俳優/アーティスト・植田圭輔インタビュー『失敗や悩みは乗り越えるためのもの。落ち込んだ時は打開策を考える方向に意識を持っていく』
俳優として『2.5次元』の舞台を中心に活躍中の植田圭輔さん。2018年にアーティスト活動をスタート。3作目となる『canvas』(3月3日発売)は、自身の伝えたい思いが前面に押し出されたアルバムとなっています。肯定感やコンプレックスにまつわる人生観、経験が自身を変えたという仕事観について伺いました。
アルバム『canvas』は、聴いてくれる方たちに向けて言葉を届けたいと思った
――制作にあたり、どのようなアルバムにしたいと考えていましたか?
今までは俳優である僕が歌をうたっているというニュアンスが強かったのですが、3作目ということもあり、自分の中で“俳優だから”という逃げは取っ払って等身大であり、アーティスト性の強いものにしたいと考えていました。
――表題曲「キャンバス」の作曲は、伊東歌詞太郎さんですが、どんな印象を受けましたか?
最初にお会いした時に、僕自身がどういう人間なのかということを隠すことなくお話ししました。打ち合わせの後も長電話したりと、良い意味で仕事の垣根を越えて向き合ってくれる方だったのですごく打ち解けやすかったです。
それと、ウソをついても見透かされそうな気がして(笑)。事前に伊東さんが書かれた小説を読んでいたのもあって、人の痛みが分かるからこそ“陽のエネルギー”に溢れた方だと感じました。
――歌詞はどのようなところから生まれたのでしょうか?
作詞は5曲中4曲を僕がしているのですが、今までは自分主観のものが多かったんです。でも、今回は聴いてくれる方たちに向けて書いたものが多くて、特に「キャンバス」は、それが強く反映された歌詞になりました。
――冒頭の《頑張らなくていいよ》というフレーズからして、すごく肯定感がありますよね。
僕自身が普段から言い聞かせていることで、歌詞を通して一番伝えたいところでもあります。正確には“頑張り過ぎなくていいよ”なんですけど、辛い時ほど“もっと頑張らなくちゃ”と思いがちで、切羽詰まるほど追い込まれていく。でも、その状態はすでに頑張っている証拠だから、そういう時に《君は君のままでいいよ》と感じてほしかったんです。
創作活動をするうえで、縛りは何もないんだと気付けた
――4曲目に収録されている「身長」は、幼少期からのコンプレックスを払拭する歌詞となっていますね。
背が小さいことがコンプレックスだった幼少期の自分から、それを強みとして肯定出来るまでを描いていますが、対象が限定的なので最初は悩みました。でも、創作において縛りはないと思えたのと、歌詞のどこかには懐かしいと感じてもらえる共感ポイントがあると思ったので形にしました。
――牛乳など、気になるワードも満載で(笑)。
歌い心地としての違和感はあるんですけど、身長を伸ばすために一生懸命に飲んだのは《給食の牛乳》だったので、ミルクとかではダメだったんです(笑)。
――自分をさらけ出した歌詞は、ミュージシャンであり俳優仲間の中村誠治郎さんとのコラボということも作用しているのかなと。
そうですね、かなりワガママを聞いてもらいました! 彼の家に行って、歌詞と曲のイメージを伝えたら、その場で「こんな感じ?」と弾いてくれて、「そんなんそんなん!」って(笑)。僕がアーテイスト活動を始めた頃から「一緒に曲を作れる日が来たらいいね」と話していたので1つの夢が叶いました。
――そして、最後に収録されている「今、この時」は壮大なナンバーですね。
レコーディングの時、「最後のラララにファンの皆さんの声を入れられないかな」と思ったのですが、集まってもらって録音することは出来ないので、「じゃあリモートでレコーディングに参加してもらおう」となったんです。歌声をデータにするのは気恥ずかしさもあるだろうし、すごく手間もかかったと思います。この作品に、みんなが時間をかけてくれたということが何より嬉しかったですし、完成したものを聴いた時は鳥肌が立ちました。いつかライヴで大合唱出来る日が楽しみです。
他の俳優と自分の熱量の違いを恥ずかしいと感じた初舞台
――今回のアルバムは、肯定感やコンプレックスなど“人生観”が反映された仕上がりになっていますが、ここからは仕事への向き合い方についても聞いていきたいと思います。
今でこそ舞台で演じることがライフワークになっていますが、もともとは姉が応募したジュノン・スーパーボーイ・コンテストで落選したのが悔しくて、再度挑戦したのがきっかけでこの仕事を始めました。だから、最初は夢や目標として始めたわけではありませんでした。
――俳優への気持ちはどのように変化するのでしょうか?
