【名越康文×しいたけ. 《対談》】君たちはなぜ「やりたいこと」が見つからないのか~vol.2~
vol.2
「やりたいこと」を見つけるには、まずは「端っこ」に意識を向けること
身の回りに心から愛せるものを置いておく
しいたけ.:僕は就職活動も全部うまくいかなくて30歳までバイトで生活していたんですけど、そのままバイトだけで生きていくのがすごく大変なことだというのも薄々わかっていて。その時に考えたのが、「運を傷つけない」ということだったんです。
以前、名越先生とのメルマガでの対談やブログでも話をした「チャーハンと仲良くする」というのもそうなんですけど。
――チャーハンと仲良くする?
しいたけ.:はい。バイトしていたとき、僕は勤めているお店、お店にいる人たち、そして中華料理を扱っていたお店だったので、チャーハンを愛そうと心がけていたんです。バイト先に行くのに使っていた自転車をひたすらきれいにしたり、自分の身近な何かを大事にしようって思って。
名越:大事よね、自分の使っている道具をきれいにしておくのって。僕も、メガネはできるだけ丁寧に拭くようにしています。
しいたけ.:何でそんなことをしたかというと、自分の身の回りに少しでも、精一杯愛情をかけられる存在を置いておきたかったからなんです。
何年もバイトをしていると、職場に同年代がいなくなっていく。同級生はどんどん就職して、高級ホテルとかで2000円のランチを食べてたりとかして。そういう中で、自分の身の回りに少しでも愛せるものがないと、心底、荒んでしまう感じがあって。
自分自身はもちろん、世界に対しても期待を持つことができなくなってしまいそうで、もしそうなったら、いよいよこの生活から抜け出せないんじゃないかって。そういう気持ちで、チャーハンを愛したり、自転車を磨いたりしていたんです。
名越:「自分が世界を愛せるようになっておく」っていうことが「世界から祝福されている」という感覚を育む、第一歩ですよね。それって別に倫理とか道徳じゃなくて、そうじゃないと、どんどん自分自身がきつくなっていくからなんですけど。
しいたけ.:そうなんです。おまじないみたいなものでもあるんだけど、結構、実際の効果もあって。たとえば自転車を磨いていると、まわりが「あの人はものを大事にする人だ」と思ってくれたり、バイト先のおばちゃんがおにぎりをくれたりということもある。自分にとって「運」の原点って、そういうところにあるような気がして。
だから、いまやりたいことが見つからなくて、ちょっと辛い状況にある人は、靴を磨くとか、どこか自分の生活の一部に誇りを残しておくことって大事なんじゃないかなって。「誕生日に買ったこの靴はいつも磨いて、大事に履き続ける」とか。そうすると、なんとなくなんだけど、「この靴を履いていると私に運が向く」みたいな、そういうおまじないから始まる勘違いが出てきてくれたりするんです。
「端っこ」を意識すれば、だんだんと運が向いてくる
しいたけ.:占いをやっていて感じるのは、人生の身動きが取れなくなっている人って、だいたい「先っぽ」とか「端っこ」に対する意識がなくなっているということなんです。
名越:先っぽ?
