女優・新内眞衣さんインタビュー 「“誰かのため”を思って行動することで、素敵な輪がどんどん広がっていく」
50周年記念特別公演「熱海殺人事件 バトルロイヤル50’s」で、“東京警視庁にその人あり”といわれた木村伝兵衛部長刑事の愛人である婦人警官・水野朋子に扮する新内眞衣さん。3年連続で同役に挑む心境や、つかこうへい氏が遺した独特の世界観の魅力を聞いたほか、OL兼任という特殊な環境下で過ごしたアイドル時代を経てたどり着いた現在、どのような思いをもって仕事に取り組んでいるかを聞きました。
つかこうへいさんの作品には普遍的な愛があふれている
――3年連続でヒロインに扮する心境を聞かせてください。
この「熱海殺人事件」に出演することが決まった時は、まさか3年も演じることになるとは想像もしていませんでしたが、いい出会いをさせていただいたなという心境です。作品が誕生して50周年の節目の年でもありますし、責任をもって舞台に立ちたいです。
――作品のファンの間では「モストインプレッシブアクトレス」と評判になっているとか。
とんでもない! 私の耳にはまったく届いていないですよ(笑)。「熱海殺人事件」に初めて出演した時はまだ乃木坂46に在籍していた頃で、メンバーがあらゆる作品に出演していたことで、ファンの皆さんがお芝居を観ることに慣れていたせいか、いろいろな感想が私の元にも届いていました。それだけ観劇した方の心に残る作品なんだなと感じていましたね。
――水野朋子という女性をどう捉えていますか?
芯がある女性ですよね。木村伝兵衛とは愛人関係にありますが、それってなりゆきなどではなく、自らその立場を選択していると私は思うんです。そして、最後は幕引きを自分で決めて去っていく。カッコいいですね。
――「熱海殺人事件」が長く愛されている理由はどんなところにあると思いますか?
50年続く作品は他にも存在しているものの、毎年公演が行われているのはこの「熱海殺人事件」だけだそうで、それだけ「演じたい」、「観たい」と思っている方が多い作品なんだなって。演じてみて感じたのは、とにかく“心”を表現することが大変だということ。大変なんだけど、壮大な愛につつまれていて、愛って普遍的なんだなと強く感銘を受ける。そんな魅力があるから50年間愛されてきたし、これから先も愛され続けるんだろうなと思います。
――「熱海殺人事件」への出演以前に、つか作品にふれたことはありましたか?
まったくなかったです。つかさんの姿は映像や写真でしか見たことはありませんが、灰皿にタバコの吸い殻がこんもりと積まれたイメージ。出演が決まった頃は「大丈夫? 私にできる?」と怯えてばかりいましたが、結果、飛び込んでみてよかったです。
――プレッシャーを乗り越えるために支えてくれたものは何でしたか?
演者さんもそうですし、スタッフさんなどまわりの皆さんの存在が大きかったです。初めて挑んだ2021年はコロナの真っ最中で、演劇作品が相次いで中止となり、観劇も憚られる時期でしたが、「熱海殺人事件」は1公演も中止せず、千穐楽まで完走することができたんです。当然、プレッシャーもありましたけど、皆さんと一緒だから頑張ることができました。
戦う相手は常に自分、ライバルの存在は考えたこともありません
――今回は「スタンダード公演」で新内さんが、「フレッシャーズ公演」では小日向ゆかさん、「エキサイト公演」では佐々木ありささんが水野役を演じることも話題です。
初めて出演した年は愛原実花さんとWキャストだったのですが、至れり尽くせりといった感じで、とても丁寧に教えていただいたんです。今回は私が一番年上で、しかも3回目なので、先輩らしく振る舞わなければと思っているのですが、お二人のほうがとてもしっかりしている印象です(苦笑)。
――トリプルキャストにおいて、他のお二方を意識することは?
取材などで「ライバルはいますか?」とよく質問を受けるのですが、私は乃木坂46時代から今に至るまで、常に自分と戦ってきたんです。私がどなたかをライバルにあげるなんておこがましいって思っちゃうんですよ。だって、ライバルっていうことは同じ位置に立っているということじゃないですか。「この子には負けたくない」って一度も考えたことがないんです。お芝居は皆で助け合ってやっていくものだから、「一緒につくり上げていく仲間」という意識のほうが強いですね。
――今年の水野朋子はどんなところに注目して観ていただきたいですか?
総合演出の河毛俊作さんが以前、「新内さんの水野はセクシーだね」とおっしゃっていて、自分では「セクシー!?」と動揺してしまいましたが、せっかくそう言っていただけたので、“セクシーな水野朋子”で頑張りたいと思います(笑)。
社会人なら当たり前にできることを芸能界では誉めてもらえた
――新内さんといえば、OL兼任アイドルとして活動していた時期もありましたが、両方を経験して感じたのはどのようなことでしょうか?