初めて立った舞台の千秋楽で、脱水症状で公演中に倒れてしまったんです。ステージ裏で顔に水をかけられて意識が戻ったのですが、僕が倒れている間の芝居は共演の俳優さんがつないでくれて、さらに僕の介抱もしてくれて…。それまでの僕はすごくトガっていて、練習をしていても“なんで自分ばっかりダメ出しされないといけないんだろう”とか、不貞腐れてばかりだったんです。
でも、その出来事があって“1つの作品すら最後までやり通す力もないくせに、自分は何をいきがっていたんだ”とすごく恥ずかしくなりました。心血を注いで舞台に取り組んでいる人たちとは、芝居にかける熱量があまりに違っていることに気付いたのが最初のターニングポイントになりました。
――その後、練習方法など具体的に変わった点はありますか?
他の俳優さんに目を向けたことで、自分が好きだと感じる演技がどんなものなのかを考えるようになりました。“何故この人の演技が好きなんだろう”とか、“この人の演技のどこに惹かれるんだろう”ということを意識するうちに、徐々に自分が目指すものが見えてきました。
俳優としての理想像は、誰かではなく“自分にしか出来ない芝居”
――自分なりのスタイルを考える時期でもあったと。
そうですね。それと演技を続けていくなかで、役の心情に沿って涙を流せた時に“ずっとこういう(感情をのせられる)芝居をしたい”と思えたんです。そうなるためには、“何が必要なんだろう”と考えて。だから、誰かみたいになりたいというよりは、自分にとっての理想は“僕にしか出来ないもの”を探すことだと意識するようになりました。
――それだけ俳優という仕事にのめり込むなかで、自信をなくすことはなかったのでしょうか?
俳優の仕事が軌道に乗るまではバイトもしていましたが、バイトのほうが多い時期もあって、何をしに東京に来たのか分からなくなった時は凹みました。一度だけ、俳優を諦めようと思って親に電話をしたことがあったんですけど、「辞めるのはいいけど、最後までやり切ったの?」と聞かれた時にハッとしましたね。
「芝居が好きだ」と言ってはいたけれど、本当にそれに見合うような芝居へのアプローチをしてきたのかなと。しかも、辞めてどうするのかといった先のことは何も考えていなくて。ただ現実から逃げ出したいだけだった。“まだ自分は何も残せていない”と思った時に、後悔が1つも残らないようにやれるところまでやってみようと決心しました。
経験を重ねて心で感じることが、自分を変えるためには必要だった
――お話を伺っていると、なぜそう思うのか、どうしたら解決できるのかなど、常に自分と対話されている感じがします。
反骨精神で乗り越えることは多いです。悩んだ時に環境や他人のせいにしても何も変わらないことに気付いたので、落ち込みそうになったら、失敗や悩みは“乗り越えるためのもの”だと切り替えて、打開策を考えるようになりました。
――昔から、考えることで悩みを打破できるタイプだったんでしょうか?
全然違いました。さきほどお話したように、俳優を始めてすぐは稽古をしていても不満ばかりだったので(苦笑)。
――経験を重ねることで得てきたものなんですね。
そうだと思います。ちなみに、音源にも収録した「身長」は、10代でコンプレックスを抱えていた当時の心境も綴っていますが、あの頃の自分に「コンプレックスがあっても大丈夫」と伝えてあげたとしても、13歳の植田くんはそれを信じないか、“知った口きくな!”と返すはずなんです(笑)。
――自分からのアドバイスなのに!
はい(笑)。きっと未来の自分の言葉ですら響かない。そう思うと、やっぱり自分で経験して心で感じるということが一番大切なんだと思います。それと、今の俳優としての原動力は、芝居で楽しむこと、そして見てくれる人に楽しんでもらうことなので、これからも長く挑戦を続けていきたいと思っています。
植田圭輔(うえだ・けいすけ)
1989年9月5日生まれ、大阪府出身。2006年第19回ジュノン・スーパーボーイ・コンテストのファイナリストに選ばれる。2007年舞台『少年陰陽師《歌絵巻》』で主演デビュー。以降、2.5次元作品の中心的な俳優として数多くの舞台作品に出演し、今後も舞台「文豪ストレイドッグス DEAD APPLE」、「MANKAI STAGE『A3!』~WINTER2021~」、「舞台『鬼滅の刃』」などの出演が控えている。アーティストとしては、2018年に『START LINE 〜時の轍 (わだち )〜』でメジャーデビューし、2019年に2ndCD『voice of..(ボイスオブ..)』をリリースしている。
◆ヤマハミュージックコミュニケーションズ/植田圭輔アーティストページ:https://www.yamahamusic.co.jp/s/ymc/artist/264
◆植田圭輔 公式情報 Twitter:@NiconicoUeda
◆植田圭輔 Twitter:@uechan_0905
◆植田圭輔 公式チャンネル:「うえちゃんネル」:https://ch.nicovideo.jp/uechannel
企画・編集:ぽっくんワールド企画 撮影:河井彩美 取材・文:原 千夏