声優・竹達彩奈さんインタビュー 「どんなお仕事でも、いろいろな経験をして心を動かすことが大事」
ピアノをコンセプトにした超人気音楽リズムゲーム「DEEMO」を基にした、劇場版『DEEMO サクラノオト-あなたの奏でた音が、今も響く-』で主人公・アリスの声を担当した竹達彩奈さん。世界中で愛されるゲームの長編映画化に挑んだ心境を聞いたほか、竹達さんが普段、どのような思いで仕事に向き合っているかをインタビューしました。
新たなキャラクターの登場で、アリスの感情が豊かになっていることに驚きました
――ゲームを映画化するというのはまったく想像ができなかったのですが、竹達さんはこのプロジェクトを聞いた時にどのような印象をもちましたか?
アニメ化されると聞いた時は、「どうなるんだろう」というワクワクと、アリスを演じる前から私自身がゲームのファンだったということもあり、世界観が変わってしまうのではないかという不安が入り混じったような感覚になりました。アリスしか言葉を発さない世界で、Deemoという謎のキャラクターはいるけれどしゃべらないし、仮面の少女はアリスのことをよく思っていない。どうストーリーを膨らませていくのだろうと考えたのですが、脚本を読んだら「なるほど、その発想はなかった」という切り口になっていて、とても新鮮に受け止めました。
――その脚本を読んだ感想を聞かせてください。
私はゲームシリーズからアリスを演じているのですが、台本を読んでまず感じたのは、アリスの感情の豊かさでした。ゲームの中のアリスは、心情をただ吐露するだけで、感情の起伏があまりないんですね。それが今回のアニメでは、ゲームにも登場するミライ(濱田岳)のほか、匂い袋(渡辺直美)とくるみ割り人形(イッセー尾形)という新しいキャラクターに命が吹き込まれ、登場したことによって、アリスの感情を引っ張り出してくれました。特にアリスが号泣する場面ではビックリしてしまいました。
――濱田さん、渡辺さん、イッセーさんが演じたキャラクターとのシーンが多いアリスですが、お三方のお芝居はいかがでしたか?
アフレコはご一緒できなかったので、完成した作品を観るまでまったく予想できなかったのですが、皆さん、私が想像していたよりも遥かに素晴らしいお芝居でした。キャラクターたちが生き生きと動いている姿がとても可愛らしく魅力的で。皆さん、声のお仕事が本業ではないところで活躍されている方じゃないですか。そんな方々がこんなにも素敵に命を吹き込んでくださるんだとビックリしてしまったんです。もちろん、“演じる”ことにおいて俳優も声優も大きく分けたら同じなのかもしれないですが、声優って技術的なものが求められる職業なので、そこが違和感なくできていることに感激しました。
幼い女の子を演じる時は、街で見かけた子どもたちの声を参考にしています
――4人のやりとりがとても微笑ましかったです。アリスからはどのような印象をうけましたか?
子どもの頃の私はとても泣き虫だったので、アリスは私と比べて断然大人だと思います。だって、めげないじゃないですか。突然、変わった世界にやって来て、Deemoは謎のキャラクターだし、仮面の少女はアリスを嫌っている。どうしたらいいかわからない、そんな環境においてもどうにかして、元の世界へ帰ろうとする芯の強さはすごいなって。登れない木に向かって、何度も果敢に挑んでいく姿にはキュンときました。
――そんなアリスはある曲に対してノスタルジーを感じていましたが、竹達さんにとって懐かしい記憶がよみがえってくるような音楽などはありますか?
音というよりも、私の場合は匂いですね。ふとした瞬間に子どもの頃を思い出す匂いがあって、おそらく誰かの家の匂いなんですよ。たまたま通り過ぎた場所や、現場でスタッフさんとお会いした時に「あ、幼稚園の時に毎日嗅いでいた匂いだ」って(笑)。その匂いを嗅ぐと、「幼稚園では友だちがなかなかできなくて、行きたくなかったな」とか思い出して、懐かしい気持ちになります。
――「匂いの記憶」って確かにありますよね。作品において少女を演じることも多いと思いますが、幼い子の声を表現するためにやっていることはありますか?
