俳優・アーティスト/立石俊樹さんインタビュー 「夢に向かって踏み出す“1歩”は、100歩、1000歩以上に価値のあるものだと感じた」
ミュージカル「エリザベート」にオーストリア皇太子・ルドルフ役で出演する立石俊樹さん。高い歌唱力と華やかなルックスを武器に、ミュージカル界で躍進する立石さんが超大作へ挑む心構えをインタビュー。また、前職・消防士から芸能界へ転身を遂げた立石さんならではの経験談、夢に懸ける情熱を尋ねました。
「エリザベート」の世界観を崩さないよう、新たなルドルフの魅力をお届けしたい
――まずは「エリザベート」への出演が決まった時の心境を聞かせてください。
出演をひとつの目標にしていた作品なので、素直にとてもうれしかったです。同時に、長く愛されている作品のキャストの一員に選んでいただけたことで、歌やお芝居などの技術をもっと上げなくてはとプレッシャーも感じました。
――ルドルフからはどのような印象を受けましたか?
ルドルフを演じることになり、彼について改めて考えてみたのですが、皇太子として生まれたものの、母・エリザベートからは引き離され、父のフランツ・ヨーゼフとは対立。もし、自分が同じ状況だったとしたら、はたして彼のような決断ができたのかなって……。母と再会したときに本心を明かしたところで脆さが垣間見える場面もありますが、意志が強く、行動力もあるので、弱い人間ではないと感じました。
――演じるうえで意識したいのはどんな部分ですか?
ルドルフは作品の終盤、重要な場面で登場し、総出演時間は約20分と長くはないのですが、孤独な少年期を経て、このような青年に育った彼のバックボーンみたいなものはきっと立ち振る舞いに表れると思うので、そこは気を付けて役作りをしたいところです。
――開幕を楽しみにしています。改めて、本番への意気込みを聞かせてください。
グランドミュージカルの経験が浅い僕にとって、今回の出演はとても光栄なことなので、しっかり皆さんの期待に応えたいです。そして、これまで大先輩の皆様が積み上げてこられた「エリザベート」の世界観を崩さないよう努めながらも、自分の持ち味も最大限発揮し、いい意味でお客様の想像を裏切って、新しいルドルフの魅力をお届けできるように頑張りますので、楽しみにしていてください。
どんな仕事も誰かのためになる。消防を通して社会の厳しさを知りました
――以前は東京消防庁へ勤めていたそうですが、芸能界へ飛び込んだ理由を聞かせてください。
“歌うこと”が好きだからです。とにかく歌いたいという強い願いがあって、アーティストとして活躍している方々を見ては、「いいなぁ」と憧れ、羨むばかりでした。そして、こんなにも歌いたいと思っているのに、なんで僕は今、それをやっていないんだろうって……。このまま仕事を続けていたら、いつか取り返しのつかない年齢になって、「あの時、やっておけばよかった」と絶対に後悔すると思ったので、踏ん切りをつけて消防士を辞めました。
――大変な決断だったと思いますが、背中を押してくれたものは何でしたか?
自信のなさを克服するために、自己啓発本を何十冊も読んだのですが、その中の“結局、自分の人生は自分で責任をとらなければいけない”という言葉に励まされました。よくよく考えたら、僕も両親や友人に相談し、アドバイスをもらっていたけれど、実際に行動を起こすのは自分だから、何事も自分で決めなければと思った。あの頃は「夢を叶える」より、「夢のために頑張る」だけで焦燥感が解消されている気がしたんです。やりたいことがあるのに、目指していない自分がとにかくイヤだった。叶うかどうかわからないけれど、夢に向かって前進する1歩は、100歩、1000歩以上に価値があるものだと思いました。
――一度、社会へ出てよかったと感じたことや、当時の体験が今に活きていることがあれば聞かせてください。
就職する前はアルバイトの経験すらなかったのですが、初めて社会を知ったのが消防士として、というのは大きかったと思います。どの職業でも責任はあると思いますが、消防は人命に関わるものなので、普通に生活していたら経験できなかったものを現場で目の当たりにし、世の中にはいろいろな事情で苦しんでいる方がいるのだと身をもって実感し、社会の厳しさも知りました。“無知の知”というのでしょうか。自分のしたことが、誰かの役に立つかもしれないから決して仕事を疎かにしてはいけない。どんな仕事も誰かのためになるのだと感じました。
――かつて、消防の現場で人を救ってきた立石さんが、現在は俳優・アーティストとしてファンの皆さんに希望を届けている。職業は違えど、どちらもやりがいがあることですね。
少しでも皆さんに力をお届けできているのなら嬉しいです。「元気が出た」とか、単純に「笑えた」でもいいので、一表現者として何かしら与えていきたい。楽しみに待ってくださる方がいるかぎり、努力は惜しみませんし、今後も方法を模索しながらやっていきます。
座長というポジションや大作に挑戦したことが、俳優としての転機に
――芸能界へ転身した時はもちろん、俳優さんは作品ごとに新たな何かへ挑むことも多いと思うのですが、どのような心境で臨んでいますか?
