女優・山田杏奈さんインタビュー 「仕事は人生を充実させるためのもの。何事も“やってやろう精神”で挑んでいます」
18世紀末、大飢饉に見舞われた東北の寒村を舞台に、村人たちから蔑まれながらも自らの意志で人生を選びとる女性の姿を描いた映画「山女」で、主人公の凛に扮した山田杏奈さん。閉鎖的な村社会や、貧しい生活を支える信仰心を浮き彫りにした作品の中で生きぬいた感想や、10代から芸能界で活躍する山田さんが普段、どのような思いをもって仕事に臨んでいるかを聞きました。
逆境にもめげない凜は、たくましく素敵な女性
――作品を拝見しましたが、持ち前の透明感を封印し、“山女”になりきった山田さんの姿がとても印象的でした。
ドロドロでしたよね(苦笑)。顔は結構黒く塗って、撮影に臨みました。凜のように1日中働いていたら日焼けはもちろん、手や指も汚れたままだろうなと。撮影期間は爪をきれいにし過ぎないことを意識し、リップクリームもほとんどぬらず、髪の毛もバサバサにして過ごしていました。衣装もそうですけど、凛を演じるうえで見た目にとても助けられました。
――凜は、父(永瀬正敏)の犯した罪をかぶったことを機に家を出て、入山が禁じられている山で“山男”と呼ばれる男性(森山未來)と運命的な出会いをしますが、役作りで意識したのはどんなことですか?
役をつくり上げる過程において、凜はこれまでどう生きてきたのだろうと考えることに長い時間をかけていました。自分だったら逃げ出したくなるような環境だけれど、まず「どうやって逃げるんだろう? 逃げた後はどこへ行くのだろう?」と考えれば考えるほど答えは見つからなくて。きっと想像を絶するような心情を抱えていたのだろうなと思います。
――凛との共通点や共感する部分はありますか?
似ているのは、まったくへこたれないところでしょうか。山へ入っていくシーンで、凜が怒りに満ちた表情をしているのが印象的だったと福永監督から言われて、その表情というのは監督の指示ではなく、完全に私の中から出たもの。自らの意志とはいえ、理不尽に暴力を奮われてしまったらめちゃめちゃイライラしたんじゃないかと。あの状況にいても「かわいそうに見えないところがいい」と監督から言っていただけたのは、きっと私の負けず嫌いな性格や、“やってやろう精神”が出たのだと思います。凜は逆境にもめげない強かさをもっていて、生命力も強い。あのたくましさは素敵だと感じました。
愛情を感じる時間を得たことが凛の変化につながった
――山の厳かな空気から得たインスピレーションもあったのではないですか?
これまで、山について深く考えたことはありませんでしたが、凛は山岳信仰をもった女性ですので、この山を見て、凛はどんなことを感じるんだろうと想像していました。劇中、山の中を裸足で歩くシーンも多く、それを繰り返しているうちに、きっと足の裏も分厚くなっていったのではないかと、実際に体験することでの気づきも積み重なって、凛の理解度がより深まった気がします。
――憤りを抱えて山へ向かった凛でしたが、山男との暮らしを経て、表情が穏やかになった気がしました。
凛の表情は、おそらく愛情をゆっくり感じる時間を得たことで変化したのだと思います。自分の髪を梳かしたり、山男の髪を梳かしてあげたりするシーンがあるんですけど、それまでの凜は自分や他人に愛情をかける時間というものが一切なかったので、山で暮らすようになって、自分を慈しむことの幸せを知ったのではないでしょうか。
――「わたしの人生は誰にも奪わせない」という作品のキャッチコピーからはどんな印象を受けましたか?
演じていた時は凜の心情だけをひたすら追っていたのですが、改めて考えてみると、人生というのはその人だけのものですから、時代が違うとはいえ、現代に通じるものもあると思いました。カッコいい言葉ですね。
――ちなみに山田さん自身の座右の銘や信条はありますか?
