叩き合いになりますもんね。普通に考えたら、買う側は安ければ安いほどうれしいわけですから。
「実際、僕が営業の仕事を始めた頃は、値下げ合戦をずっとしていたんですよ。そこから脱却するためには、価格以外の部分で納得してもらって買ってもらう方がいい。……もちろん理想論ではあるんですけど、そういうことをやっていきたいなと思って」
誰でも好かれる営業マンになれる
―商品の魅力や価格の安さには頼れないと、営業をする人のパーソナルな魅力の勝負になりますよね。それってめちゃくちゃ難しくないですか?
「いやいや、そんなことはないですよ。ある程度の仕組みさえ作ってしまえば、誰でもできる仕事だと思いますよ。お客様のところに行って直接話すという、ちょっとした勇気が必要なだけです」
―お客さんに好かれるようになる仕組みって、どういうものがあるんですか?
「お客様の話を良く聞いて、お客様にしゃべってもらうことです。誰しも、自分の話を聞いてくれる相手に対しては好感を持ちますよね。この人は聞いてくれるから、次はこういう話をしようかな、とか。それがどんどん話を引き出す結果になる」
―ペラペラと言葉を続けるような、いわゆる“営業トーク”はしない?
「営業トークは武器にもなるんですが、マイナスに働くことも多いと思っています。自分のトークに酔って、お客様の話をふさいでしまう営業マンっているんですよ。僕はむしろ、お客様に営業トークをしてもらいたい。ダーッとしゃべってもらって、気持ちよくなってもらうのが一番」
―えー! 完全に一般的なイメージとは真逆ですね。
「そうでしょうね。意外かもしれませんが、営業マンって口べたな人の方が向いてるんですよ。あとは悲観的な人。悲観的な人って周りをすごく気にして空気を読みますから」
―なるほど……。とはいえ、それで売上を立てるのって、ちょっと時間はかかりそうです。
「そう。確かに、時間はかかるんです。たとえば、カリスマ営業マンがすごいトークで商品を売って、ノルマをバーンとこなす。これは、一見カッコイイかもしれない。ただ、こうした営業をすると、お客様との関係が短期で終わっちゃう可能性が高いんです」
―では、時間がかかってもいいんですね。
「会社って、長期的なファンを作りたいんですよ。だから、多少時間をかけてでも、長期的なおつきあいを作る方が大事。お客様のニーズをどんどん聞き出して、ずっとそれに対応していくような関係性が理想です。例えば食品なら、『夏野菜にはこういうものがありますよ』って紹介したら、次は相手の方から『秋の野菜にはどういうものがあるの?』って聞いてくれるような。営業テクニックで『相手のニーズを聞き出す方法』みたいなものがありますけど、ちゃんとした関係性が作れていたら、テクニックは必要ないんですよね」
―確かに。友達に「今こういうの欲しいんだよねー」って話すような感じですもんね。
「そうなったらもう勝ちですよね」
営業は「特別な仕事」じゃない。
―フミコさんが過去に失敗した話があったらお聞きしたいんですが。
「20代後半から30代ぐらいのときですね。実績ができてきて、社長賞をとったりするような、いい時期がありました。でもそのときに、ちょっと天狗になっていた。営業は会社の看板、なんておだてられて、社内の他部署に対してかなり上から行くことがありました。
上手くいっているときはそれでいいんです。しかし、上手くいかない仕事に直面し、社内に助けを求めたときに、まったく協力が得られませんでした。結局、その仕事はまとめられず。あれは失敗でしたね」
―お客様だけではなくて、社内の人との関係も営業には大事なんですね。
「社内の人と、お互いにイーブンで話せる関係性を作っておくのは大事だなと気づかされました。
普段から意見が言えれば、多少キツくても助けてくれたり、『今回は厳しいから助けるのは無理』とちゃんと本音を言ってくれます。それなら、お互いに落としどころが探せるわけじゃないですか。
そこを僕は間違っていて、『営業が仕事をとってきたんだぞ』と威張っていたんです。もちろん営業が仕事をとってくるのは間違っていないんだけど、それがそもそもの役割なのだから、そこで威張るのは違いますよね。商品を作るのも、仕事を取ってくるのも、それぞれ社内でお互いの業務なんだから、そこに上下はない。それに気付いてなかったんですね」
―それからは、社外だけじゃなくて、社内でも営業力を発揮しよう、という感じになったんですか。
「そうですね。たまたまその直後ぐらいに転職する機会があって……。そのときに、じゃあこのタイミングで自分を変えてみようかな、と思って」
―大学デビューならぬ、転職デビューですね。
「転職デビューです(笑)。今の若い方たちにはそんな考えはないと思うんですが、僕らの時代は本当に『営業が偉い』みたいな世界があったんで……。あれはほんと、良くないですよ」
―その考え方はすごく重要な気もしますね。営業も単なる職務だから、と。
「そうですね。営業は特別な仕事ではないです。ここまで話してきたように、地味な仕事。コツコツと地道に行えば、誰でもできる。それに、単なる職務と捉えればこそ、楽しくできるとも思うんです」
フミコフミオ
大学卒業後、運輸・食品と業界を変えても営業一本で渡り歩くベテラン営業マン 兼 会社員生活を記した人気ブログ「Everything you’ve ever Dreamed」執筆。現在は営業部長として、部下の労務管理と自分の健康維持に四苦八苦する毎日。
近著に『ぼくは会社員という生き方に絶望はしていない。ただ、今の職場にずっと……と考えると胃に穴があきそうになる。』(KADOKAWA)がある。
(取材・文/きだてたく、撮影/安藤”アン”誠起、編集/斎藤充博(プレスラボ))