しいたけ.:さっきの靴を磨くとかもそうなんですけど、手の先や足の先の爪とか、めがねとか、髪の毛とか。
名越:ああ、わかります。
しいたけ.:脱いだ靴がそろっていなかったり、飲み物を飲んだときのカップの置き場所が机の端っこすぎるとかも、実は同じで。身動きが取れなくなっている人に限って、「ああ、そんな端っこに置いていると、肘があたったらすぐにこぼしちゃう」って思うようなところに置いてしまう。
名越:よくトラブルに巻き込まれる人っているけど、そういうことですよね。
しいたけ.:そうなんです。そういう人って「端っこに対する意識」が鈍っていて。端っことか先っぽをきれいにするだけで、トラブルが遠ざかり、逆に一気に運気が上昇するっていう感じがあって。
名越:視野が曇っていると、不要なトラブルを引き込んでしまう。「運」とか「気」って、オカルト的なイメージを持っている人も多いと思うんですけど、結構、そういう「実質的な意味」があるんですよね。
しいたけ.:それで「やりたいことが見つかる」っていうのも、もしかすると同じかなって。先っぽへの意識がしっかりしていると、目の前によぎったチャンスをつかみやすいんじゃないかと思うんです。
名越:以前、番組で教育評論家の尾木直樹先生とご一緒したんですけど、爪をマニキュアですごくきれいにされていたんです。それで、「爪、めっちゃきれいですね」て言ったら「私、2週間に1回手入れしているのよ? 先生も絶対、やったほうがいいわよ」とおっしゃるんです。
それで、一度ネイルサロンに行って、爪をきれいにしてもらった。すると、確かに変わるんですね。何が変わるかっていうと、自然と自分を大事にするようになる。
男性の方は「たかが爪ごとき」とたぶん思っちゃうんだけど、爪って、無意識のうちに視界に入ってるでしょう? そうすると、結構大きい心理的影響を受けるものなんですね。
爪がきれいだと、気持ちがふっと軽くなる。逆に爪が汚いと、なんとなく胸がざわざわしてくる。化粧もそうだけど、女性の文化って、すごく心理学的な効果を持っているんです。
爪を甘く見ている人ほど、一度騙されたと思ってネイルサロンに行ってみてほしいですね。
しいたけ.:先っぽ、大事ですよね。
名越:無意識の世界って、「端」と「真ん中」が同等なんですよ。たとえば今日、しいたけ.さんと2時間ほど話をするよね。けっこう盛り上がったり、脱線をしたりして、帰り道に「ああ、楽しかったな」と振り返ってみる。そうすると、たいてい本題じゃない、どうでもいい話を思い出すんです。
しいたけ.:ああ、確かに。
名越:意識というのは、必ず何かに焦点を当てようとするんです。でも、その裏で、無意識は全体を均等に見ている。で、僕らの行動の8割は、フォーカスのあたった意識じゃなくて、無意識の世界が決めていると思うんです。
だからこそ、「先っぽ」とか「端っこ」を整えておくことって大事なんでしょうね。意識の世界では焦点化されていないだけで、僕たちの行動は、普段意識しないところからすごい影響を受けているんです。
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第1回:【名越康文×しいたけ. 《対談》】”やりたいこと”が見つからない本当の理由
第3回:【名越康文×しいたけ. 《対談》】”やりたいこと”に導いてくれるのは”偏愛”の力
第4回:【名越康文×しいたけ. 《対談》】”やりたいこと”を見つけるために大切なこと
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名越康文(なこし・やすふみ)
1960年、奈良県生まれ。精神科医。相愛大学、高野山大学客員教授。
専門は思春期精神医学、精神療法。近畿大学医学部卒業後、大阪府立中宮病院(現:大阪府立精神医療センター)にて、精神科救急病棟の設立、責任者を経て、1999年に同病院を退職。引き続き臨床に携わる一方で、テレビ・ラジオでコメンテーター、映画評論、漫画分析など様々な分野で活躍中。
夜間飛行よりメールマガジン「生きるための対話」、通信講座「名越式性格分類ゼミ(通信講座版)」配信中。取材・依頼は株式会社夜間飛行(担当:板倉)まで。
担当:板倉
mail: itakura@yakan-hiko.com
しいたけ.
占い師、作家。早稲田大学大学院政治学研究科修了。哲学を研究するかたわら占いを学問として研究。2014年からウェブマガジン『VOGUE GIRL』で連載開始し、毎週更新の「WEEKLY! しいたけ占い」で注目を集める。現在は「note」で月間占いやコラムを発表し、作家として活動の幅を広げている。名前の由来は、唯一苦手な食べ物が「しいたけ」であり、それを克服したかったから。近著に『しいたけ占い 12星座の蜜と毒』『しいたけ.の部屋 ドアの外から幸せな予感を呼び込もう』(KADOKAWA)、『anan特別編集 しいたけ.カラー心理学 2019 春・夏編』(マガジンハウス)などがある。
しいたけ.note:https://shiitakeofficial.com/
しいたけ.のブログ:https://ameblo.jp/shiitake-uranai-desuyo/
しいたけ.Twitter:@shiitake7919
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