女優・若月佑美インタビュー「人と比べられるのが苦しかったのが、正解のない演技の世界で道が開けました」
2022年もドラマ、映画、舞台と出演作が相次いだ若月佑美さん。コメディのセンスを見出された福田雄一監督の新作『ブラックナイトパレード』では、自己中なトラブルメーカーを演じています。真面目な性格という若月さんが、キャリアを重ねる中で培ってきたものなどを聞きました。
自分に武器がないことで悩んでいました
――デビュー前から映画やドラマはよく観ていたんですか?
父が映画好きで、週末に1週間分レンタルしていたのを一緒に観ていました。小学生の頃は学校で絶対ドラマの話をする時代でもあって。『女王の教室』や『ごくせん』とか、『野ブタ。をプロデュース』や『花男(花より男子)』のような青春ものを観ては、翌日に友だちと語っていた思い出があります。
――当時から自分が女優になりたい気持ちもありました?
観る専門でした。子どもの頃は大きな夢はなくて、勉強と放送部の活動を頑張っていました。お昼休みにかける曲や朗読する本を考えたり。
――グループ時代の舞台『16人のプリンシパル』の2回目が、女優への意欲が高まるきっかけだったとか。
大きかったです。この世界に入ったら周りの人のスペックがすごくて、私は何も武器がないと悩んでいました。そんなとき、舞台で正解のない世界に触れたんです。
それまでは勉強でも習いごとでも良い・悪いがハッキリしていて、人と比べられるのが苦しかったんです。でも、お芝居はこれもいい、あれもいいで、ダメなものがあまりなくて。もちろん、できないといけないことはありますけど、この道ならやっていけるかなと思いました。
コメディで真面目な性格を活かせて驚きました
――『16人のプリンシパル』の3回目が福田雄一監督の脚本・演出でした。
福田さんには正解がないことをより教わりました。ちゃんと形になってなくても、そのときに出たものが形を超えていたら、評価していただいたので。私は性格的に「こうでなければいけない」と正解を求めがちだったのを、壊してくださったんです。きれいにまとめることがすべてではないと。
自分は真面目すぎて、面白さに欠ける人間だと思ってましたけど、福田さんに「真面目にバカをやるから面白い。コメディでもマイナスではない」と言っていただいて、とても救われた記憶もあります。
――その後、家電量販店でたまたま福田監督に会ったのがきっかけで、舞台『スマートモテリーマン講座』に出演したんですよね。
ちょうど私が別の舞台に出ていて、フライヤーをお渡したら、福田さんの舞台に声を掛けていただきました。フライヤーは人に会ったら渡すつもりで持ち歩いていたんです。そこは真面目に生きていて良かったなと思いました(笑)。
――さらに、その舞台でヤンキーになるシーンがあって、ドラマ『今日から俺は!!』に繋がったとか。
私は「自由にやって」と言われたらリミッターを掛けてしまうタイプですけど、ヤンキーをやったときは福田さんが「全部出し切って」とおっしゃったので、振り切ってみたんです。そしたら『今日から俺は!!』でもスケバン役で起用していただきました。本当に感謝しかありません。
――若月さんのああいう役はイメージと違っていて驚きでした。
自分でも驚きました(笑)。「言われたら、どこまでもやります」というタイプでもあるので、コメディで活かせて嬉しかったです。ただ、私自身は福田さんの作品でも、あまりボケてはいないんですよね。
『今日から俺は!!』では、橋本環奈ちゃんたちがボケたところに「何をしているんですか!」とツッコむ役で、普通の人でいようとしました。周りのボケが立つように、ただストーリーを進めるポジションがいいのかなと。
わからないことは抱え込まず聞くようになりました
――福田組の作品に限らず、今まで演じた中で特に難しかった役はありますか?
これも福田さんの舞台になりますけど、『恋のヴェネチア狂騒曲』は過去にないくらい悩みました。海外の戯曲ならではの笑いやテンションがわからなかったのと、自分の役が普通になりすぎると何の印象も残らないけど、仕掛けすぎてもバランスを崩す感じだったんです。ベテランの吉田羊さんや堤真一さんたちの中に入って、受けの芝居でうまく応えられなかった反省がありました。
――今年の主演舞台『薔薇王の葬列』での両性具有のリチャード役も難しくなかったですか?
意外とそうでもなくて。悩む役は昔から得意でハマりました。リチャードは男性になりたいと悩んでいて、自分の感情と置き換えができるとスッといけました。
――若月さんも悩みがちということですか?
競争社会の中で選ばれる、選ばれないという生き方をしていたので、自己評価が低くなったり、自分に何が足りなくて前に行けないかを考えて、ネガティブになることは多かったです。
『恋のヴェネチア狂騒曲』の頃は自分の中に抱え込みがちでした。最近はわからないことは演出家さんにすぐ相談します。前は「そんなことも自分で考えられないのか」となるのが怖かったんですけど、自分の考えがすべてでないこともわかってきたので。第三者の意見を聞いて自分の考えも伝えて、一緒に答えを出すほうが早いんですよね。
ケラケラ笑うより意地悪くニヤーッと(笑)
――『ブラックナイトパレード』ではトラブルメーカーの赤井稲穂役。今や福田監督に頼りにされているようですね。
お久しぶりでしたけど、原作でも大事な役で呼んでくださったのが嬉しくて。撮影が『薔薇王の葬列』をやっていた時期で、稲穂ちゃんはあざとい系の女の子だったので、ちゃんと切り替えて現場に臨みました。
――元バイト先のコンビニの店長の佐藤二朗さんが「顔がすごくかわいい」と繰り返す役どころなのも、適任だったんでしょうね。
正直プレッシャーでしかなかったです(笑)。荷が重いと感じながら、ありがたいことなので、外見も磨こうと思いました。
――でも、稲穂はひどいことをしています(笑)。
「そこまでする?」といういたずらをしていて、相当ひどいですよね(笑)。でも、原作では裏でみんなを助けるように立ち回るところもあって。そこは映画では描かれていませんけど、自分の頭の中には入れながら演じました。
――店員が困っていたと聞いて「ジワる」と笑っていました。
「ウケる」とか「面白い」でなくて、ジメッとした意地悪さがこみ上げてくる台詞でいいですね(笑)。原作で稲穂ちゃんの表情がケラケラ笑うよりニヤーッとする感じだったのも、出したいなと思いました。
――コメディはもう得意分野ですか?
