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2016年04月11日

声優・下野紘インタビュー。20年前に抱いた夢を叶えた自身のパーソナル・ルーツとは

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声優デビュー15周年を記念してソロシンガープロジェクトを始動、1stシングル「リアル-REAL-」を発表し、ますます注目を浴びている下野紘さん。中学3年にして「声優」という将来の夢を見つけ、他のことには目もくれず、今日まで一心不乱に突き進んできたとか。その甲斐あって、20代という若さで人気アニメの主人公役を獲得。以降は順調に声優業を務めていると思いきや、しばらくの間はバイト生活で日々しのいでいたそうです。

そんな下野さんがバイト生活で得たこと、それは「バイトは、社会人としての礎を学ぶことができる」というもの。いまのバイト生活で果たして良いのか悩んでいる人は、下野さんのバイトルーツをヒントにすれば、きっと何かを得られること間違いなし!?
 

オーディションになかなか通らず、単発バイトでしのいだ過酷な20代前半

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——今年声優生活15周年を迎え、声優業界で注目を浴びている存在とも言える下野さんですが、初期のころはバイトで生活をしのいでいた……というのは本当でしょうか?

下野 バイト生活は高校2年から約9年間続けていました。僕は中学3年のころに声優になると決めたので、本当は中学卒業後は高校に進学しないで、声優の養成学校に入ろうと思っていたんです。でも親に「せめて高校くらいはきちんと卒業しなさい」って説得されまして……。

なのでちゃんと高校には進学をして、学校では演劇部に入部して、声優業の訓練的なことをしていました。このころのバイトはいわゆる小遣い稼ぎだったので、コンビニのバイトを週に2〜3回やる程度。ここのバイトはかなり楽しんでいた面が大きかったですね。

それで、本格的にバイトを始めたのは高校を卒業してからです。いろんなバイトをしながら、なんとか生活していたような時代でしたね。

——2002年には早くもアニメ「ラーゼフォン」の主役を獲得することになった下野さんですが、それでもバイト生活は続けていたのでしょうか?

下野 デビューして運良くすぐに主役の座を獲得することができて、「これなら声優業だけで食べていける!」と自分でも思っていたんですが、その考えは正直甘かったかな。

その後のオーディションは落ちまくりで、声優の仕事なんてほんのわずか。20代後半になるまでは、バイトをしないととても生活できる状態ではありませんでした。デビューこそ早かった方ですが、20代前半はかなり苦労の毎日でしたよ。バイトが本業っていうくらい、生活費のほとんどはバイト代でまかなっていましたから。

——ちなみに20代前半のバイト生活では、どのような職種に就いていたのですか?

下野 引っ越し業、スーパーの警備員、イベント会場の警備、食品会社の製造ライン、清掃業など、体力仕事の単発バイトがほとんど。この手のバイトは日当制でシフトが組みやすく、お給料も良いので、オーディションを受けることの多い僕の生活にぴったりハマったんですよ。

ただし、どの仕事も本当に大変で、今でも当時の苦労は鮮明に覚えています。引っ越し業者では猫を15匹も飼っている家があって、家具の搬入・搬出時に猫が足元に絡んでくるんですよ。荷物を落としそうになるのをこらえたり、猫の毛が舞い上がって、メチャクチャ大変でしたね。

食品会社での作業は冷蔵庫のように冷えきった空間の中で1点を見つめながらの作業ですから、体力だけじゃなく気力までもっていかれてしまう。イベント会場なんて終日立ちっぱなしですし、もちろん暑さ寒さの気候には耐えなくてはいけなくて、終業後はヘロヘロでした。

なかでもいちばんつらかったのは清掃業。ゴミ収集所の清掃という、ちょっと特殊なバイトがあったんですが、ここの臭いが本当にキツくて苦しかった。収集所までは車で移動するんですが、帰りは全員最寄りの銭湯に寄るんですよ。自分では気づかないんですが、収集所の臭いが体全体に染みついちゃって、他の人に迷惑をかけるレベルになっちゃうんです(笑)。