乃木坂46ではメンバーの最年長でしたが、会社では最年少だったんです。組織におけるバランス感覚を学びましたし、両方を経験できたことはよかったと思います。勤めていたのはラジオ局の系列会社で、社会人として当たり前のことを教えていただき、芸能界のこともたくさん教えていただいたので、とてもいい環境で働いていたんだなと思います。
――当時の経験が今に活きていることはありますか?
社会人だったらできて当たり前のことを、芸能界では誉めてもらえるんです。些細なことなんですけど、例えば、大勢で食事をする際に料理を取り分けるための小皿を渡したり、エレベーターの開閉ボタンを押したりしているだけで、「さすがだね」と言っていただける。ちょっとした所作や上座、下座などのビジネスマナーも勉強になりました。
――これまで対峙した壁や挫折をどんなふうに乗り越えてきたのか聞かせてください。
乃木坂46に2期生として加入した時、1期生の先輩たちがあまりにもキラキラしすぎてこれは絶対に追いつけないと衝撃を受けたんです。ここで気づいたのが「アイドルの世界に飛び込んでみたはいいけれど、私には武器が何もない」ということ。そこをきっかけに、自分だけの武器を身につけることで、過去の自分と比べて成長できるのではないかと考えました。今、自分がどんな武器を手に入れたのかわかりませんが、武器はいくつになっても増やせると思うので、いつか人生の終わりを迎える時に「私はこんなにも武器を持っていたんだ」と振り返ることができたら素敵ですね。
目標に近づく方法は人それぞれ、行動だけはし続けてほしい
――仕事をするうえで大事にしているのはどんなことですか?
「誰かのため」と思うことです。私は深夜ラジオのパーソナリティーを長く担当していて、リスナーには番組が好きで聞いてくださる方もいれば、なんとなく眠れないとか、悩みがあって眠れないという方もいたと思うんです。そんな方たちが、たまたまつけたラジオで私の声を聞いたことをきっかけに、「学校へ行けるようになりました」や「就職できました」という連絡をくださって、私はただ好きにおしゃべりしているだけだったけど、そんなふうに誰かの背中を押すきっかけになることもあるんだなと感じたので、それ以来、こちらが発信するものを受け取ってくださる方のことを考えるようになりました。
――どんな職業も発信する側と受け取る側がいて、その相互関係で成り立っていると……。
例えば、今目の前にあるこの水だってペットボトルを作ってくれる人がいなかったら、販売してくれるところがなかったら私の手元には届いていないわけですし、このテーブルだってそう。全員、誰かに生かされているんですよね。「誰かのため」と思って行動すると、素敵な輪がどんどん広がっていくんじゃないでしょうか。
――夢や目標に向かって奮闘する世代の皆さんへメッセージをお願いします。
「叶えたい夢は口に出したほうがいい」とよく言うけれど、私は人それぞれでいいと思うんです。人に話すことで可能性が広がる場合もあるし、夢に向かって黙々と努力するのも、その人しだい。諦めず、目的に向かって行動し続けてほしいです。私も強力な武器を手に入れるため、努力し続けたいと思います。
新内眞衣(しんうち・まい)
1992年1月22日、埼玉県生まれ。2013年から、乃木坂46・2期生として芸能活動を開始。翌年に大学を卒業し、一般企業に就職、OL兼任アイドルとして話題になる。2022年にグループを卒業後、ラジオパーソナリティー、モデル、女優として幅広く活動中。出演映画「尾かしら付き。」が8月18日に公開される。
◆Official Site:https://shinuchimai-maileage.com/s/n170/?ima=4535
◆Official Instagram:mai.shinuchi_official

50周年記念特別公演「熱海殺人事件 バトルロイヤル50’s」
8月4日(金)~20日(日)紀伊國屋ホール
“東京警視庁にこの人あり”と呼び声高い木村伝兵衛部長刑事(荒井敦史/池田純矢)のもとへ、集団就職で上京してきた大山金太郎(多和田任益)が、熱海の海岸で幼なじみのアイ子を殺害したという報せが入る。そこに、富山県警から東京警視庁へ熊田留吉(高橋龍輝/三浦海里)が赴任。伝兵衛は愛人でもある婦人警官の水野朋子(新内眞衣/佐々木ありさ/小日向ゆか)や熊田を巻き込み、平凡な事件を一流の事件へ仕立て上げようと画策する。
編集:ぽっくんワールド企画
撮影:河井彩美
取材・文:荒垣信子
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