【10月4日はとうがらしの日】あの人気激辛店の“まかないご飯”とは？　僕は「唐辛子の日」に辛さの向こう側を知った

世の中には、「激辛料理」に目がないという人がいる。なかにはマイ七味やマイタバスコを持ち歩くような猛者もいるという。そして、そんな需要に応えるべく、近年は激辛を売りにする飲食店も増えているようだ。そこで、ふと思った。

「激辛料理店のまかないご飯って、やっぱり辛いのかな？」

辛さを売りにする飲食店ならば、働く人も辛い物好きが集まっているのではないだろうか。そして、きっとまかないでは、えげつない辛さの料理を楽しんでいるでは？

というわけで、真相を確かめるべく10月4日「とうがらしの日」にちなみ、激辛料理店のまかないを食べに行くことにした。

 

まかないを作ることで料理の技術がスキルアップ、唐辛子の勉強にも！

はじめに訪れたのは、青山にある「旨・辛ダイニング 赤い壺」。世界の唐辛子が揃っており、辛いものフリークの間では、「激辛の聖地」として親しまれているお店だ。

入店してみると、赤唐辛子のように真っ赤なイスが並んでおり、壁には各国の唐辛子が飾られている。

そして、壁にはこんな川柳が。

「辛すぎる　そんなクレーム　おことわり」。……思わず僕は唾を飲み込んだ。食べる前から、すでに喉がひりひりしてきたぞ。

そんな恐るべき「赤い壺」のまかないご飯がこちらである。

こちらが本日のまかない「旨辛一口チキン南蛮」。一見、普通のチキン南蛮のようにも見えるが、よく見るとタルタルは赤く染まり、皿の縁には唐辛子の粉が……。かなりの辛さを秘めていそうだ。

さっそく試食……といきたいところだが、まずはいつもこのまかないを食べているスタッフの方にお話を聞いてみよう。

 

試作したまかないがお店のメニューに採用された

——ここのチキン南蛮って、やっぱり辛いんですか？

佐藤さん「そうですね、今日は取材ってことで一段と辛いような気がします。ただ、僕はこのチキン南蛮が賄いの中で一番好きなんですよね。おかげさまでどんどん太ってしまいましたよ」

——辛いものって食が進みますもんね！　佐藤さんもやっぱり辛い料理がお好きなんですか？

佐藤さん「正直、ここで働く前は得意だと自負していました。けど、働き始めたからは“俺って普通なんだな”って思わされましたね……やはり上には上がいました（笑）。僕がまかないを作るときは、みんなを満足させるためについ辛くし過ぎてしまうんですよね」

——佐藤さんもまかないを作られるんですか？

佐藤さん「はい。うちは、誰でもまかないを作ってOKなんです。だから、僕もチャーハン、パスタ、スープなど自由に作ってきましたね。やっぱり家の火加減とは違いますし、料理の練習にもなるので楽しいですよ」

——いいな、佐藤さんのオリジナルまかないを食べてみたいです。ちなみに、まかない料理がお店のメニューに採用されることもあるんですか？

佐藤さん「ありますね。実際、僕がまかないで試作したものも、おすすめメニューに追加されたことがありますよ。例えば、余った食材で作った『野菜たっぷりイカチーズチヂミ』やエビ好きのスタッフのために考案した『エビのチャプチェ』は、僕が作ったメニューですよ。それが実際にオーダーされて、『辛い！でも美味しい！』って言っていただけるのは嬉しいです」

——ここで働いていると、唐辛子にも詳しくなるんじゃないですか？

佐藤さん「唐辛子については毎日、勉強しました。正直、見た目ではわかりづらいですけど、辛さの種類がそれぞれ違います。ちなみに僕のオススメは『みまから唐辛子』。辛さがちょうど良く、糖度も高いのでよく使います。あと、日本一辛い唐辛子と言われている『辛富士』も、（分量を間違えなけえれば）美味しいですよ」

——ちなみに、こちらで働くスタッフの方って全員辛いもの好きが多いんですか？

佐藤さん「全員ではないですね。だから、まかないも毎回辛い料理ってわけではないです。夏だったらナス料理、冬だったら魚料理と、旬の食材を使ったまかないも多いですね。個人的には、店長の作る『切り干し大根』や『ひじき』がたまらなく好きです」