本当はもっと楽に稼げるバイトもあったのかもしれませんが、自分にとって「バイト=生活」と割り切っていたので、手っ取り早く稼げる仕事しか興味がなかったんですよね。そんなバイトばっかり選んでしまったせいか、黙々と作業をしていると、ときにはネガティブな気持ちになって「声優の仕事、諦めようかな……」なんてことも何度もありました。

そんなちょっぴり暗い時代が数年続き、ようやくオーディションが受かるようになって、それでバイト生活に見切りをつけることができたんです。当時はとにかくつらいって気持ちばかりが募っていましたけど、今になって振り返ってみると貴重な体験ができて良かったのかな、と思っています。
 

単純作業のバイトはキツかったけど、将来のことを考える時間はたっぷりあった

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——声優業を目指すなら、声を出したり、人と接するバイトの方が有利だと思われますが、下野さんの選んだバイトはどれも肉体労働ばかり。それは意識してのことでしょうか?

下野 実は僕、声優という職業に憧れておきながら、人と会話するのがすごく苦手だったんです。他の声優仲間はいろんな人と接することのできる接客業を選択するケースが多いのかもしれないのですが、僕はあえて人と接することの少ないバイトを選んでいましたね。普通だったらバイトなどを通して苦手を克服するべきなんでしょうけど、当時の自分はそれが苦痛以外の何物でもなかった。

あとは、僕の性格として、ひとつの作業に没頭できる仕事が向いていたんですよね。日当制のバイトって、単独作業が多いじゃないですか。人と接することがないので、体を動かしながら頭では別のことを考えることができたりする。そんなとき、自分の将来について考えながら作業をしていました。

「今はバイトとオーディションを受ける毎日だけど、どうしたら本業だけで食べていけるんだろう」「今も十分努力してるつもりだけど、今の自分に足りないものがあるんじゃないか」。そんなことを自問自答しながら作業していたような気がします。

そういう意味では、つらい内容ではあっても、無意識のうちに自分に向いている職業を選択していたなぁと思いますね。

——過酷な状況に自分を追いこみながらのバイト生活では、楽しむ余裕なんてなかったのではないでしょうか?

下野 そんなことないですよ。やっぱり何かを達成した瞬間は嬉しかったです。どんな仕事でも喜びに変えることができるって知ったのはバイトのおかげですから。

今でも覚えているのがスーパーの駐車場内の警備員。スーパーの特売日に派遣されると、駐車場に普段の倍以上の車が入ってくるんです。そうするとトラブルも多く、お客様に注意されることもしばしば。ときには理不尽なことで責められることもあったんですが、それを穏便にすませることができたとき「自分、成長したぞ!」なんて、密かにほくそ笑んでガッツポーズをキメていましたもん(笑)。

たかだか20代前半の社会人スキルの低い自分でも、経験を積めば大人相手でも上手く対応することができる。そんな些細な自信から、自分を前向きにさせてくれたのはバイトでした。

あとは新しいバイト先に派遣されると、毎回ワクワクしていましたね。僕はちょっと飽きっぽい性格なので、同じ場所にずっといるのがあまり得意ではないんです。派遣業はその日その日の作業場所が異なるので、いつも新鮮な気持ちで現場に赴くことができるんです。声優業だけでは食べていけない当時は、ささやかな幸福にすがりながら、夢に向かって突き進んでいたのかもしれませんね。

——些細な幸せを噛み締めつつも、なかなかオーディションに受からない毎日。声優業を諦めて、バイトを本業にしてしまおうと思ったことはありませんか?

