俳優・渡邊圭祐さんインタビュー 「とにかく動くことが大事。やってみてダメだったら次へいけばいい」
トップアスリート高校生集団が、突如飲み込まれた戦国時代で、仲間との未来をとり戻そうと奮闘する映画「ブレイブ -群青戦記-」で、歴史操作を目論む高校生・不破瑠衣を演じた渡邊圭祐さん。織田信長や徳川家康が登場する歴史スペクタクル大作にどんな思いで挑んだのか、そして、27歳の仕事観をインタビューしました。
不破瑠衣は唯一、悪と呼べる存在。相手に嫌われるような言葉の発し方を意識しました
――作品は渡邊さん扮する不破瑠衣の場面から始まりますが、学生服姿を披露した感想から聞かせてください。
これまで学ランを着たことがなくて、「ついに憧れの学ランだ!」と自分ではウキウキだったんですよ。でも、髪が長過ぎて浮いてしまうからと、自分の髪より短いウィッグをかぶることになって。僕は自分で言うのもなんですけど、どんな服でも自分に落とし込む自信があるんですね。それなのに、本広(克行)監督から「学ラン似合わねーな」と言われて。衝撃的な一言でした(苦笑)。
――確かに衝撃的な言葉です。登場人物の多い作品ですが、その中でどのように自分のカラーを出そうと思いましたか?
作品において唯一、悪と呼べる存在って僕が演じた不破瑠衣だけなんです。松平元康(後の徳川家康=三浦春馬)はもちろん、信長(松山ケンイチ)だって信長なりの正義を貫いている。何かを企み、何かを壊そうとしているのは不破だけなので、あえて、自分の個性を強く出そうと意識する必要はないのかなと思いました。
――皆の悪にならなければならないというのは相当な重圧だと思います。
観ている側に違和感を与えなければいけない役割なので、どうしたら嫌われるかな、どうすれば相手の神経を逆なでするような一言を発することができるだろうと。例えば、あえて、気持ち悪い間(ま)のとり方をするように、などを心がけていました。
――どのように役柄をつくり上げていったのか、プロセスを聞かせてください。
自分がやったことはそんなに多くないんです。例えば衣装ですけど、甲冑の上に着る陣羽織や、中に着ているものなど、模様がどれだけ不気味かということにこだわったそうで、顔に装着している面頬(めんぽう)も素材の質感からこだわったと聞きました。それだけで不破瑠衣って異質な存在に見えると思うんです。現代から戦国時代にタイムスリップした役柄なので、異物感を出さなきゃいけない。でも、そんなことを考える必要がないぐらい見た目にこだわっていただいたので、僕が役を構築したというより、いろんな方の助けで不破瑠衣という人物が完成したんだと思います。
役の落とし込み方を三浦春馬さん、松山ケンイチさんから学ばせていただきました
――今作では三浦春馬さんや松山ケンイチさんが圧倒的な存在感を発揮していましたが、お二人から学ぶことも多かったのではないでしょうか?
どちらかというと、松山さんと一緒のシーンが多かったんですけど、松山さんが体現する信長がすごく沁みたんですよ。当然、信長には会ったことがないのでイメージでしかないんですけど、おそらく信長ってこうだったんだろうなというものを松山さんの中からすごく感じて。圧もすごいし、身じろぎ一つ許さないみたいな。ものすごく怖かったですね。対照的に、春馬さんが演じる元康は温かさにあふれていました。おそらく、お二方の役作りにおける方向性の違いなんでしょうけど、色がきちんと分かれていて素晴らしいんです。役をつくって落とし込むってこういうことなんだろうなというものを、お二人から学ばせていただきました。
――貴重な時間となりましたね。そして、不破の見せ場でもある主人公・蒼(新田真剣佑)との対決シーンですが、新田さんと刃を交わした感想を聞かせてください。
アクションにおいてバケモノですよ、彼は。アクション監督やそのクルーの皆さんとずっと手合わせをしていて、僕はもちろんトップスピード。あちらもそれなりのスピードで来てくださるんですが、アクションを生業としているプロの方より、マッケンの動きは速かった。リハーサルで振り返ったらマッケンとの距離が一馬身半ぐらい離れていたんですけど、本番では振り返ったらもう眼前にいるわけですよ。しかも、僕の武器が長物なので、一振り一振りのモーションが大きく、ちょっとしたラグが生じてしまう。そんなことにもマッケンは即座に対応してくれて、度量の大きさに驚かされました。
念願のヴィランを演じたことで、「ブレイブ」が僕の転機になりそうな気がしている
――ここからは渡邊さんの仕事観をお聞きしたいのですが、俳優という仕事の醍醐味をどんなところに感じていますか?
