鬼頭明里（声優／アーティスト）インタビュー「力を抜いて楽しむこと――その切り替えが出来るようになった時に変われた」

2014年より声優として活動を始め、現在は『鬼滅の刃』竈門禰󠄀豆子役、『ウマ娘プリティーダービー』セイウンスカイ役など、話題作の声優を多数担当する鬼頭明里さん。アーティストとしては、2月8日に4th Single「Dear Doze Days」をリリース。新曲の制作エピソードを中心に、声優を目指して「週5でバイトをしていた」という貴重な時期のお話や、仕事との向き合い方について伺いました。

今までの自分にはなかった可愛らしい世界観の曲――振り切って歌いました！

――新曲を受け取った時の印象から教えて下さい。

今まではロックテイストのものを歌うことが多かったので、表題曲「Dear Doze Days」は、私自身がこれまでにあまり歌ってこなかった“可愛らしい雰囲気のある曲だな”と思いました。歌詞も少女マンガのような甘くてキラキラした輝きがあって、自分の中にはなかったタイプの曲だからこそ新しい表現が出来たと思います。

――c/w「FleetingTime」もですが、今作のシングルには“幸せ要素”が詰まっているなと感じました。

両曲とも想いを寄せている人がいて、その相手をとても大切に思っていることが感じられる優しさや温かみがあると思います。「FleetingTime」は、爽やかで前向きな曲という印象があって、天気の良い日に自然の中で散歩をしながら聞きたい曲です。少しポエミーな感じもあるので、物語的な世界観も楽しんでもらえたらと思います。

――レコーディングに関してはいかがでしたか？

「Dear Doze Days」は作品の雰囲気に合うように“可愛い世界観”に振り切るように心がけました（笑）。「FleetingTime」は、良い意味でなるべく力を抜いて自然体で表現しているので、歌っていても気持ちが良かったです！

――「Dear Doze Days」のMVには物語性があり、歌詞に出てくるテディベアも登場しますね。

自然の中にあるハウススタジオを貸し切って、丸1日をかけて撮影しました。自然の中のスローライフといった雰囲気で、ロケーションとセットが可愛らしかったり、たくさんのシチュエーションがあって、どこも映える感じでしたね。

特に、部屋の中いっぱいにイルミネーションが飾ってあるセットは、幻想的でとてもキレイだったのでテンションがあがりました。テディベアは、どの場所に行ってもスタッフさんが用意してくださっていて「またいる」「ここにも!!」って（笑）。それも楽しかったです。

――アーティスト活動も4年目となりますが、歌に関して以前と変化した部分はありますか？

自分が歌いやすい環境をレコーディングで作ることが出来るようになりました。声優の時とは違って、歌入れの場合はヘッドフォンをして歌いますが、スタジオにあるものを使うと自分の耳に返ってくる音の質が固く聞こえて、それが苦手だったんです。でも、ある時ミキサーさんとの会話で、その音も調整出来ることを知りました。

最近は、ヘッドフォン自体も色々と試して、自分に合うものを見つけたのですごく歌いやすいです！ そういう発見は、回数を重ねないと分からないことだったので、音楽という活動を続けてきたからこその変化だなと感じます。

夢を叶えるためにしたバイトは歯科の補助――実務に苦手意識はなかった

――現在は、声優・アーティストと多岐に渡り活躍されていますが、夢を目指していた頃のお話も伺いたいと思います。

高校卒業前の進路を決める段階で、急に「声優を目指そう！」と決めました（笑）。親に相談したら、声優の養成所に通うのなら自分でお金を貯めて挑戦するように言われたのでバイトを始めて…。最初は1年間、お金を貯めてから上京するつもりでしたが“目指すものが決まっているなら少しでも早く始めたほうがいい”と思ったので、半年間バイトを頑張って、残りの半分は父親に借りて養成所に入りました。

――どんなバイトをされていたのでしょうか？

母親が歯科でパートの仕事をしていたので、高校生の頃は私も同じところに行っていました。高校を卒業して本格的にバイトをした時は、歯科の場所は変わりましたが同じ職種を選んで週5くらいで働きました。