初めての現場って、毎回、入学式みたいな感じで必ず緊張しますし、いつまでたっても慣れないものですが、僕は余計なことは考えず、今の自分にできる最大限のものを出すことを第一前提として臨むようにしています。緊張しない現場なんてありませんし、不安も抱えているから、そこを無理して克服しようとはしません。でも、表面上は「緊張してないですよ」というフリをしています(笑)。
――少しの背伸びも大事ですね(笑)。お話できる範囲で、これまで経験した挫折や壁について聞かせてください。
現在の仕事でいえば、お芝居が僕にとって毎回、大きな壁です。「歌でやっていきたい」と足を踏み入れた芸能界で活動の幅が広がり、ミュージカルやドラマなどでお芝居と向き合う時間も増えてきた。特に「黒執事」や「ロミオ&ジュリエット」に出演した時は、その壁に悩まされました。でも、その壁を乗り越えたからこそ、お芝居が変わったと言われますし、座長という大役や、初のグランドミュージカルに挑戦したことで、自分に足りないものも明確に見えた。きちんと向き合うことができたから、今があるのだと思います。
決断を迫られた時は、その瞬間の自分の気持ちを大切にしてほしい
――そんな立石さんが仕事をするうえで大事にしているのは、どのようなことですか?
楽しく仕事をすることです。現場にいる人、誰一人としてイヤな思いをしてほしくないですし、いい雰囲気作りをすることを大事にしながら、仕事に取り組んでいます。今日はいいパフォーマンスができたと実感できた日を思い返してみると、まわりの方が笑顔で、温かい空気だったなって。皆が楽しく過ごすことで、僕自身の気分ものってきて、プラスの方向へと導いてくれる。結果、応援してくださる皆さんに喜んでいただけるものを届けることにつながります。
――立石さんのまわりに柔らかな空気が漂っているのは、そんな意識の効果ですね。では、現在の原動力について聞かせてください。
所属していたグループ「IVVY」を昨年卒業し、一人の表現者として歩き出しましたが、応援してくださる方にもっと多くのものを届けたいのに、というもどかしさを抱えています。本音をいえば、毎日でも届けたいぐらいなんですよ。その思いこそが僕を突き動かしているのだと思います。
――立石さんと似たような思いを抱えている方も多いと思います。夢や目標のために奮闘する若い世代の皆さんへアドバイスをお願いします。
結果的に僕はまわり道をしてしまいましたが、実際、どちらでもいいと思うんです。目標に向かってまっすぐ進むもよし、まわり道をしてもよし。人生において、決断を迫られることが何度かあるかもしれませんが、「僕、私が本当にやりたいことはどっちなのか?」と常に自分へ問いかけ、向き合ってほしい。今の世の中にはさまざまな仕事があるので、例え目指した職業へ就けなかったとしても、そこに近い別の職種が見つかることだってある。その瞬間の気持ちを大切に、邁進してほしいです。
立石俊樹(たていし・としき)
1993年12月19日、秋田県生まれ。2015年デビュー。主な出演作にミュージカル『テニスの王子様』3rdシーズン(幸村精市役)、MANKAI STAGE『A3!』(茅ヶ崎至役)、ミュージカル「『黒執事』~寄宿学校の秘密~」(セバスチャン・ミカエリス役)、ミュージカル「ロミオ&ジュリエット」(ティボルト役)、音楽劇「キセキ -あの日のソビト-」(HIDE役)など。現在は「発酵男子」(テレビ神奈川)、新ドラマ「壁サー同人作家の猫屋敷くんは承認欲求をこじらせている」(ABCテレビ)に出演中。セカンド写真集「Vidoro」(東京ニュース通信社刊)が発売されたばかり。
◆Official Site:https://tateishitoshiki.net/
◆Official Twitter:@t___tateishi
◆Official Instagram:@toshiki_tateishi
編集:ぽっくんワールド企画
撮影:河井彩美
ヘアメイク:SUGANAKATA(GLEAM)
スタイリスト:MASAYA
取材・文:荒垣信子
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