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2019年03月12日

【コラム】“きまずい場”の空気の変え方(名越康文)

名越康文 夜間飛行 プレタポルテ 空気 変える タウンワークマガジン コラム

前回のコラムでは、些細なことでついカッとしてしまったときの対処法について紹介しました。今回はその続きとして、「やり返したい」と思ってしまったとき、その場の空気を変えることで事態を収める方法について、精神科医・名越康文先生(@nakoshiyasufumi)に答えていただきました。

<前回のコラムはこちら

場の空気を変える

何か気にくわないことをされて、「なんだこいつは!」とやり返したい気持ちになった時には、「その場を離れる」という対策があるよ、ということを、前回お話しました。

これはいわば、心理学的には基本の対応と言ってもいいものです。でも、実際には、「その場を離れる」ことが難しい場面というのは、少なくありません。対人関係がこじれている相手が家族や同僚の場合は、自宅や職場・バイト先などから離れなければいけないわけですが、こうした場所からは、せっかく離れる、いったんその場を離れたとしても、すぐに戻ってこなくてはいけない場所というのは多いと思います。

もちろん、短時間でも「その場を離れる」というのは有効です。なぜなら、ほんの1~2分であっても、その場を離れることによって、相手の反応はもちろん、自分の感情の動きも変わるからです。

ただ、長期的に見て、何度も繰り返し、同じような対人関係トラブルが起きてしまうのであれば「その場を離れる」というだけではなく、もう少し主体的に「場の空気を変える」ことに取り組んでみてもいいでしょう。

「場の空気を変える」と言っても、別に難しい話ではありません。家具の配置を変えたり、掃除をしたり、絵を飾ったり、観葉植物を置いたりと、物理的に環境を変えることは、場の空気を変える一つの方法です。たったそれだけのことでも、その場で過ごす人の人間関係的な問題が改善していくというのは、思いの外、よく起こることです。

具体的にどのような家具の配置や、何を置くのが良いかは、僕の専門ではありませんので、ここでは深入りしないことにします。

人が変わると場も変わる

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さて、「場を変える」方法は、物理的に環境を変えることだけではありません。
その場にいる人が、どのように過ごしているかで、場の空気は変わってきます。

どういうことか。一つ、僕の経験をお話ししましょう。

僕がまだ学生だった頃、僕の精神科とアドラー心理学の師匠である野田俊作先生の職場の書斎によく通っていました。野田先生は書斎の奥にあるパソコンの前で作業をされていて、その手前にある6人がけの机で、僕はよく勉強をさせていただいていました。

なぜそこに通っていたかというと、尊敬する先生の近くにいたいから、ということももちろんあったのですが、その書斎で勉強をしていると、なぜだか、すごく集中できたからです。気がつくと、何時間も没頭して、テキストを読んでいた、ということがよくありました。

あるとき先生に、「この部屋にいると、なぜだか勉強に集中できるんです」と言いました。すると先生は、「そりゃそうだよ。ここは、長年私が耕してきた場所なんだから」とおっしゃったんです。
この言葉は、とても印象的でした。当時の僕には「場を耕す」という言葉の真意はよくわかっていませんでしたが、今思うと、思い当たることがあります。先生がその書斎で過ごされてきた時間の積み重ねによって、場の空気が澱みなく、勉強に打ち込みやすい清涼なものになっていたんじゃないかと思うんです。

例えばみなさんも、毎日、自分の部屋で瞑想をしたり、お経を唱えるということを100日でも続けてみてください。自分自身の変化もさることながら、必ずその場の空気が少し爽やかで、明るく変わっていることに気づかれると思います。瞑想までいかなくても、その場にいる人が笑顔で、明るい気持ちで過ごすように心がけているだけでも、場の空気は少しずつ変わってきます。その場にいる人の行いや心の持ち方によって、場の空気というのは、変わるんです。

場を離れるか、場の空気を変えるか

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長年、人間関係が悪い職場や家庭では、残念ながら場の空気が澱んでしまっています。では、一度澱んでしまった場の空気を、再び爽やかに、明るく変えていくことはできるのでしょうか?

結論から言えば、可能です。毎日掃除をしたり、一人一人が行動や心の持ちようを変えていく。それだけでも、だんだんと場の空気は変わってくる。ただ、それには時間がかかります。

ですから、家族や職場の同僚との人間関係の中で、いつも口論になったり、険悪な雰囲気になるということがあった場合、場の空気を変えていくのか、それとも家を出て独立する、転職するといった「場を離れる」という選択肢をとるのか、ということは判断が難しいところです。

ひとつの判断基準は、関係性が悪くなっていることについて「自分に非がある」と感じているか、「相手に非がある」と感じているか、ということです。口論の最中では冷静な判断はできませんが、たとえば同居している母親の一言に、ついカッとなってしまった。部屋に戻って、冷静になってみると、「ああ、そんなにたいしたこと言われたわけじゃないのに、つい余計なことを言っちゃったな」とか「私が勘違いしていたかもしれない」という思いが出てきたら、まだその場に残って、場を変えていく努力をする余地があるでしょう。

部屋の掃除をして、模様替えをする。そして毎日、その部屋で瞑想し、できるだけ明るく、爽やかに振る舞うようにする。そうやって場を「耕す」ということを継続しているうちに、だんだんと家族との関係性も変わってくるかもしれない。

一方で、どう考えても相手が悪い、としか思えないときはどうでしょうか。常に職場の上司から、理不尽な言葉の暴力を受け続けている。どれだけ穏やかに話していても、父親と口論が絶えない。そういう状態が数か月以上続いているのであれば、「場を離れる」こと、すなわち「旅立つ」ことを考える時期かもしれません。

家族との関係が問題である場合は、実家を出て、一人暮らしを始める。職場の人間関係であれば、転職する、といったことを考える。そういうことが必要になるケースもあります。

親子関係の改善策は実家を出ること

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「場の空気」は、ある程度までは自分の努力で変えることができます。でも、それが、変えられないときには「場を離れる」「旅立つ」という手段があるということを、頭に入れておいてほしいと思います。

特に、同居している親との間にトラブルを抱えている人の場合は、結局のところ家を出て、両親のもとを一度は離れないと、解決しないケースも少なくありません。

「経済的に難しい」とか、「親の面倒をみないといけない」など、実家を出ない理由はいろいろ見つかるかもしれません。ただ、そういう理由をひとつずつ分析していくと、案外、他ならぬ本人が、一人暮らしをすることを不安に思っていることが根元にあった、ということも少なくありません。

 
※この記事は公式メルマガ「生きるための対話」よりお届けします。

企画:プレタポルテby夜間飛行

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精神科医・名越康文名越康文(なこしやすふみ)
1960年、奈良県生まれ。精神科医。臨床に携わる一方で、テレビ・ラジオでコメンテーター、映画評論、漫画分析など様々な分野で活躍中。著書に『毎日トクしている人の秘密』(PHP、2012)、『自分を支える心の技法 対人関係を変える9つのレッスン』(医学書院、2012)、『Solo Time 「ひとりぼっち」こそが最強の生存戦略である』(夜間飛行、2017)などがある。 2019年より会員制ネットTV「シークレットトーク」を配信中。
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