アーティスト／セントチヒロ・チッチ　インタビュー「どれだけ夢を見続けて、無理だろうと思うことにも挑戦し続けられるか――それが自分自身の課題」

2023年6月に解散したBiSHのメンバーとして活躍。現在は、ソロプロジェクト「CENT」や、俳優「加藤千尋」として活動の場を広げるセントチヒロ・チッチさん。12月8日から公開される映画『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』では、“ヌードル役”として初の吹き替え声優に挑戦。制作エピソードのほか、経験を大切にするチッチさんの「夢」や「仕事」への向き合い方について伺いました。

初の吹き替え声優に挑戦「挑戦することで“自分の知らない自分に出会えること”が嬉しい」

――映画『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』に参加することが決まった時の思いから教えて下さい。

以前から、映画『チャーリーとチョコレート工場』が大好きだったので、工場長であるウォンカの“夢のはじまり”として描かれた今回の映画に声優としてたずさわれたことは幸せでした。今回の作品にも、たくさんの素敵な魔法やチョコレートが登場したり、家族愛や友だちとの絆といった純粋な愛情が描かれていて、改めて心を打たれる作品だなと思いました。

――声優としての吹き替えは初挑戦となりますが、アテレコをする前に何か準備はされたのでしょうか？

ファンタジーに生きる少女を演じられるように、大好きなティム・バートン監督の作品を色々と見て、なるべくその世界観を吸収してから吹き替えに参加しました。

――実際にヌードルの声を演じてみていかがでしたか？

話すことや声で何かを演じることはすごく楽しかったです。ただ、ヌードルはずっと明るく生きてきた少女というわけではなく「夢見ることを諦めていた孤独な少女」という役柄だったので、すごく大人びた部分があるんです。それが、ウォンカと出会って、彼の魔法を信じることで少しずつみんなを引っ張っていく力強さとか聡明さみたいな部分が表に出てくる。その繊細な変化を、ヌードルが過ごしてきたであろう人生を背負いながら表現していくという難しさはありました。

――特に大事にしたいと感じたシーンはありますか？

ヌードルが、ウォンカに少しずつ心を開いていく歌唱シーンですね。どんどんウォンカという人間に惹かれて信用していくヌードルの気持ちの変化を大切に歌うことを意識しました。

仕事を始めて「経験から分かることがある」「すべてに意味ある」と気づけた

――チッチさんご自身が、ヌードルに似ていると思う部分＆共感したところはどこでしょうか。

ヌードルは、ウォンカと出会うまでは夢を自分の中に閉じ込めて暮らしていますが、少し諦めながらも“それでも夢を持っていたい”と心の中では思っているんです。私も物事を客観視して、冷静にとらえてしまうところがあるのですが、そのなかで「どれだけ夢を見続けて、無理だろうと思うことにも挑戦し続けられるか」というのが自分の中の課題としてあるので、その部分には共感しました。ヌードルが、素敵な仲間に出会って夢を取り戻していく。それを自分と重ねて、ずっとワクワククしていました。

――挑戦することを大切にされているんですね。

そうですね。特にこのお仕事は、“自分の知らない自分に出会える”ことが多いので、どんなお仕事もすごく貴重な経験をさせてもらえる場だと思っています。たまに苦手なことがあったとしても、その1つ1つに意味がある。やってみた先で何を感じるのかを大切にしようと考えることで、気持ちが切り替えられるようになりました。

――そういった考え方は昔からですか？

今のお仕事を始めてからです。それまでは、もっと自分に甘かったし、“どうやったら自分が幸せに生きられるか”ということが中心でした。それも大事なことだとは思うんですけど、お仕事を始めて様々な音楽に出会ったり、色んな方たちの言葉に触れるなかで、「経験から分かることがある」「すべてに意味あるんだ」と気づいて、視野を広く持つことが出来るようになっていきました。