——そうなんですね。てっきりまかないは激辛ばかりで辛党以外は働けないのかと思っていました。

佐藤さん「ちなみに、今日のチキン南蛮は店長のオリジナル料理で、辛さは赤い壺オリジナルの七味唐辛子をタルタルソースに混ぜているそうです。店頭でも売っていますので、ぜひご自宅でもお試しください（1200円）。ちなみに市販の七味唐辛子の感覚で入れてしまうと辛すぎると思うので、ご注意を」

 

まかないによって、スタッフにはお店で働くことが楽しみになってほしい（店長）

なるほど、まかない一つにも激辛店ならではの特色があって面白い。そんなこだわりのまかないを、僕も食べさせてもらえることに。

おいしい！　特に、七味唐辛子の辛さがアクセントとなった、まろやかなタルタルソースが最高だ。これをそのままご飯にかけるだけで、何杯もおかわりできそうである。唐揚げとタルタルの相性も、言うまでもなく抜群だ。

最後に、こちらのチキン南蛮を作ってくれた店長さんが、まかないへの想いを語ってくれた。

店長さん「まかないにはこだわってますよ。味はもちろん、盛り付けも。というのも、スタッフにはここに来ることを楽しみにしてほしいんですよ。大変な仕事だけど、『今日のまかないはなんだろうな〜』って、楽しみが1つあるだけでモチベーションって違うじゃないですか」

——辛い（からい）けど辛い（つらく）ない環境作りですね！　店長の鏡ですね！　ごちそうさまでした！

※なお、10月4日〜31日の期間限定で、今回紹介した賄い「チキン南蛮」がオススメメニューに追加されるそうです。食べてみたい方は是非！！

 

まかないのおかげで自分の好きな辛さが認識できた！

続いて訪れたのは、唐辛子がトレードマークの「辛麺屋 一輪 渋谷店」。こちらは、宮崎県のご当地グルメ「辛麺」の専門店である。

唐辛子のトレードマークとは裏腹に、店内はオシャレな雰囲気。このまま待っていれば、美味しいチーズケーキでも出てきそうだが……

テーブルの一角に鎮座する極太の唐辛子。辛さに対する本気の姿勢を感じ、早くも汗ばんできた。

なお、「一輪」ではお客さんに出す辛麺と同じものをまかないとしているそうだが、スタッフの方それぞれで食べ方は異なるという。辛さの量やトッピングなど、一人ひとり流儀があるようだ。そこで、今回はアルバイトスタッフの馬島さんの食べ方を教えてもらった。

 

メニューを自由にアレンジできるまかない。何度も食べられたことで好みの辛さが見つかった

——真っ赤だ。これが馬場さん流の辛麺なんですね。

馬島さん「私は辛さが10辛、具材は軟骨、トマトソース、溶き卵、海苔、チーズをトッピングしています」

——盛りだくさんですね。10辛ってことは、けっこうな辛いもの好き？

馬島さん「好きですね。一輪では0辛が通常レベルとなっていて、唐辛子の量は一杯だけ。なので、この10辛は唐辛子の量が10倍になります。でも、思ったよりは辛くないですよ（笑）。そこから25辛まで唐辛子の量が増えていき、その上に特製ソースを使用した『マグマ』、さらにその上に『とんでもねぇ』があります。これは、本当にとんでもないです（笑）器を洗っているだけで涙やせきが止まらないんですから」

——うわあ、そいつはとんでもねえですね。ちなみに馬島さんは辛いものが好きだから、ここで働こうと思ったんですか？

馬島さん「元々友達が働いていて、よく客として通っていたんですよ。そのうち、雰囲気もオシャレですし、働きながら大好きな辛麺がまかないで食べられるのは幸せだなと思って、私も働くことにしました」

——たしかに、お金を稼ぎながら好きなものが食べられたら幸せですよね。10辛以上は挑戦しないんですか？

馬島さん「はじめに食べた5辛から段々と上げていき、20辛までは食べましたよ。ただ、辛い以上にスープが唐辛子だらけでドロドロするのが苦手でして。だから、スープをしっかりと味わえて、私に合った辛さを模索していった結果、10辛に落ち着いたんです。まかないで何度も何度も食べたおかげで、好みの辛さが見つかった感じですね」

というわけで、そんな馬島さんオススメの辛麺10辛をいただこう。

辛麺の特徴である「こんにゃく麺」は食感がよく、ヘルシー。なるほど、これはおいし……と次の瞬間、唐辛子の刺激が口中に襲い掛かってきた。すごい、さすが10辛。カレーは辛口程度を好む僕にとっては、猛烈な辛さといってもいい。しかし、それでも不思議と箸は止まらない。