――具体的にはどんな作業があるのでしょうか？

歯科医の指示にしたがって器具を用意したり、唾液をバキュームで吸い取るなどの補助、あとは受付です。個人的には、患者さんの口内や、血を見ることに対しての苦手意識はなかったので実務的な問題はなかったですし、処置内容も自然と覚えました。でも、受付が苦手でした。

――受付が苦手というのは？

私自身、電話で予約をするのがすごく苦手で、何かの予約を入れる時は母や友だちにお願いしてかけてもらっているくらいなんです（苦笑）。なので、電話がなるたびにドキドキしていました。緊急の場合は、治療中の先生のところに行って状況を説明するんですけど、物理的に難しいこともあるし、患者さんは困っているし、私も「どうしましょうね…」みたいになって辛かったですね。ただ、その後のバイトも含めて、社会経験をさせてもらえる場所だったと思います。

――その時期に、夢に向かって自分なりに何かしていたことはありますか？

歯科に置いてある漫画を、母が最新のものと入れ替える時に持って帰って来てくれていたので、２〜３週遅れの『週刊少年ジャンプ』とか『週刊少年マガジン』で音読をしていました。少しでも夢に近づきたくて何かをしていたかったんだと思います。

大変なこともあるけれど一生懸命だったからこそ、今は楽しかったと振り返れる

――上京後についても教えてください。

養成所は週に1〜2回だったので、それ以外の時間は「ラーメンが好き！」というシンプルな理由で、家の近くにあるラーメン店でバイトをしました（笑）。カウンター席だけのお店でしたが、スープは店長だけが担当をして、あとはほぼ全てをやりました。買い出しに行って野菜を切る下準備をしたり、お客さんが来たら注文を受けつつ、麺を茹でて湯切りをして。そのあとの会計も含めて、少人数での対応だったので大変でしたが半年働きました。

――夢に対しての気持ちが揺らぐことはありませんでしたか？

今思い返してみると、夢を追いかけながらバイトをしたり、試行錯誤していた時間も一生懸命だったからこそ楽しかったと感じます。夢を目指している方や、当時の自分自身には「そのままで大丈夫。大変なこともあるし悩みもするだろうけど、やりたいものを目指して頑張って！」と伝えたいですね。

人に相談する時は、「その人だったらどうするのか」を聞くようにしています

――声優としての仕事を始めた頃は、すぐに馴染めましたか？

自分で察して色々と試すことが出来るようになるまでに、1〜2年はかかったと思います。分からないことがあると、先輩のところに「◯◯な時どうしていますか？」とアドバイスをもらいに行っていました。

――「どうしたらいい？」ではなく、「どうしていますか？」と聞くんですね。

そうですね。人に興味があって「その人だったらどうするのか？」を知りたかったんです。表現の正解は人それぞれ違いますし、先輩たちの「私はこうしている」を教えてもらえることは、とても勉強になりました。

楽しむ心を忘れずに仕事と向き合っていきたいです！

――話題作にも多数出演する鬼頭さんですが、仕事が上手く行かずに落ち込むこともあるのでしょうか？

寝不足だったり疲れが溜まると心に余裕がなくなってしまうので、気をつけるようにしています。そういう時は、友だちと話すのがリフレッシュになりますね。一時期、友だちには自分の考えをラフに伝えられるのに、仕事になると自由な発想が出来なくなってしまう時期があって…。その時に“もっと力を抜いて楽しもう！”と切り替えてからは、色々と上手くいくようになりました。

――では最後に、遊び心でお願いします！　「Dear Doze Days」の歌詞には、《予想外》というワードが出てきますが、過去の予想外だったハプニングを1つ教えて下さい。

ライブのリハーサルで衣裳の早着替えをした時に、ウエストがすごくきつくて。スタイリストさんに話したら、じつは私が衣裳と裏地の間に体を入れていたことが分かって、みんなで「そりゃキツイよね」と笑いました。周りにいてくれるスタッフさんたちとの関係も大切にしながら、楽しむ心を忘れずに、これからもお仕事と向き合っていければと思います！

 

企画・編集：ぽっくんワールド企画　撮影・井野友樹　取材・文：原 千夏