やりがいしかないところじゃないですか。満足したらそれで終わりだし、自分と、とことん闘いながら、いろんな人の意見をとり入れなきゃいけないので、柔軟でいないといけない。かといって、尖りは持っていたいし、バランス感覚がないと続けていけない。でも、そのバランスの正解を決めるのは自分ではなくて、すごく曖昧なもの。極端な話、アカデミー賞を獲ったから終わりなのかと言ったらそうでもなく、一つのことを終えた瞬間に、次のステップへの足掛かりでしかなくなってしまう。そういう意味では、一生楽しめる仕事だと思います。
――2018年のデビュー以来、着実にステップアップしていると思うのですが、転機となったと思う作品やタイミングについて聞かせてください。
昨年1年間は多くの作品に携わることができ、その中で三浦春馬さんや佐藤健さん、星野源さん、綾野剛さんなど偉大な先輩と関わらせていただきましたが、この「ブレイブ」は僕の中でとても大きな存在になりました。ヴィラン(悪役)を演じることは念願でしたし、ひと足早く作品をご覧になった方から好評価をいただいて、転機になりそうな気がしています。
僕は挫折を経験したことがない。ポジティブだから感じていないだけなのかも……
――お話できる範囲で構わないのですが、挫折を経験したことはありますか? そして、その時をどのように乗り越えましたか?
僕は挫折をしたことがないんです。よく言うじゃないですか、「就職活動をする時には挫折体験を話したほうがいいぞ」とか。本当にないのか、もしくは自分が感じてないだけなのか。ものすごくポジティブだから、感じていないのかもしれません。次のステップへ向けて「どうしようかな」と、すぐに考えると思います。悩んでいてもしようがないし、決めるのは自分。だったら衝動的に一度動いてみよう、間違っていたらこうしよう、みたいな考え方です。
――切り替えが早いんですね。では、お仕事をするうえで大切にしていることは?
楽しむことですね。自分が楽しめないことをやっていても、見ている方には楽しんでいただけないと思うんです。何をするにしても、自分がどれだけ楽しめるかを大切な物差しとして自分の中で持っておいて、チャレンジしていく。常にそこがベースになっています。
――そんなふうに考えるきっかけなどあったのでしょうか?
きっかけや誰かの影響というわけではなく、気づいたらそうなっていました。もともと好きなことしかやりたくないタイプなので、嫌いなことはできるだけやりたくない。そういう考え方からきているんだと思います。
普通に生活していると、自分の考えをアウトプットする時間って、あるようでなかなかないじゃないですか。だけど、僕たちの仕事はそんな場を与えられているので、そこは相当なメリットだと思います。インプットするだけじゃなく、こういう場をいただいて今の自分の中身をお伝えする。その時間はとてもありがたいし、そういう時間があるからこそ「楽しむことを大切にしている」と気づくことができる。アウトプットが自分を知るきっかけになったのかもしれないですね。
――最後に、夢や目標に向かって奮闘する若い世代へアドバイスをお願いします。
とにかく動くことではないでしょうか。一旦やってみて、ダメだったら次へいけばいいし、自分に合わなかったらやめればいいだけの話。僕はいろんなところでお話しているんですけど、「自分が楽しめなくなったらこの仕事を辞めます」と公言しているんです。それと同じで、アルバイトや就職など受かるかどうかもわからないんですから、まずは飛び込んでいくことが大事。やりたいことが見つからないのなら、いろんなことをやる中で自分が得意なことや、楽しめそうなことを見つければいい。とにかくいろいろやってみてから、「何か言えばいいんじゃないの?」というのが僕から言えることですね。
渡邊圭祐(わたなべ・けいすけ)
1993年11月21日、宮城県生まれ。2018年「仮面ライダージオウ」(テレビ朝日系)でデビュー後、ドラマ「恋はつづくよどこまでも」「MIU404」(ともにTBS系)、「直ちゃんは小学三年生」(テレビ東京系)に出演。4月期新水曜ドラマ「恋はDeepに」(日本テレビ系)に出演するほか、12月上演の「彼女を笑う人がいても」で初舞台をふむ。
◆OFFICIAL SITE:渡邊圭祐 オフィシャルサイト | Keisuke Watanabe Official Site (amob.jp)
◆OFFICIAL Twitter:@w_keisuke93
◆OFICIAL Instagram:@w_keisuke93
編集:ぽっくんワールド企画
撮影:河井彩美
取材・文:荒垣信子