人見知りの原因と克服方法とは?│名越康文
心地よい一体感から抜け出ることが克服への第一歩
発達心理学的には「人見知り」は、いわゆる「物心がつく」2-3歳の頃から始まります。生まれてからしばらく続く母親との幸福な一体感。そこに介入しようとする異物(父親や他人)への拒否反応が、「人見知り」の根っこにある感情です。
もちろん、成長とともに、人は母親だけでなく、父親や兄弟、あるいは友人や恋人に対しても一体感を感じるようになります。しかしその都度、「それ以外」の対象に対して拒否反応が起きる。一般的にはこれを「人見知り」と呼んでいるのではないかと思います。
言い換えれば「人見知りを克服する」というのは、人間の本能に反したことだと言うこともできるでしょう。人間にとっての「快」は基本的に、「慣れ親しんだ環境への一体感」のほうにあります。人見知りを克服するには、わざわざ幸福な一体感を捨て、「不快」の方向へ舵を切ることが必要です。ですから理論的には、人見知りを克服するには、「母親との一体感を捨てるほどの利益」を、自分自身が納得する必要があります。
この場合、「利益」といっても、別に金銭的なものや食欲などの本能的な欲求を満たすことだけではありません。例えば「一歩を踏み出すことができた勇気」というのも、十分に利益となりえます。それまで這い這いしかできなかった赤ん坊が二本の足で歩く喜びを覚えたら、もう這い這いに戻ることはありません。それは、どれほど二本足で歩くのが大変だったとしても、二本足で歩くことの「誇らしさ」のもたらす精神的利益のほうがおそらく圧倒的に大きいからです。
人見知りも同じです。慣れ親しんだ環境の中に居続ける一体感よりも、外の世界に触れることのほうが誇らしくて、自分に自信が持てる。そういうふうに思えれば、だんだんと人見知りを克服できるようになるのです。
「他人に受け入れられた経験」を積み重ねる
ただし、物事には段階というものがあります。自分でも人見知りがひどい、初めての場所に行くのがどうしても億劫だという人は、一歩を踏み出す前にある程度の「準備」が必要であることもまた事実です。
「自分が笑顔を浮かべれば、きっと相手も笑顔を浮かべてくれるはずだ」というのは、実は根拠のない信仰ですが、その信仰がなければ、僕らはなかなか、自分のことを誰も知らない場所に足を踏み入れることできません。
じゃあその無条件の信仰はどうやったら生まれるのか。これは、一朝一夕にはいきません。例えば学校で先生から褒められた。クラブ活動で活躍し、チームの一員として認められた。そういう「他人から歓待された経験」の積み重ねが、一歩を踏み出す勇気を作っていきます。逆に言えば、こうした経験が少ないと、現実問題としてどうしても「新しい場所」に足を踏み入れることに、躊躇してしまいがちになるわけですね。
もし、自分の中にそうした「温かく受け入れられた経験」が少ないと感じるのであれば、今からでも遅くありません。少しずつ、自信を積み上げていってください。例えば普段顔を合わせている相手であっても、必ず自分から頭を下げ、微笑みかけて挨拶をする。
相手が挨拶をしてくれるのを待っているうちは、いつまで経っても自信がつきません。自分から挨拶をして、相手から返事が返ってくる。その積み重ねが、あなたの中に「初めての場所に行ってもきっと歓待されるはずだ」という自信につながるのです。
人見知りは、自分の役割が明確になっていると克服しやすい
高校生や大学生、あるいは新社会人たちといった世代の人たちで人見知りに苦しんでいる人の場合であれば、なるべく「自分の役割が明確になるような場所」に参加する、というのが人見知りを克服するひとつの方法です。フラットなサークルよりは、「先生と生徒」という役割がはっきりとわかれた教室のほうが、人見知り克服のトレーニングには向いています。
これは日本人にとっては非常に重要なポイントで、僕らは「役割」を与えられることによって初めて力を発揮することができるという文化の中を生きているからです。例えば、普段はしどろもどろでしか話せない人でも、結婚式で「司会をやってください」と振られた途端、けっこう大胆に話すことができる。役割によって、私たちの心の枷は外れるのです。
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名越康文(なこしやすふみ)
1960年、奈良県生まれ。精神科医。臨床に携わる一方で、テレビ・ラジオでコメンテーター、映画評論、漫画分析など様々な分野で活躍中。著書に『毎日トクしている人の秘密』(PHP、2012)、『自分を支える心の技法 対人関係を変える9つのレッスン』(医学書院、2012)、『Solo Time 「ひとりぼっち」こそが最強の生存戦略である』(夜間飛行、2017)などがある。 2019年より会員制ネットTV「シークレットトーク」を配信中。