俳優・満島 真之介さんインタビュー「僕が僕として生きていくためには、自分のことを知らなきゃいけない」
世に衝撃を与え続ける松居大悟監督の最新作「君が君で君だ」で、ブラピ(ブラッド・ピット)になりきる男に扮した満島真之介さん。作品ごとに強烈な印象を残す満島さんが考えるアイデンティティとは? 読者へ向け、熱いメッセージを送ってくれました。
個々の違いを知れば知るほど面白くなっていった
――「君が君で君だ」は尾崎豊、ブラピ、坂本龍馬になりきった男たちが“姫”を10年にわたって守るという異色作ですが、池松壮亮さんや大倉孝二さんとの共演はいかがでしたか?
キャスティングの妙で、とてもバランスのいい3人だったと思います。この作品の面白さはそこなんです。それぞれが個性的。個性派俳優という意味ではなく、真逆な生き方をしてきた3人がこの業界に入り、役者という仕事をして、この作品と出合った。センセーショナルな内容ではあるけど、根底での想いは「君は本物の君なのか?」ということを描いた作品になっています。
――池松さんや大倉さんとの本格的な共演は今回が初めてだったそうですが?
僕は松居組への参加が初めてだったんですけど、池松くんは長いこと松居さんといろんな作品を作ってきています。そして、大倉さんは多くの舞台に立ち、独自の生き方を見出してる。二人と僕とは違うタイプの人間ですが、人って違いがあればあるほど惹きつけ合うんだなと感じました。自分が考えてることなんてちっぽけで、自分以外の人の考えを知れば知るほど面白くなっていく。ちょうど今、サッカーのワールドカップ開催中ですけど、世界の違いやいろんな人たちがいるんだなと感じてますし、サッカーというスポーツが違う国の人と人をつなげてくれる。映画も一緒で、作品を通して、“こういう人たちもいるんだ、こういう考え方もあるんだ”ということを知っていくことが大切なんだろうなと思うんです。
人との違いを面白いと感じられるのが分かった
――それにしても3人のやりとりがナチュラルで、生命力にあふれていました。
世の中にはキラキラしたものがあふれているけれど、カッコつけすぎな気がしているんですよ。何かを隠したいからカッコつけちゃうわけで、そこにはいつか無理が生じてくるだろうね。汗をかく時はかいたらいいし、歌いたい時は歌ったらいいし、踊りたい時は踊ればいい。でも、それがどう映るかを、やる前から考え過ぎると自分にセーブをかけることになる。たとえば、今回の撮影は実在のアパートを借りていて、その部屋で歌って踊って叫ぶシーンがあるんです。実際に大声で叫んだら、間違いなく近所から苦情がきますよね。でも、僕が演じたブラピは先頭に立っておもいっきりやるしかない。今できることを信じようと決めたんです。スクリーンの中で、ここまで本当の汗をかいてる人はいないんじゃないかな。
そんな業界チックじゃない僕みたいな人間を見て、小さい頃から映画の世界にいる池松くんは「いい刺激もらってる」と言ってくれたんですよ。嬉しかったですね。この作品で演じることによって、人との違いを面白いと感じられるということを体感できて、自分にとって大きな宝物になりました。
僕が僕として生きていくためには自分のことを知らなきゃいけない
――作品を拝見して、3人の男たちの汗と人間くささが伝わってきました。この作品に関わったことで“アイデンティティ”について考えたことは?
「僕は僕であるのか?」という疑問は常に自分の中にあります。そして、“ちゃんと自分のことを知って生きている人はどれだけいるんだろう”とも、よく考えるんです。今回の作品の中で、僕らは一人の女の子を10年間追いかけているけど、それはサブストーリーでしかなくて。今はSNSなんかもそうですが、匿名社会で、自分の意見を出しているようで、責任をもたない言葉ばかりが飛び交い、それを読んだ人が、またその言葉に流される。劇中で僕らは尾崎豊さんの曲を歌っていて “僕が僕であるために、勝ち続けなきゃならない”という歌詞があります。この言葉は尾崎さんが生きた時代より、今のほうが必要な言葉だと思うんです。だから、僕が僕として生きていくためには自分のことを知らなきゃいけないと、この作品を通して改めて強く思いました。
“自分を知ること”は難しくない
――では最後に。若い世代は、仕事選びに悩む人も多いと思うのですが、満島さんにとって仕事とはどんなものですか?
“仕事って本来何なんだろう?”と考えると、自分の生きる力を相手と共有する……、つまり個々が持っている力を持ち寄って認め合い、社会を形成していくものだと思うんです。なのに、“仕事”っていう言葉だけが独り歩きしていることも多いような気がしています。
社会に出ると、職業や肩書などいろんなステータスがあるかもしれないけど、まず自分のことを知って、大切にしてほしいです。自分を知るって、難しく考えがちだけど、とてもシンプルなことだと思う。たとえば、“自分の関節がどこまで動くのか?首がどこまでまわって、どこまで見えるのか?”って尋ねられた時に「僕はここまで見えるから、じゃあ、君は僕の見えないこっち側に立ってみて」というやりとりができることが、人との関係性のなかでとても大事なことだと僕は思っています。
自分のことを知らないと隣の人のことを知ることができない
――暮らしていくためだけの仕事になっている人も少なくないでしょうね。では、最後にメッセージをお願いいたします。
1人になるのが怖いから嘘をつく。そこに嘘で固められた仲間意識が生まれ、また、抜けられなくなっていく。その仲間とは信頼関係があるようで、ないような……。そういうことに悩んでいる方はとても多いと思うんです。“自分が自分で生きるためには何が必要なのか?”、人はひとりでは生きていけないからこそ隣にいてくれる人が必要で、自分のことを知ろうとしないと隣の人のことを知ることもできないし、人に何かを伝えることもできない。ぜひ皆さんも、まずは“簡単なこと”からでいいので、自分のことを素直に見つめてほしい。そうすれば、今まで見えてこなかった本当の自分の姿が浮き出てくると思います。
■Profile
満島真之介(みつしま しんのすけ)
1989年5月30日、沖縄県生まれの29歳。2010年、舞台「おそるべき親たち」でデビュー後、2013年「風俗行ったら人生変わったwww」(監督:飯塚健)で初主演。最近の主な出演作にテレビ朝日系連続ドラマ「BG~身辺警護人~」、NHK特集ドラマ「どこにもない国」、映画「三度目の殺人」(監督:是枝裕和)、「散歩する侵略者」(監督:黒沢清)、「花筐」(監督:大林宣彦)、「クソ野郎と美しき世界」(監督:園子温ほか)などがある。
・OFFICIAL SITE
・OFFICIAL Instagram:@mitsushimax
編集:ぽっくんワールド企画
撮影:河井彩美
取材・文:荒垣信子