夢は1つに決めつけない――自分が興味を持てることに夢の形を変化させていけばいい

――映画の中では、様々な「叶えたい夢」が登場しますが、チッチさんの夢が叶った瞬間というと？

このお仕事をしてきた約10年のなかで、この世界を目指したきっかけになった方とお仕事が出来たり、グループとしてのメジャーデビューや、願っていた東京ドームに立てたりと、本当にたくさんの方の力を借りて叶えられた夢がいっぱいあります。これからも私は、ずっと夢を見続けたいと思っていますが、だからといって今まで叶った夢を通過点だとも思いたくないんです。1つ1つの夢が独立した大切なもので、そのうえで夢はどんどん形を変えていくものだと思っています。

――夢が形を変えるというのは？

夢を1つだけに決める必要はないと思っていて。たとえば、私は小学生の頃、アナウンサーになりたくて英語教室に通い始めたけど、大学には行きたくないと思ってアナウンサーの夢は辞めました(笑)。次は別の夢を探して芸術系の学校に通ってみたり、グループに所属するまではテレビ制作に憧れたり…。それを、「夢をあきらめた」と捉える人もいるかもしれませんが、私の中では「あきらめる」という感覚とはちょっと違って、「夢が変わった」と考えるようにしています。

目指していたことが叶わなくても“自分なんか…”と卑屈になるより、“もっと自分に合うものがあるかも！”と変換することで、ずっと夢を追いかけてきました。1つの夢だけを追いかける情熱も素敵ですが、色々な出会いがあるなかで考え方が変わることもあるし、何かを求め続ける自分でいたいなと思いますね。

相談相手から湧き出てくる言葉ってめちゃくちゃ面白いんです

――すごく前向きなパワーを感じますが、悩んだり落ち込んだ時はどうしていますか？

人に相談します。「一人で抱え込むことはしない」「一人で生きていかない」と決めていて、悩んだ時は大好きな友だちでも、その時に出会ったばかりの人でも関係なく“今、話たい！”と思った相手に話すようにしています。

――意外な回答でした。

みんなが、それぞれに自分なりの答えや思いを持っているから、ディスカッションをすることで自分にはない答えが聞けるし、相手から湧き出てくる言葉ってめちゃくちゃ面白いんです。落ち込んでいる時間がもったいないですし、その時に聞いた相談相手の言葉が指針になることもよくあります。

――話すことで、自分の中で整理されるという面もありますよね？

そうですね。家族にも小さい時から、自分が感じたことはよく話していました。母親が私に話しやすい環境を作ってくれていたことにも感謝しています！

色々な経験が自分自身を変えてくれる。その変化を逃してしまうのはもったいない

――ヌードルがウォンカとの出会いで変化したように、チッチさんの中で特に影響を受けた出会いやアドバイスがあれば教えて下さい。

よく一人で遊びに行っていたお店で知り合った70歳過ぎのお友だちがいるんですけど、まだグループにいた頃、その方に言われた「いつか自分の足で立てるように、自分のYESを探しながら生きなさい」という言葉がすごく刺さりました。今でも何かに迷った時は思い出して、その意味を考えるようにしています。

――まるで映画とかドラマの中の話みたいですね！

すごいですよね（笑）。たくさんの人に慕われていて、すごく気さくに話をしてくれる方で、すごく尊敬しています。

――チッチさんの、好奇心とか行動力には驚かされます。

色々な経験することも、人と話すことも、自分が変われるきっかけになるかもしれない。その変化を、自分が動かなかったせいで逃がすのが、もったいないんですよね。ただ、危ないと思ったところには近づかないように気をつけています（笑）。

――では最後に、映画の公開に向けてメッセージをお願いします。

声優というお仕事でたくさんの新しい経験させてもらいました。すごく多くの方に愛されている映画なので、自分の吹き替えが“どのように受け止められるのか”という不安やプレッシャーはずっと感じています。でも、もし私が吹き替えをした映画で、“また夢をみたいな”と思ってくれる方いたら嬉しいですし、この映画には夢や愛・ファンタジーがたくさん詰まっているので、ぜひ足を運んでもらえたらと思います！

企画・編集：ぽっくんワールド企画　撮影・河井彩美　取材・文：原 千夏