私は何事もあまり考えすぎず、“なんとかなる精神”で生きています。
――公開を目前に控えた現在の心境を聞かせてください。
撮影をしたのは2年ほど前ですが、約1ヶ月半の間、山形で生活しながら撮った作品は私にとってすごく大切なものになりました。当時はコロナ真っただ中で、先がまったく見えない中で撮っていたので、まだ完全には収束していないとはいえ、以前の状態に戻りつつある今、この作品をどんなふうに受けとっていただけるのかが楽しみです。
「大学はいつでも行ける」という言葉が決め手となり、女優業に専念
――山田さんは子役から芸能活動を開始しましたが、芸能界で生きていこうと本格的に決意したのは、いつ、どのようなことがきっかけでしたか?
きちんと“仕事”という自覚をもったのは高校を卒業するタイミングでしたね。もともとは普通高校へ通っていて、まわりは進学する人がほとんどだったので、当然、私も進学を視野に入れていましたが、仕事の都合で単位が足りなくて、卒業が難しくなってしまったんです。映画を1本お断りしたら卒業も可能でしたが、その選択肢が私にはなかったので、高3の夏に芸能コースのある高校の通信制へ転校しました。
――進学しないと決意した理由を聞かせてください。
お仕事の現場にいらっしゃる大人の方に「大学、どう思いますか?」といろいろ聞いてまわったところ、ある方の「大学はいつでも行けるよ」という一言が大きく響きました。私はどんな時でも自分がやりたいことを最優先で行動したいと考えていて、お芝居を学ぶには、現場で先輩方のお芝居を見ることが一番だと思ったので、仕事一本でいこうと決めました。
あとで後悔しないよう、限界までやりきることが大事
――普段、仕事をするうえで大事にしているのはどんなことですか?
作品において一つの役を任せていただくと、その役柄を世に出せる、体現できるのは自分だけになってしまうので、個人的な価値観でしかないのですが、しっかり誠意をもって、できる限りの努力をする、そして、嘘はつかないということを心がけています。
――現在の原動力は?
私は人生を充実させるために仕事をしているという感覚なので、いい意味で仕事が目標にならないようにしています。普段の生活が仕事のモチベーションになっていますし、仕事で楽しかったと感じたことやいい経験をしたと感じることが、プライベートでの活力にもつながっています。
――夢や目標に向かって奮闘する山田さんと同世代の皆さんへメッセージをお願いします。
私もまだまだ夢を追いかけている途中ですが、フルの力を出しきった、限界までやりきったと感じられることがすごく大事で、自分もそういうふうに行動できたらと思いながら臨んでいます。仕事でもプライベートでも、「もうちょっと頑張れたよな」と後で後悔するより、結果がどうであれ、「あの時の自分はやりきった」と言えるように、どんなことにもチャレンジしてほしいです。私も頑張りますので、一緒に頑張っていきましょう!
山田杏奈(やまだ・あんな)
2001年1月8日、埼玉県生まれ。2011年に芸能活動を開始。主な出演作に、映画「ミスミソウ」、「樹海村」、「ひらいて」、「彼女が好きなものは」、ドラマ「新米姉妹のふたりごはん」(テレビ東京)、「荒ぶる季節の乙女どもよ」(MBS)、「未来への10カウント」(テレビ朝日)、「新・信長広記~クラスメイトは戦国武将~」(読売テレビ)など。
◆Official Site:https://www.amuse.co.jp/artist/A8357/
◆Official Twitter:@anna0108yamada
◆Official Instagram:@anna_yamada_
■作品情報
「山女」
6月30日(金)全国順次公開
配給:アニモプロデュース
18世紀後半の東北。冷害による食糧難に苦しむ村で、人々から蔑まれながらもたくましく生きている凛(山田杏奈)。彼女の心の救いは、盗人の女神様が宿るといわれる早池峰山だった。ある日、飢えに耐えかねた凜の父親・伊兵衛(永瀬正敏)が盗みを働いてしまう。家を守るため、村人たちから責められる父をかばい、凛は自ら村を去る。決して超えてはいけないと言い伝えられる山神様の祠を超え、山の奥深くへと進む凛。狼たちから逃げる凛の前に現われたのは、伝説の存在として恐れられる“山男”(森山未來)だった。
公式サイト:https://www.yamaonna-movie.com/
公式Twitter:@yamaonna_movie
©YAMAONNA FILM COMMITTEE
編集:ぽっくんワールド企画
撮影:河井彩美
ヘアメイク:田中陽子
スタイリング:中井彩乃
取材・文:荒垣信子