リアルな年齢は当然、幼い女の子からどんどん離れていってしまうのでどうしても声が大人っぽくなってしまうことが毎回悩みどころなのですが、私は普段から電車に乗っている時や自宅近くで遊んでいる子どもたちの声を、すごく聞くようにしています。子どもっていきなり金切り声といいますか、「そこからそんな声出る⁉」みたいな不思議な声を出すんですよ(笑)。今はマスクをしているからいいかなと思って、マスクの中でこっそり子どもたちの声を真似してみたり、言い回しなどを研究したりしています。
――街で出会った子どもたちの声を参考にしているんですね。そんなふうにつくり上げていったアリスというキャラクターの成長を描く「DEEMO」の、どんなところに魅力を感じていますか?
「DEEMO」の世界観って初見だとわかりづらいといいますか、そのミステリアスさが逆に興味を惹くと思うんです。そして、印象に残るのは大きな木ですよね。ゲームでもそうですし、今回の作品でもピアノを弾くと木がぐんぐん成長していく姿がとても印象的で、その様が息をのむように美しいんです。その1シーンだけでも、「DEEMO」を象徴する魅力がぎゅっと詰まっていると感じました。
ご縁を大切に、丁寧に役をつくり上げることを意識しています
――竹達さんが普段、仕事をするうえで大事にしているのはどのようなことでしょう?
最も大切にしているのはやはり“ご縁”でしょうか。お仕事をしていると、私がかつて出演した作品を中学生や高校生の時に見てくれた子が大人になってアニメ業界で働くようになり、また新たな作品で声をかけてくださるパターンが結構あるんです。どの作品がどうつながるかわからないので、いただいたお仕事は一切手を抜かず、一つ一つ丁寧につくり上げることを心がけています。
――そんな“再会”もあるんですね。これまでやったことのないジャンルのオファーが来ることもあるかと思いますが、そんな時はどのように対応していますか?
いただいたお仕事に対して、「これは私ではないほうがいいのではないか」というものも、正直あります。最近はテレビ番組に呼んでいただくことも多くて、バラエティーを見るのは好きですけど、自分がそこへ出ていくとなると面白いことは言えませんし、自分でも向いてないなと自覚しています。でも、せっかくお声がけいただいたのだから、何事も一度はやってみようという気持ちでチャレンジしています。
――新しい挑戦が思ったようにうまくいかず、落ち込むこともあると思います。そんな時はどなたかに相談することもありますか?
誰かに相談事をもちかける時って、実は自分の中ですでに答えを見つけている段階だと私は思うんです。見つけているからこそ、人に話すことができる。私自身は、普段から悩みを人に打ち明けることが苦手なので、「どうしよう……」と行き詰まった時は、ボーッとしながら時間が経過するのを待ったり、おいしいものを食べたりして、気持ちを切り替えるようにしています。それでもダメな時は、寝ちゃいますね(笑)。
――「寝て忘れる」って大事ですよね(笑)。落ち込んだ時にテンションを上げるいい方法はありますか?
あまり参考にならないかもしれませんが、「今日はちょっと苦手なお仕事だし、難しそうだな」など、あまり気分がのらない時は、「このお仕事が終わったら何かおいしいものを食べよう、新しいコスメを買おう」など自分へのご褒美をあらかじめ決めて、取り組むようにしています。そうすると、意外と頑張れるものですよ。
――日々の勉強や仕事に奮闘する皆さんへメッセージをお願いします。
声優という仕事に限らず、どのような職業においても、過去に経験したことというのは、未来で何につながるかわからないと思うんです。習い事などもそうですが、いろいろな経験を重ねて、心を動かすことがまず大事なのではないでしょうか。そうすることで新たな仕事へとつながったり、新たな人間関係ができたりすると思うので、若い世代の皆さんには、できるだけ多くのものにふれてほしいなって思います。
竹達彩奈(たけたつ・あやな)
1989年6月23日、埼玉県生まれ。2005年に声優デビュー。主な出演作に「けいおん!」シリーズ(中野梓役)、「kiss×sis」(住之江あこ役)、「俺の妹がこんなに可愛いわけがない」(高坂桐乃役)、「たまゆら」(沢渡楓役)、「ソードアート・オンライン」(リーファ役)、「スナックワールド」(マヨネ役)、「五等分の花嫁」(中野二乃役)など多数。2012年にはアーティストデビューもはたすなど、幅広く活動している。
◆Official Site:https://ayanataketatsu.jp/
◆Official Instagram:@ayachi_official
◆Official Twitter:@Ayana_take
編集:ぽっくんワールド企画
撮影:井野友樹
取材・文:荒垣信子