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2016年04月12日

乖離(かいり)と融合の心理学? 人を成長させる「サブ垢」とは│名越康文

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2015年の電通総研の調べによると、大学生はひとりあたり平均5.0個のキャラを使い分け、Twitterアカウント所持数は2.5個。「裏アカ」「サブ垢」として複数のキャラを使い分けることについて、テレビでおなじみの精神科医・名越康文先生(@nakoshiyasufumi)に意見を聞いてみました。

自分のなかのさまざまな人格が混ざり合うことで成熟していくもの

自分の中にさまざまな人格(キャラ)を住まわせる。そのこと自体は人間的成長という点で、決して悪いことではないと僕は思います。小説家や脚本家といった人たちは、おそらく自分の中にいくつもの人格を生き生きと住まわせることができる人たちでしょう。そういう意味では、「1人あたり5人」というのもそれほど驚くべき数字ではないと思います。

ただ、SNS上で別人格を立ち上げるときに気をつけたいことは、それらのひとつひとつがきれいに乖離したまま、並存してしまいがちである、ということです。『ドラゴンボール』でいえば、自分の中に孫悟空とベジータの人格があったとする。SNS上では、孫悟空はいつまで経っても孫悟空で、ベジータはいつまで経ってもベジータのままなのです。

でも本来、自分の中にあるさまざまな人格というのは、ついたり、離れたり、融合したり、ということを繰り返して初めて、人間的成熟につながっていくんだと思うんですね。それは、『ドラゴンボール』の中で悟空とベジータが合体して「ベジット」に変身するようなものです。

しかし、SNS上で別人格を使い分けている「だけ」だと、なかなかそういうことが起きない。よく「捨て垢」(使い捨てを前提としたアカウント)という言い方をしますが、せっかく立ち上げたキャラクターを、他のキャラクターと交わらせることなくそれぞれを並列させたまま使い捨てる、ということが当たり前のように行われている。

この「自分の中にあるキャラを互いに交流させず、使い捨てる」というありようは、今の日本の社会が抱えている問題に、奇妙なほどシンクロしているように僕は感じます。理系と文系、ビジネスとアート、宗教と科学……いまの私たちの社会に起きている問題の背景には、さまざまな分野で専門分化が進みすぎて、それぞれが互いに交わろうとしないことによって起きています。

キャラを使い分けたら、次は「融合」を

Identically adult male twins pointing to each other in studio

人間というのは誰でも、自分自身では想像もつかないような爆発力や、得も言われぬ魅力を秘めています。しかしそういう「力」というのは、その人がひとつのキャラ、ひとつの得意分野に固執しているうちは、決して発露することはありません。ちょっと抽象的な表現になってしまい申し訳ないのですが、本人の想像を超えた力というのは、「異なるもの」が融合することによって初めて表に現れてくるものなんです。

もう少し日常的な言い方をすれば、人生というのは「寄り道」にこそ価値がある、ということです。いつも動物の生態を観察していた生物学者が、たまたま立ち寄った美術館でフェルメールを見た(魅了された)ことによって、それまでにない発想をひらめく、ということがある。これは単に「AとBを融合させればCが生まれる」という単純な話ではありません。「まったく新しい何か」というのは、たくさんの要素が多層的に重なりあわさったときに生まれる、ということなんです。

SNS上でさまざまな人格を使い分けるというのは、一言で言えば「乖離」です。一つひとつの人格を乖離させ、それぞれを大切に温めていく時期というのは、それはそれであってもいいと思います。でも、本当の意味で新しい何かが生まれるのは、乖離した人格が多層的に融合するときなんです。

ネガティブなキャラクターでも何かを生み出すきっかけになり得る

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少し、僕自身のお話もしておきましょう。こうしてお話している「私」とか「名越康文」というのは、ひとつのキャラクターに過ぎません。そして僕の中には、さまざまな「キャラクター」が棲んでいます。例えば僕には以前から温めている物語があるのですが、そこに登場するキャラクターたちが、僕の中に棲んでいる。そして絶えず、「名越康文」と会話し、談笑したり、ときに言い争いをしたりしている。

こういうことって「捨て垢」と位置づけられた、インターネット上で暴言を撒き散らすためだけに作ったキャラクターには、普通起きないと思うんです。それがもったいないな、と僕は思います。仮に「暴言を吐くために作ったキャラクター」であっても、そのキャラクターには、あなたにとって何かしらの意味があるはずです。ただ暴言を撒き散らすだけに見えても、そこには磨けば光る、ダイヤモンドが潜んでいるかもしれない。僕はそう思うんです。

一度、「捨て垢」にしているキャラクターを、自分の中に棲んでいる主要なキャラクターと対話させてみてください。それはひねくれて、辛辣で、どうしようもない人格かもしれないけれど、いったん対話をさせてみると思いのほか、普段の自分からは到底達し得ないような視点が生まれてくるかもしれない。というのも、クリエイティビティというのは、しばしば自分の中に棲んでいる「暗いやつ」が生み出してくるものだからです。

ぜひ「捨て垢」との対話を楽しんで見てください。自分の中のネガティブキャラとの対話は、しばしば「再生」の転換点となるのです。


※この記事は公式メルマガ「生きるための対話」よりお届けします。

企画:プレタポルテby夜間飛行

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精神科医・名越康文名越康文(なこしやすふみ)
1960年、奈良県生まれ。精神科医。臨床に携わる一方で、テレビ・ラジオでコメンテーター、映画評論、漫画分析など様々な分野で活躍中。著書に『毎日トクしている人の秘密』(PHP、2012)、『自分を支える心の技法 対人関係を変える9つのレッスン』(医学書院、2012)、『驚く力 さえない毎日から抜け出す64のヒント』(夜間飛行、2013)などがある。