続いてはスープ単体でいってみよう。とはいえ、ちょっと怖いのでチーズやトマトソースなどのトッピングと一緒にすすってみる。チーズと合わせるとマイルドな味わい、トマトソースと合わせると酸味の効いた辛さとなり、最後まで飽きずに食べられる。

さらに、馬島さんオススメの軟骨はトッロトロになるまで煮込まれており、辛いスープとも相性抜群。辛さと旨みのバランスが絶妙な一杯だった。

馬島さん「小野さん、けっこう辛いのいけるんじゃないですか？　『とんでもねぇ』で使っている液体ソースもちょっとかけてみますか？」

確かに、これまであまり得意じゃないと思い込んでいただけで、じつはいけるクチなのかもしれない。ぜひ挑戦してみます！

調子に乗って垂らしただけで舌はヒリヒリ、汗ダクダク状態に。いけるクチとか、そういうレベルじゃないやつだこれ。と、とんでもねぇ。

 

辛さを克服すると、辛さの奥の旨味がわかるように

最後のお店は“辛さは旨さ！”をコンセプトにしている「爆辛スパゲッティ専門店 青とうがらし」。こちらは激辛料理には珍しいスパゲッティの辛さをはじめ、ソースや麺を自分好みに組み合わせることができる。

店内は、お店の名前にもスパゲッティにも使われている「青唐辛子」カラーを基調とした可愛らしいデザイン。

ちなみに、「青とうがらし」でも、まかないはお店で提供しているメニューを食べているそうだ。というわけで、アルバイトスタッフの大淵さんにオススメの食べ方を聞いてみた。

 

ゆず味トッピングがお気に入り

　

——大淵さんもやっぱり辛いものが得意なんですか？

大淵さん「いえ、もともとは得意じゃなくて、むしろ苦手なジャンルでした（笑）。でも、ここでまかないを食べるようになってからは、徐々に克服していきました。今はプライベートでも辛いものを食べたりしますよ」

——克服できるものなんですね。

大淵さん「最初は『辛い』としか感じられなかったんですけど、慣れてくるとちゃんと旨味が感じられるようになってきまして（笑）。ちなみに、うちは辛さレベルが3段階あって、通常の上に辛、激辛、爆辛の順で並んでいます。私が食べられるのは辛までですね。あと、最近はお気に入りのトッピングも見つけたんですよ」

大淵さん「それがこの「ゆず七味」と「YUZUSCO（ゆず胡椒）」です。うちのペペロンチーノは和風ベースの味付けになっているので、ゆずの酸味と風味が相性バッチリなんです。『ゆず七味』はジワジワとした辛さがあり、『YUZUSCO』はピリッとした辛さが特徴です。最初からでも良いですし、半分食べたら入れてみるのもオススメですよ」

というわけで、大淵さんのまかないをオススメのトッピングとともにいただこう。

青とうペペロンチーノは辛さが先行する感じはなく、それよりもモチモチ食感の麺や和風テイストの味付けがクセになる。また、自社栽培しているという「青唐辛子」は赤唐辛子とはまた違った、さわやかな辛さが感じられた。言わずもがな、めっちゃ美味しい。

さらに、トッピングには大淵さんのオススメのゆず七味を。単に辛さが増すだけでなく、柚子の酸味と赤唐辛子の刺激がさらにペペロンチーノの美味しさを引き出してくれた。さらに、辛みによってベーコンやマッシュルームなどの具材の甘みが引き立てられ、ぐっと奥行のある味に。このトッピング、いい仕事してるなー。

ただ調子に乗ってかけすぎると、そこはやはり唐辛子。汗腺がぶっこわれてしまうのでご注意を。僕も辛さに強くなりたい！

※なお、10月4日、5日の2日間限定で、今回紹介した「青とうペペロンチーノ」を含む全メニューが300円(税込)で食べれるそうです。食べてみたい方は是非！！

 

まとめ

というわけで、激辛料理店のまかないを食べ歩いてみた。どれも辛いだけでなく、料理としてしっかりと美味しいものばかり。失礼ながら、激辛の店って味より刺激を追求しているようなイメージがあったのだが、どこも料理がちゃんとおいしくなる唐辛子の使い方を心得ていた。また、激辛料理店で働くことで、料理のスキルアップや味覚の幅を広げるなどのメリットが多いこともわかった。辛さと美味しさの神髄を知りたい人は、激辛料理店で働いてみるのもいいかもしれない。きっと、ウマ辛なまかないを通じて『辛さの向こう側』を知ることができるだろう。

文・取材／小野洋平（やじろべえ）
撮影／吉田一之