ゲームで遊ぶだけじゃない!「ゲームテスター/デバッガー」のバイト内容とは?
「ゲームテスター/デバッガー」というバイトをご存知ですか? その名の通り、リリース前のゲームにバグ(不具合)がないか、テストプレイする仕事である。ゲームをしてお金がもらえるなんて、うらやましく感じる人もいるかもしれません。しかしながら、そこはあくまで仕事。ゲームテスター/デバッガーならではの苦労が、きっとあるに違いありません。
そこで今回は、バンダイナムコグループの開発会社として、ゲームソフトの企画・開発を行っている「B.B.スタジオ」を訪れ、実際にゲームテスター/デバッガーとして働いている方にお話を聞いてみました。
バグの件数は数千件!? ゲームテスター/デバッガーの実態
―はじめに「ゲームテスター/デバッガー」って、どんなお仕事なんですか?
大庭さん(以下省略)「主にリリース前のゲームをテストプレイし、バグ(不具合)がないか探す仕事です。どのような動作でバグが発生するかを開発部に伝えたり、修正されたバグがちゃんと直っているかを確認しています。ゲーム制作において、欠かせない仕事だと思います。
―縁の下の力持ちですね。普段、どのようなゲームをテストしていますか?
「私たちの会社は、テレビゲームがメインですが、グループ全体ではスマホゲームやPCゲーム、アミューズメント施設のゲームセンターのアーケードゲーム、パチンコゲームなどをゲームテスターがチェックしています」
―バグは、1つのゲームにどのくらいあるんですか?
「ゲームの内容によっても変わりますが、テレビゲームの場合で数百〜数千件ほどです。また、オープンワールドやサンドボックスのような自由度の高いゲームになると、圧倒的にバグの量が多くなります。というのも、1つのバグが見つかると、それに紐づいて、名前や説明文などのバグが芋づる式で見つかるんです」
―数千件も! 毎回それだけの数がある前提でテストするとなると、気が遠くなりますね……。ちなみに1つのゲームに、どのくらいの期間をかけていますか?
「だいたい1ヶ月〜3ヶ月。長くても半年ほどです。また、スマホやゲームのダウンロードコンテンツにおいては、サービスが終了しない限り、ずっと付き合っていきます」
―ひたすらテスト、という感じなんですか?
「はい。午前中は開発部に提出しておいた、バグが直っているか修正確認します。そして、午後は新しく入ってきたゲームの動作確認を行います。ちなみに、開発の初期段階はすぐに何百個ものバグを発見できますが、開発の後半になればなるほど見つけづらくなります。そのため、特にノルマはありませんが、繁忙期には残業だったり休日出勤することもありますね」
―どこの業界も同じですね。ちなみに休日もゲームはされますか?
「します。もちろん、楽しいから遊んでいるのですが、リリースされたゲームをいちユーザーとして遊ぶことで、新たな気付きもありますね。ただ、職業病でついついデバッグしてしまうんです(笑)」
ゲームテスター/デバッガーから企画職に?
―元々、大庭さんはゲームが好きでしたか?
「そうですね。幼い頃からパソコンで「MMORPG」や「クラフト系ゲーム」などをやっていましたし、人気のゲームはそれなりに遊んできたつもりです」
―では、昔からゲーム業界に興味を持っていたんですか?
「最初は特に志望していたわけではなく、最初に就職したのもゲーム業界ではありませんでした。ただ、将来について考えるなかで、ゲームプランナーやディレクター、プロデューサーといった仕事をやってみたいと思うようになったんです。そこで、まずはゲームの開発ラインを知るために、ゲームテスターになろうと考えました」
―ゲームプランナーやディレクターなどの企画職に就くにあたり、ゲームテスター/デバッガーは登龍門なんですか?
「弊社でもゲームテスターから企画職になった方はいますし、専門学校を卒業後にいきなり企画職に就いている方もいるので、割合的には半々くらいかな? ただ、企画職に就く上でゲームを作る流れは知っていて損はないと思います」
―たしかに。私は「ゲームテスター/デバッガー」という仕事すら知りませんでした。
「じつは、私も前職の方に教えていただいて知りました。そこから、インターネットで『ゲームテスター』や『ゲームデバッガー』と検索して応募したんです。ちなみに、この仕事はゲームの品質を管理する業務でもあるので、これからバイトをしたい方は『ゲーム 品質管理』と検索するのもオススメです」
セリフ、色、動き。どんな些細なことも見逃さない
―仕事をしていて、どんな時が楽しいですか?