いえ、全然です。今度のNHKの夜ドラ『ワタシってサバサバしてるから』では、コメディを通り越してコントだったので、さらなる難しさがありました。
“台本通りにツッコんでます”となった途端、面白くなくなってしまう。“つい言葉が出てしまった”という方向性やりたいとのことで、台本にない台詞を言ってもいい。主役が芸人の丸山礼さんで、お笑いの世界の奥深さを感じました。でも、作りすぎずない面白さは福田さんから教えていただいていたので、耐性はあったと思います。
年齢を重ねても上を目指すことを諦めたらいけないなと
――最近でも自分で映画やドラマは観ていますか?
はい。今はもっぱら韓国ドラマで、そっちでもコメディをよく観ます。何かしながら観ていて字幕が読めてなくても、役者さんの表情や行動で笑ってしまうのは相当すごいなと、勉強しています。
――特に刺激を受けた俳優というと?
パク・ソジュンさんの絶妙な表情は、どう頑張ってもマネできません。女性だとパク・ミニョンさんはとてもおきれいで、キャリアウーマンみたいな役をやる感じなのに、コメディで振り切っていたり。自分で限界を決めないことの面白さを学ばせてもらいました。
最近だと、ファン・イニョプさんはもともとモデルで、俳優を始めるのは遅かった方ですけど、ひとつの作品をきっかけにインスタのフォロワーが20万から1500万を超えるほどになって。そういうドリームに早い遅いは関係ないんだなと。私もアラサーですけど、30代、40代になっても上を目指すことを諦めたらいけないと、勇気をもらえました
――直に言うと主役をやりたいとか?
私は自己分析をすごくするタイプで、経験上、プレッシャーや緊張に本当に弱くて(笑)。主役を支えるほうが自分らしさを出せる気がしています。そっちも難しいポジションではありますけど、頑張って目指したいです。
大きすぎる夢より小さな夢をたくさん持ちます
――目指す役者像もありますか?
遠藤憲一さんがすごくカッコイイと思っています。面白い役も怖い役も演じられて、ご本人はとても気さくな方で、振り幅も人間性も素晴らしいです。あと、「この人が出ているなら安心」と作品を観たくなるような存在になりたいです。
――そうした夢を叶えるために大事なことは何でしょう?
大きな夢を持ちすぎない、というのが持論です。「120%を目指してこそ100%になる」という考え方もありますけど、私はどちらかというと完璧主義で、完璧でない自分にしんどくなることが多いんです。何でできないんだろう、どうしてあと一歩に届かないんだろうと、悩んでしまって。
だから小さい夢をたくさん持って、ひとつずつクリアして、最後にゴールに辿り着くようにしたほうが、気持ちが途切れずにいけると思うんです。たとえば「英会話ができるようになる」だと難しくても、まず「英語を読めるようになる」とか少しずつ課題を作っていけば、実現しやすいのかなと思います。
――今の若月さんの小さい夢は何ですか?
趣味を見つけたいです(笑)。周りでコレクションをするのが好きな人がいて、それを目標にお仕事を頑張って給料が出たら買うと聞いて、羨ましいと思ったんです。私にはそういうものがないので、自分に合うものを探し始めました。来年には見つけられたらと思います。
若月佑美(わかつき ゆみ)
1994年6月27日生まれ。静岡県出身。
2011年に乃木坂46の1期生オーディションに合格。2018年に卒業。主な出演作はドラマ『今日から俺は!!』、『結婚できないにはワケがある。』、『アンラッキーガール!』、『ユーチューバーに娘はやらん!』、映画『シグナル100』、『ヲタクに恋は難しい』、『桜のような僕の恋人』、舞台『鉄コン筋クリート』、『薔薇王の葬列』など。12月23日より公開の映画『ブラックナイトパレード』、1月9日より放送のドラマ『ワタシってサバサバしてるから』(NHK)に出演。『Oggi』美容専属モデル。
OFFICIAL SITE:https://yumiwakatsuki.com/
Official Twitter:@WAKA_Y_official
OFFICIAL Instagram:@yumi_wakatsuki_official
映画『ブラックナイトパレード』
12月23日(金)より全国東宝系で公開
コンビニで3年間アルバイトをしている日野三春(吉沢亮)は、世間がクリスマスムードで盛り上がる中、黒いサンタ服を着た男に北極に連れ去られる。世界中の子どもたちにプレゼントを配る「サンタクロースハウス」で働き始めるが、この会社には秘密があって……。コンビニの元店員・赤井稲穂(若月佑美)はかわいいけど超自己中なトラブルメーカーで、同僚の店員・田中皇帝(中川太志)をピンチに陥れていた。
公式サイト:https://bnp-movie.jp/
公式Twitter:@bnp_movie
企画・編集:ぽっくんワールド企画 撮影:河野英喜 ヘア&メイク:沼田真実(ilumini.) スタイリング:蔵之下由衣 取材・文:斉藤貴志
衣装協力:AOIWANAKA(www.aoiwanaka.com)=シャツ、アームウォーマー付きニット、パンツ。CHARLES&KEITH(charleskeith.jp)=シューズ