サーヤさん(ラランド)に聞く、大学生のうちに読むとタメになる【この3冊】
大学生やこの春から大学に入学する人のなかには、新しい知識や視野を広げたい、または趣味を見つけたいなどの理由で読書の時間を増やしたいと思っている人もいるでしょう。そこで、今回は、お笑い“第七世代”の男女コンビ・ラランドとして活躍し、読書好きという一面もあるサーヤさんに“大学時代に読むとタメになるオススメの3冊”について伺いました。
自分の中の表現方法が足りないと感じた時は意識して本を読みます
——普段はどんなジャンルの本をよく読まれるのでしょうか?
特にジャンルは決めていませんが、作家でいうと西加奈子さん、綿矢りささんが好きです。他にも、詩集や、ビジネス書、広告やクリエイティブ関係の本も読みますが、課題のための文献も含めると大学生の頃が一番多く本を読んでいたと思います。
——自発的に“本を読みたい”と思うのは、どんな時が多いですか?
アウトプットをする時や、自分の中の言葉や、表現方法が足りないと感じた時は意識して読むことが多いです。特に、ネタを書く前は、他の芸人さんのネタを見たり、読書からも刺激を受けるようにしています。電子書籍よりも形のある本が好きで、気になるものを見つけるとつい買ってしまうので、今はまだ手をつけられていない本がたくさん家に置いてあります(笑)。
ビジネス書から学んだのは、自分を客観視して相手との関係性を築くこと
——では、これまでにサーヤさんが影響を受けた本の中でも、大学生のうちに読んでおくとタメになりそうな3冊を教えてください!
1冊目は、佐藤尚之さんの『ファンベース』です。ファンを大切にして長期的に売り上げや価値観をあげていくというビジネス書なのですが、数字ばかりを追った難しい内容ではなく、自分自身を客観的に見て表現をする方法や、人との関わり方などが分かりやすく書かれています。
——具体的には、どういった点に共感したのでしょうか?
ラランドとしても、“どうしたらたくさんの人を魅了してファンを増やしていけるだろう”と考えていた時期でしたし、広告代理店で働いていた私にとって「世の中には色々なPR活動や方法があるけれど、そういったものに頼る前に、まずは自分自身を客観的に見て表現方法を学ぶこと。そして好きになってくれたコアなファンを大切にすることが大事だ」という発想は、すごく新鮮でした。自分を知ることで、表現方法を見つけるという意味では就職活動にも役立つと思います。
——言い換えると、ファンだけでなく“この人のためなら力になりたい”と思ってくれる人を増やしていくことが強みになると。
そうですね。嫌いな相手のために頑張ろうと思う人はいないですからね(笑)。相手の気持ちを動かすためには、まず自分から相手を好きになることが大切だということもすごく共感できました。大学時代も、ゼミやバイトで友人以外の人と接する機会は多いですし、社会に出ると、より大勢の方と一緒に仕事をしていくことになるので、人間関係を築くうえでも重要なことだと思います。
——ちなみに、この本を知ったきっかけも教えてもらえますか?
私が好きなラッパーのdodoくんがインタビューで「この本を読んで考え方が変わった」と話していたんです。私と同じく、会社に勤めながら音楽をされている方なので興味が湧きました。読んでみたらすごくしっくりきたので、もし書店に行って何を選んでいいのかが分からないと思うのであれば、自分の好きな人や、感性が近いと感じる人が読んでいる本を試してみるのもアリだと思います!
小説の中の主人公と気持ちを重ねることで“不安なのは自分だけじゃない”と安心できた
——2冊目は、西加奈子さんの小説『円卓』を挙げていただきました。
『円卓』は西加奈子さんの小説の中でも一番好きな作品です。小学3年生の女の子が主人公なのですが、自我が目覚める時期の心情がリアルに描かれています。登場人物のキャラクターも濃くて、特に物語の始まりが好きなんです。
——少しだけ触りを教えてもらえますか?