下野 正直、声優を諦めようと思ったことは何度もあります。オーディション優先の生活をしてるのに、全然受からないし、生活もちっとも楽にならない。先の見えない毎日が不安で、こんなにも苦しむくらいなら、すっぱり諦めて別の職業に就いた方がいいのかなって。両親が保育士の仕事をしていたので、一時期は保育士の資格を取るため、本格的に学ぼうか悩んだ時期もあったくらい。

それでも、「あとちょっと頑張ろう」「もう少し続ければいつかは芽が出るはず」と気持ちを切り替えていました。そういう気持ちの切り替えって、普段の生活ではなく、バイトで作業をしているときが多かったような気がします。バイトを本業にしたいと思うことはありませんでしたが、バイトが僕に勇気や希望を与えてくれていたのは事実。僕、あまのじゃくだから、追い詰めることでやる気を出すタイプなんでしょうね(笑)。
 

本業への道を歩みだし悩んだとき、思い出したのはバイト生活時代の“あの感覚”…?

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——声優業が軌道に乗り始めたのが20代後半。バイトの数が徐々に減り、本業1本で活躍されるようになってきたのがこのころですね。

下野 最初のデビューこそ早かったですけど、ようやく仕事として食べていくまでの道のりは長かった。バイト生活からようやく脱出したときは、やっと一人前の声優になれたんだな、と実感しました。

それでも、バイト生活が長かったせいか、ちょっとだけ未練もありましたけどね。もちろん、そんな気持ちもすぐに吹っ飛ぶくらい、今の仕事は充実していますし、ありがたいことに忙しい毎日を送らせてもらっています。

やりたいと願ったこともいくつか実現させているので、今はとても恵まれた環境だと思ってます。

——数々のバイト経験を積み重ね、今では声優業として活躍されていますが、バイト時代の経験で声優業に役立ったことはありますか?

下野 バイトでの経験が直接声優の仕事に結びついたことはまだありませんが、バイト時代の自分があったお陰で、良い方向に気持ちを切り替えることができたっていうエピソードはあります。

僕って、自分がこうと思ったら絶対に曲げないし、猪突猛進に突き進むタイプ。だから声優になれたってのもあるんですが、ちょっと必死すぎて、周囲からは「声優を楽しんでいない」ってよく言われてきたんです。初めての声優の仕事でもガチガチに緊張しちゃって挨拶のひとつもできなかったし、全然余裕がなかった。そんなとき、先輩の声優さんに「もっと肩の力を抜いて仕事に取り組んでみたら?」って指摘されたんです。とはいえ、具体的にどうやって力を抜けばいいのかわからなくて……。

そんなときに思い出したのが、意外なことにもバイト時代の自分だったんです。バイト先では手を抜くようなことはしていなかったけど、自分のペースで作業をすることができていたな、と。職業こそ違えど、あのときの感覚を思い出してみると、自然体で仕事をこなしていたし、自分らしさもあったような気がする。そういう意味で、バイト時代の仕事のスタンスっていうのが、行き詰まっていた声優業に幅を持たせてくれたような気がしましたね。

——一見何のつながりのない職業でも、仕事である以上は何かしらの利益をもたらす、ということでしょうか?

下野 そうかもしれませんね。正直、バイト時代は「この仕事は将来きっとなにかの役に立つはず」なんてまったく考えていませんでしたよ。何度も言うように、生活のためだけと割り切っていましたから。

それでも今になって思うと、自分の社会人としての基本や仕事のスタンス、さらには健康管理法など、すべての礎はバイトで培ったようなもの。どちらかといえば不器用なタイプの自分にとって、バイトはお金を稼ぎながら社会勉強をすることもできて、まさに理想的な環境だったんでしょうね。

極論をいえば、バイトをしていたからこそ、声優としての今の自分があるのかもしれません。
 

バイトというモラトリアム期間があったからこそ、声優という仕事の本質が見えてきた

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——では、次世代を担う声優の卵の方に、下野さんのバイト生活はオススメに値すると感じていますか?