「私は対戦ゲームのリリース直前に、みんなで動作確認をする時です。あくまで、動作確認ではあるのですが、やはりそこは対戦ゲームなので勝ちたいと思って本気でプレイしちゃうんですよね(笑)」
―リリース直前だとバグも少ないでしょうしね。
「そうですね。自分がデバッグしたゲームであれば、なおさら負けたくない! この時ばかりはユーザーのような気持ちで臨み、ついつい熱くなってしまいます」
―逆に、大変なことは何ですか?
「先ほど話した、自由度の高いゲームのデバッグですね。バグを発生させる選択肢が多くあるため、チェックするべき項目が膨大なんですよ。あとは、マンガやアニメが原作のゲームで、こちらに事前知識がない場合も大変ですね」
―それはどうしてですか?
「事前の知識がないと、それが正解なのかバグなのかどうか判断できないことがあるんです。例えば、このキャラはマンガではこういうセリフを話しているのに、ゲーム中では全然言わないとか、アニメではビーム兵器が連射できるのに、このゲームではできないとか」
―そういった原作との違いもチェックしないといけないんですね。それは大変だ…。
「そうですね。もっと言うと、私たちは細かい色の違いなども提出するようにしています。原作と違う部分があれば、どんな些細なことでも開発部に報告するようにしています」
―となると、テスト前に原作もしっかりと見ておかないといけませんね。
「はい。あと、ファミコンなどのリメイク作品も難しいですね。というのも、私はファミコン世代ではないので、知識もなければ、今のゲームと操作感も全く違う。クリアすることさえ困難です。なので、その場合は昔の攻略本を持ってきてデバッグしています」
―デバッグ作業そのものだけでなく、事前準備がかなり重要ですね。
「そうですね。でも、大変だからこそ、携わったゲームが世に出た時はとても嬉しいです。また、そのゲームが高評価をもらったり、面白かったという話を聞いた時は、デバッガー冥利に尽きます。その一方で、ネット上で『デバッグしっかりしろよ』と言われるのは辛いですね。もちろん、見つけられなかったことは不甲斐ないですが、家の回線だったり、プレイする環境によってもバグが起こる可能性は捨てきれませんから……」
プログラミング知識や資格は不要! 誰でも始められる「ゲームテスター」
―この仕事を通じて、どのようなスキルが身につきましたか?
「1つは伝達力。バグを見つけたとしても、開発側に正確に伝わらなければ意味がありません。そのため、どういうバグが、どのようにしたら発生するのかを伝える力が磨かれていきます。私の場合、手順はもちろん、発生した瞬間の動画も貼るようにしていますね。あとは、『忍耐力』と『集中力』ですね。例えば、壁にキャラクターの体を当てて、1分では何も起きないけれど、5分間やり続けると壁抜けが発生することがあります。角度や場面など、それが発生する条件も変わるので、あらゆるケースを試さないといけない。自然と、集中力や忍耐力が培われていきます」
―そんなことまで。ものすごいレアケースも想定して試しているんですね。
「とはいえ、デバッグするにつれて、バグが起こるであろう動作もわかってきます。経験を積めば、コツも掴めてきます」
―どんな人が向いていると思いますか?
「ネット上にアップされているバグ画像や動画を見てワクワクする方は向いていると思います。プログラムの知識とかは必要ないですし、特別な資格も不要。なので極論、あまりゲームをやったことがない人でも、『挑戦したい!』という熱意があればバイトを始められると思います」
―逆に向いてないのは?
「ゲームをプレイするだけで、お金がもらえると勘違いしている方ですかね。私たちが遊ぶのではなく、ユーザーが遊べる状態まで持っていくのが我々の仕事です。仕事としてゲームをプレイするという認識が甘いと、その方自身も辛いと思います」
―なるほど。ちなみに御社では、ゲームテスターは何人くらいいるんですか?
「約30人ほどです。そのうち、1/3が専門学校や前職でゲームに携わっていた方。そして、2/3が未経験者で、最近では女性も増えてきましたね。また、バイトのメンバーも8割ほど在籍しており、週5勤務の方から週1勤務の方までいます。是非、興味のある方はチャレンジしてみて欲しいですね」
文・取材・撮影/小野洋平(やじろべえ)