眼帯をしてきた子の周りにクラスメイトが集まってワイワイしている光景を見た主人公の女の子が“自分も、ものもらいになりたい!”と思うという始まりでした。文章を読んで、自意識が芽生えだした頃の気持ちがあまりにくっきりと描かれていることに衝撃を受けたんです。
人の病気を見て“同じ病気にかかりたい”と感じる人はなかなかいないと思いますが(笑)、そういう大人になる過程でなんとなく薄れていく、他人と比べてしまう気持ちとか、そこで感じる嫉妬心などが浮き彫りになっているところに惹かれました。
——大人になると、嫉妬心などを口にする機会も減りますよね。
この主人公のように、子どもだからこそ敏感に感じる思いとか素直さは今でも大事にしたいなと思います。実際に仕事で色々な方とお会いしても「なんで?」とか「いいな」とか、思ったことをちゃんと口に出す人に魅力的に感じることが多いです。
——本を読むことが、忘れていってしまう感覚を思い出すきっかけになっていると。
追体験が出来るのは大きな魅力だと思います。ちなみにもう1冊、社会人になってから読んだ西加奈子さんの小説『白いしるし』も、すごく好きな作品です。こっちは大人の恋愛で、取り返しがつかないくらい相手を好きになっていく女性のお話なのですが、読み手の年代によっても共感する部分が変わっていくのが面白いなと思います。
——読む人の状況によっても感じ方が変わっていきますね。
そうですね。特に西加奈子さんの本は、小さい頃から大人になった今でも、小説によって自分に置き換えられる部分がとてもたくさんあります。大学時代は未来への不安や、自分自身のことについてまだまだ悩むことが多い時期だし、大人になる成長過程だと思うんです。私の場合はこの2冊をあげましたが、それぞれに共感できる本を見つけてもらえたらと思います。特に、なかなか人には話さないような葛藤や、恥ずかしくなるような思いを持っているのは自分だけじゃないと感じられることは大きな安心材料になると思います。
詩が教えてくれたのは、“原因を他人のせいにしてはいけない”ということ
——3冊目は詩集ですか?
茨城のり子さんの詩集『わたしが一番きれいだったとき』に収録されている、『自分の感受性ぐらい』という詩が好きで、学生時代に学校の教科書で読んだ時から印象に残っていました。心の乾きや、苛立ちなど、自分のダメな部分を“人のせいにするな”ということが綴られています。特に最後に《ばかものよ》と締めくくられる部分には、毎回ハッとさせられます。
——嫌なことがあると、どうしても何か(誰か)のせいにしがちですよね。
この詩を読んでからは、自分の機嫌がとれないのは自分のせいだと気づけて、普段からイライラしない柔軟性を持つことを心がけるようになりました。大学時代は義務教育とは環境も大きく変わり、人付き合いや、勉強の仕方、進む道など自分自身で何かを選ぶ機会が増えてくる時期だと思うので、何かのせいにしないように心がける意味でも役に立つと思います。
——特に人付き合いも、義務教育の頃とは随分変わりそうですね。
相手にばかり何かを望んで自分が嫌な態度をとっていても何も変わらないので、大人に近づく意味でも、自分自身を知ることで、どういう行動をとるべきなのかといった解決策を見つけるきっかけになればと思います。私自身も、仕事を始めた今でも上手くいかない時はこの詩を見直すようにしています。
本を読んだ分だけ、好きな言葉や言い回しと出会える機会が増える!
——手にした本は、必ず最後まで読み切りますか?
読み始めてから違うなと感じる場合もあるので、私の場合は、だいたい一段落まで目を通して、その先を読むかどうか決めることが多いです(笑)。それと、相方のニシダが年間100冊以上の本を読んでいるので、「後半に物語が動くからもう少し読んで」とか、「そこまで読み進めて面白いと感じないなら…」など、アドバイスをもらうこともあります。
——無理に最後まで読まなくてもいいと。
そうですね。作品の良し悪しとは違うところで、好みや相性はありますし、一度やめても読みたくなったらまた手に取ればいいので、“読まなきゃ”と気負う必要はないと思います。
——ニシダさんとも本に関する話はされるのでしょうか?
たまにしますね。最近は「内容を知りたい時は、映画で観たほうが確実にコスパはいいのに、それでも結局本も読んでしまう」という話をしました(笑)。
——では、最後に改めて読書の魅力を教えてもらえますか?
知識量が増えますし、自分の中の“言葉の数”が増えるのはすごく良いことだと思います。たとえば、人を傷つけないために別の言葉に言い変えようと思った時に、多くの言葉を知っていれば、相手に与える印象も全然変わると思うので。
それと、私が伝える仕事をしているということもありますが、面白い言葉や言い回しに出会うと嬉しくなります。色々なコンテンツの中でも、読書は言葉を敏感に読み取れる場だと思うし、本を読んだ分だけ素敵な表現に出会える確率は高くなると思っています。大学時代は比較的、時間をとりやすい時期だと思うので、本を読むことで自分自身のことや、これからの生き方など、色々な発見をしてもらえればと思います。
サーヤ(ラランド)
1995年12月13日(25歳)。東京都八王子市出身(北野区) / 上智大学外国語学科卒業。2014年に上智大学のお笑いサークルで結成された漫才コンビ・ラランド。『M-1グランプリ2019』で準決勝進出し2020年の『新春おもしろ荘』への出演をきっかけにSNSのフォロワー数が急増。サーヤがボケ、ニシダがツッコミを担当。今年3月に個人事務所『レモンジャム』を設立。
◆ラランド OFFCIAL SITE:https://www.lalande.jp/
◆サーヤ Official Twitter:@sa___yaah
企画・編集:ぽっくんワールド企画 撮影・河井彩美 取材・文:原 千夏