下野 それはちょっと違うかな(笑)。バイト経験は最終的に声優業のスキルアップにつながったけれど、他の人が僕と同じバイトをしても同じような経験を積めるとは限らないし、バイトが中心の生活になってしまったら意味がないですから。

ただ、僕の20代前半って、自分の本当にやりたいことっていうのが漠然としていて、きちんとした絵を描けていなかった。声優という職業で勝負したいけれど、具体的にどんな声優になりたいのかなんて、当時はまったく考えもしなかった。でも、成功したいという焦りだけはある。そんなフラストレーションをぶつける意味で、バイトは自分にとってすごく意味を成していたとは思います。

だから、将来のビジョンがしっかり固まっている人は、僕のようなバイト生活ではなく、別の生き方があるような気がします。自分は人と接するバイトを拒否し続けてきましたが、本当は多くの人と接する職業の方が、直接的な経験値を上げることができるかもしれませんし。

僕のバイト生活は参考にならないかもしれないけれど、決して無駄ではなかったということぐらいしか言えない……かな?

——現在、下野さんは声優業というジャンルにとらわれず、アーティスト活動など、幅広い活動を行っています。これはどのような心境の変化でしょうか?

下野 20代は声優として成功することだけを考えていたので、それ以外のことは何にも考えてなかったんです。

初めて声優としてレベルアップしたいと思えるようになったのは、20代後半になったとき。声優の仕事がようやく本当の意味で好きになれた瞬間なのかもしれません。そう思ったら、自分の声で伝えられる仕事はもっと多岐に渡っていると思うようになって。

それで15周年という節目の年にソロデビューをすることになりました。これからは多くのファンの方と接する機会がぐんと増えますので、渡された台本ではなく、自らの言葉で発信するトークスキルを磨くつもりです。

バイト時代には人と接するのをなるべく避けていた自分が、ここまで社交的になるなんて正直驚きですよ。バイト時代の自分に教えてあげたいくらい(笑)。人って変わろうと思えば変われるんだなぁって、この年になって改めて実感させられていますよ。
 

変わらない核となる部分を持って、全力で進め!

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——最後に、バイト生活は下野さんにどんな影響を与えましたか?

下野 30代を過ぎると、自分の人生にある一定のレールが敷かれてしまうから、まったく違うジャンルの挑戦ってなかなか足を踏み入れることができない気がする。だけど20代はいろんな可能性が広がっているし、経験を吸収するだけの柔軟性も持ち合わせている。

長いバイト生活は、社会人としての知識や基本をまったく知らない自分にとって、多くのことを学べた時期でした。目の前に与えられたことを無駄と思わず、人生経験だと思って全力で突き進むべきなのかもしれないなと思います。

あとは、自分の夢を支えたのは、紛れもなくこのバイト生活のお陰です。お金を稼ぐことで生活の基盤をつくることができたのはもちろん、夢を叶えるためにどうすれば良いか考える時間も持つことができた。

よく、人生の諸先輩方が「苦労は買ってでもしろ」って言うじゃないですか。あれは本当ですよ! やはり人生経験は多ければ多いほど、大人になったときに自分の人生に幅を持たせることができる。バイト生活を振り返ると、改めてそのことを実感させれられました。

 
みずから過酷なバイト生活に身を投じながらも、自分らしくまっすぐに、声優業という夢を諦めずに邁進し続けた下野さん。当時を振り返り、苦労話ばかりが思い出されると語りつつも、常に笑顔を絶やすことのなかった顔が印象的でした。夢を抱いていれば、どんな苦労も良き思い出話になる……そんなメッセージが、隠されていたのかもしれませんね。

下野 紘/しもの ひろ・東京生まれ。アイムエンタープライズ所属。

『無彩限のファントム・ワールド』(一条晴彦役)、『うたの☆プリンスさまっ♪』シリーズ(来栖翔役)、『進撃の巨人』(コニー・スプリンガー役)など、数多くの人気アニメの声優として活躍中。2016年、声優デビュー15周年を記念してソロシンガープロジェクトを始動。1stシングル「リアル -REAL-」が好評発売中。

編集:共豊舎 取材・文:三輪順子 撮影:榎本壯三 ヘアメイク:SHIHO YOSHIDA