俳優・松坂桃李さんインタビュー ちょっとした好奇心や興味を逃さずに、自分を色濃くしていくことが大事
映画やドラマ、舞台など多岐にわたる活躍で、俳優としてより一層の輝きを放つ松坂桃李さん。この秋はオリジナル劇場アニメーション「HELLO WORLD ハロー・ワールド」で声優にも挑戦しています。本作品で演じたナオミという青年について、そして、30代となった松坂さんに仕事観を伺いました。
20歳の頃の自分に「もうちょっと自覚を持て」と伝えたい
――「HELLO WORLD ハロー・ワールド」の物語は内気な高校生・直実の前に、未来から来たという10年後の自分である“ナオミ”が現れる場面から始まりますが、台本を読んだ時の感想から聞かせてください。
とりあえずラブストーリーであることはわかったんですが、SF的な要素もありますし、これはいったいどういう作品なんだろうという「???」が多く残りました。
――謎の多い作品ですよね。作品をご覧になって、ご自分の声の演技はいかがでしたか?
いやぁ、もう本当に、もっとうまくなりたいっ! そんな思いでいっぱいでした。
――終始落ち着いたトーンのナオミくん、素敵でしたよ。声だけのお芝居で難しかった点や苦労した点があれば教えてください。
今回はプレスコ(映像が完成する前に声を収録すること)という、背景も真っ白で、キャラクターの細かな表情や動きもない、完全に映像が出来上がっていない状態で声を入れなければならなかったので、シチュエーションごとに感情を作るのに苦労しました。
――ナオミを演じるうえで特に意識したのはどんなことですか?
物語は高校生の直実から見た10年後の自分(ナオミ)という設定だったので、同じ人間でも10年の時を経て、いろんな経験をすると口調や、ものの見方などが変わっていくという部分を意識して演じました。
――ちなみに10年前の20歳の頃の松坂さんはどんな青年でしたか?
ちょうど俳優の仕事を始めたばかりの頃で「シンケンジャー」をやっていました。まだ、俳優という仕事について何もわかっていないフワフワした状態でした。
――そんなフワフワした10年前のご自分にメッセージを送るとしたら?
「もうちょっと自覚を持て」と伝えたいです。当時は大学休学中だったということもあって、仕事をしている、主演をやらせてもらっているという自覚もなく、まだ一社会人にもなれていない状態で自立できていませんでした。
1本の映画に出演したことがきっかけで、この世界で生きていこうと決意
――それから10年が経ち、お仕事へのスタンスに変化はありましたか?
実はデビュー当時は俳優を一生やっていこうとは思っていなかったんです。そういう意味でいうと、今の仕事への向き合い方とはだいぶ違っていたと思います。
――俳優としてやっていくという覚悟をはっきりともったのはいつ頃からなんですか?
「僕たちは世界を変えることができない。」という映画に出演した2011年です。カンボジアで撮影したんですが、映画ってこういう撮り方をするんだとか、海外ってこんな感じなんだ、カンボジアってこういう国なのかって、演じることを通して世界を知ることができたんです。それをきっかけに、役者という仕事への好奇心や興味が強くなりました。
――そこから役者として生きていこうと?
役者としてやっていく覚悟が決まったというより、役者という仕事に興味をもつ入り口になった、といったほうが正しいのかもしれません。デビュー当時は役者業に専念するために、大学を休学していたんですが、いつかは大学に戻らなきゃとも考えていました。でも、その後、舞台で演出家の蜷川幸雄さんとお仕事をさせていただいたり、映画で樹木希林さんと共演させていただいたり、いろんな方との出会いによって、演じることへの好奇心がどんどんふくらんでいって、俳優という仕事で生きていこうと思えるようになったんです。
もっと修行をして声優の仕事もスキルアップしたい
――作品や人との出会いが大きかったと。ちなみに10年前の自分と10年後の自分、どちらかに会えるとしたら、どちらの自分に会ってみたいですか?
10年後の自分のほうがいいですね。これが20年以上前の自分だったら会ってみたいと思いますけど、10年前だとまだ当時の記憶がしっかり残っていますからね。
――10年後の40歳になった松坂さんはどんなふうになっているんでしょうか。
今とあまり変わってないような気がします。10年後もこの仕事を続けていると思いますし、続けていてほしい。もっといろんな作品にもチャレンジしたいし、プライベートでは結婚もしていてほしいですね。これからのテーマは「豊かさと安定」です(笑)。
――では、作品のタイトルにちなんで新たに飛び込んでみたい世界、開いてみたい扉があれば教えてください。
今回の「HELLO WORLD ハロー・ワールド」のように声の仕事をやらせていただく機会も増えてきたので、もっと研究して、そして修行をして、声優としての仕事もスキルアップしたいですね。そして、いつか子どもができたら一緒に映画館へ行って、「実はこれ、お父さんの声なんだぞ」と自慢したいです(笑)。
物事をまっさらな状態で見るため、普通の感覚を大事に
――今後の松坂さんにも期待しています。そんな松坂さんが俳優として大切にしていることを聞かせてください。
何かを見たり、聞いたり、触れたりした時に、嬉しいとか悲しい、ムカつく、不安……など、自分の感情をしっかりと確認すること。 “普通の感覚を持つこと”ですね。
――それはどういったことでしょうか。
僕らの仕事は作品ごとに、新たな別の性格をつくらなきゃいけないので、物事をまっさらな状態で見るために、そして演じた後に元の位置に戻ってくるためにも普通の感覚をもっておく必要があると思うんです。
――最後に、松坂さんがこの世界へ入ってきた頃と同年代の皆さんへ、夢を叶えるためのアドバイスをお願いします。
ちょっとした興味や好奇心みたいなものが何かを始める原動力になり得ると思うので、そこは逃さないでほしいです。その好奇心がないとまず挑戦しようとも思わないでしょうし、なにかを始めたとしても続かなかったりしますから。また、何かひとつでも、自分が面白いと感じたことには挑戦してみて、そのことを通して自分を色濃くしていくことが大事なのではないでしょうか。
松坂桃李(まつざか・とおり)
1988年10月17日、神奈川県生まれ。2009年「侍戦隊シンケンジャー」の志葉丈瑠/シンケンレッド役で俳優デビュー。主な出演作にドラマ「視覚探偵 日暮旅人」、「パーフェクトワールド」、大河ドラマ「いだてん」、映画「娼年」、「孤狼の血」、「居眠り磐音」、「新聞記者」など。
◆OFFICIAL SITE:https://www.topcoat.co.jp/artist/matsuzaka-tori/
◆OFFICIAL Twitter:@MToriofficial
編集:ぽっくんワールド企画
ヘアメイク:松田陵
スタイリング:伊藤省吾
撮影:河井彩美
取材・文:荒垣信子