カレー沢薫の「バイト丸わかり図鑑」試験監督バイト編
無職になってから丸一年以上、その間ほとんど家にいたわけだが、こういう生活をしていると様々なものが衰える。
まず体力がなくなる。もはや自宅すら広い。
風呂、トイレ、冷蔵庫、全てが「遠い」と感じるし、生活必需行動さえ「ひと仕事」になってきた。
そう言った意味ではすでに私は「無職における有職者」と言っても良い。
もう一つは、コミュニケーション能力が落ちている気がする。
“気がする”、というのは何せ人間と接しないので、コミュ力が落ちているかどうかさえ、わからないからだ。
気づいたら日本語を忘れていたという事態も十分あり得る。
日に日に自分に出来る仕事が限られてきているようでならない。
今回のバイトは、そんな私にも出来る気がするバイトである。
「試験監督」。
これが今回の紹介するバイトである。
試験というのは様々あるが、NARUTOに出てくる忍者の中忍試験とかでないかぎり、カンニングなどの不正はあってならない。
よって試験会場には、受験者を監視する人間がいる、それが「試験監督」だ。
試験監督のバイトは、試験を監督するだけでなく、試験会場の設営、受験者の誘導、試験の説明、答案用紙の配布、回収、枚数があっているかなどのチェック、そして片づけなども仕事に含まれる。
また試験によっては受験票の写真と本人が一致しているかなども確認する。
替え玉や犬が混じっているということがあってはならないからだ。
だが主な仕事は試験の監督、つまり試験の間、黙って試験を見守ることだ。
もちろん、受験者からの質問や、不正などのトラブルがあれば対応することになるが、大体の試験は何事も起らず、長時間じっとしているだけになるそうだ。
これを楽と思うか、苦痛に思うかで「試験監督」のバイトの評価は大きく変わる。
苦でない人からすれば、楽で給料も良い最高の仕事、週5でTOEICや漢検をやってほしい、というぐらい「おいしいバイト」だそうだ。
苦痛な人からすると、とにかく退屈で時間がたたず、数千円で15年ぐらい働かされた疲労感を感じるそうだ
そんな「今俺がここで暴れたらどうなるのか」という妄想ばかりしてしまう、という人には、もう二度とやるかレベルの「キツいバイト」になるらしい。
つまり、向き不向きのはっきり分かれるバイトである。
基本的に楽なバイトだが、何もしないでじっとしているのが苦手という人には、むしろ大変なバイトになってしまう可能性がある。
試験は8時間の一日がかりなものもあれば、3~4時間で済むものもあるので、自分の「耐久力」に合わせて選ぶと良いだろう。
私のように意識をここ(現実)ではないどこかに飛ばして、気づいたら数時間経っているというタイプには天職と言えるかもしれない。
だがあくまで「監督」の仕事である。
目の前でインカムを使った豪快なカンニングが行われていることに気付かないほど無になるのはダメだ。当然寝るのもいけない。
試験によっては、受験者の人生を左右するかもしれないのだ、監督はもちろん答案の枚数があっているかなどは慎重にやらなければならない。
逆に言えば、きちんと意識を保ったままそこに存在することが出来れば可能なバイトである。
他のバイトに比べても特にスキルを必要としない。
力仕事もいらなければ、コミュ力もいらない、試験説明や質問に答えることはあるので、日本語を忘れているレベルでは困るが、あとは主に黙っていることが仕事になる。
むしろ試験中に受験者に対し「どこ住み?」「LINE交換しよ」などとコミュ力を発揮したら、つまみ出されてしまう。
ただ、試験と言うのは連日行われるものではないので、多くの試験監督のバイトが「スポットバイト」となる。
よって他のバイトの合間にやるか、家で壁や天井ばかり見ている、という人は代わりに試験会場を見た方が給料ももらえて良いのではないだろうか。
給料は時給と日給の場合があり、特に日給の場合はまとまったバイト代が入るので、内容からすれば、割高なバイトと言えるだろう。
個人的には、このバイトは強制的にスマホなどから引き離されるのもメリットだと思う。
現代人は私含め、仕事でPCを使い、プライベートでも気がついたらスマホをいじっている。
寝る時でさえクマのぬいぐるみのように、スマホを握ったまま寝ていることがしばしばだ。
あまり意識はしていないが、ずっとスマホを見ているというのは、脳も目も疲れる。
一日数時間でも、スマホなどネットに触らない時間を作った方がよい。しかし、ついつい気づいたら触っているのがスマホである。
試験監督のバイトをすれば、現代ではある意味貴重な「一切の電子機器に触れない時間」を作ることが出来るのだ。
つまり、バイトをしながら脳や目を休めることができるのではないだろうか。
ただ、スマホを奪われた禁断症状で、試験会場で暴れないかだけは心配である・・・。
▼関連記事▼

バイトなど仕事を選ぶとき、給料や勤務時間重視で仕事内容はこだわらないという人と、どうせなら少しでも自分の好きな分野で働きたいという人に別れると思う。今回のバイトは、人によっては「好きな物に囲まれた仕事」と言える。今回紹介するのは「パン屋」のアルバイトだ。

無職になって二度目の夏、ある日、窓からポスティングの仕事をしている人が見えた。そういう仕事も良いかもしれない、と思ったが、その日も結局一歩も外に出なかった。しかし、外に出るとつい金を使ってしまうものだ。今回紹介するのはそんな、あまりお金を使いたくない人の味方とも言える店のアルバイトだ。「100円ショップの店員」。安いだけでなく、どの商品も「これを100円で売って大丈夫か、店の社員はこの価格帯で三食食えているのか」と心配になるくらいハイクオリティだ。
※文中の社名・所属等は、取材時または更新時のものです。